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男たち 女たち  作者: yukko
氏郷
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52/73

大崎

中井良太との面会を経て、大崎誠は両親と対峙した。

「子どもは中井良太の子でもなく、ましてや自分の子どもではない。」と改めて伝え、中井美穂子には別の男性が居て、その男性の子どもであることを告げた。

そして、中井美穂子の父親の名前を告げた。


「中井美穂子さんの父親は、お父さんが良く御存知の方です。」

「知っているはずが無い。

 葛西という苗字に知り合いは居ない。」

「いいえ、葛西は中井美穂子さんのお母さんの旧姓です。

 お父さんの名は、藤井宗助さんです。」

「藤井!」

「良く御存知の方ですよね。」

「あの娘………宗助の娘だったのか………。」

「はい、そうです。」

「何を聞いた。」

「中井美穂子さんとは、あの事故以来会っていません。

 彼女から聞いたのではありません。」

「なら、誰からだ。」

「僕のお義父さん……妻の父です。」

「余計なことを!」

「余計? 知らねばならない真実を調べて下さったんです。」

「誠!」

「娘………何故、何をしたいの? あの女!」

「お母さん、分かりませんか。

 父親の会社を大崎に盗られた……そう思っていると考えられませんか?」

「盗る? そんなことして無いわよ。」

「中井さんが、そう思い込んでいる可能性も考えられないんですか?」

「そうね……そうだわ、思い込みは激しそうだわ。」

「それと、子ども……学が大崎の血を受け継いでいないことと関係があるのか。」

「あります。僕は何度も言いますが、付き合ったことは一度もありません。

 だから、僕の子どもではない。

 それなのに、中井さんはこの家に来たんですよね。

 大学の頃から何時までかは知りませんけど………。」

「あぁ、来ていた。」

「僕と結婚したら、彼女はこの会社の社長夫人に成れると思う可能性も無いとは言

 えない。

 違いますか?」

「我が社の社長夫人に成る為に来ていたと言うのか?」

「はい、それが彼女の望み。」

「やっぱり! あの女は陸(ろく)でもないわ!」

「父親の会社を盗られた、と思っているのだからであって……。

 そう思っても何の不思議ではない。」

「盗ってないって言ってるでしょう。」

「それは、お父さんでないと分からない。

 違いますか、お父さん。」

「……あの時、宗助は病気になった。

 宗助は優れた技術者で新しい機械を作ったり、凄かった。」

「あなた………。」

「宗助が倒れた時、俺に宗助が電話して来たんだ。

 白血病……だった……助からないことだけは、俺でも分かった。

 治療方法が無いんだ。

 助からない。

 宗助は俺に全て渡した。

 会社の登記の変更を俺に頼んだんだ。

 役員変更の手続きを……役員の名に俺の名を……と……。

 有限会社だった。

 宗助は資本金300万円を何とか工面出来たが、株式会社に登記出来ない。

 誠も知っている通り、株式会社は資本金が1,000万円以上ないといけない。

 だから、有限会社で設立するしかなかった。

 最低役員数も取締役1名で済むのが有限会社。

 株式会社は取締役3名に加えて監査役1名。

 取締役の任期が無いのは有限会社、株式会社は2年と定められている。

 全てのハードルが株式会社は高い。

 社員数は50名以下と定められている有限会社だが、資本金が増えないと従業員

 を増やすことは無理だ。

 宗助の会社には、有限会社が合っていた。

 宗助は頑張ったんだ。

 頑張ったけど………病気には勝てなかった。」

「それで、お父さんは引き受けたんですね。」

「あぁ、声を掛けられて嬉しかった。

 本当は二人で会社を作りたいと話していたんだ。

 だが、俺の親が許さなかった。」

「そうですか………では、藤井厚子さんと美穂子さんの生活への保障は?

 しなかった?」

「会社には余裕はなかったんだ。

 借入金は多くてな。

 その全てを従業員と、それから厚子さんに見せた。

 従業員の中でも工場長は知っていた。

 社長の下が工場長だったんだよ。

 専務とか無かった。」

「そうですか。」

「宗助は新しい機械の開発に挑んでいて、それを完成させたけど、借入金を返すま

 でには至らなかった。

 その前に病気で死んでしまった。

 そうか……あの時の幼い女の子が……そうか………。」

「どうしますか? これから………。

 僕は子どもを養子にしないと言いました。

 あの事故の車の中で……。」

「子どもは本当にお前の子じゃないのか?」

「有り得ない! 僕が愛していたのは別の女性だと知っているでしょう!

 僕と慶子を引き離したのは、誰ですか!

 お父さんとお母さんだ! 違いますか。」

「引き離した覚えはない。」

「そうよ、そんなことしてないわ。」

「じゃあ、何故? 何故、慶子は僕に別れて欲しいって言ったんだ。」

「………あの女かもしれないわ。」

「えっ?」

「何度か持って来ていたのよ。」

「何を?」

「カセットレコーダー。」

「そう言えば持って来ていたな。」

「ボンとテーブルに置いて、『これから録音します。』ってボタンを押した。」

「そうだったな……何度か……あったな。」

「もしかしたら、その内容を聞かせたのもしれないわ。」

「関係ない! 慶子は無関係だ。」

「そうね、無関係だわ。

 でも………カセットって編集出来る? 録音した内容の編集。」

「編集?」

「途中だけにするとか………。

 それが出来たなら、『結婚は許さない』って言葉だけ慶子さんに聞かせることも

 可能でしょう。」

「部分消去……消去ヘッドで出来る。」

「そう……じゃあ、それをしたのよ。

 慶子さんとの結婚とか、誠の口から一度も出なかったはずよ。

 誠から聞いてないのに反対出来るはず無いでしょ。」

「中井美穂子が………藤井宗助の娘だと知っていたら……あんな無下な扱いはしな

 かった。

 知っていたら………。」

「慶子さんとのことは、慶子さんに聞くしかないわ。

 今になって、そんな話をされても……あちらは迷惑なだけよ。」

「それは………そうだね。」

「会うことにする。

 藤井宗助の娘の中井美穂子さんに……。」

「会って何を話すの?」

「先ずは謝罪する。

 子どものこと、酷い話をした。」

「そうね、誠の子じゃないのよね。」

「うん。」

「それから、充分に金を渡せなかったことも謝る。

 厚子さんの苦労が分かっていたのに、会社を運営することだけにしか頭が回らな

 かった。

 上手くいくようになってからは、忘れていた。」

「藤井厚子さん母子の存在を?」

「あぁ………忘れてしまっていた。

 暮らしが立ち入っているかどうかなど、忘れてしまっていた。

 けどな、宗助の命日には、墓参りと御供物料を渡していたんだ。

 厚子さんが再婚するまでは、厚子さんに渡した。

 再婚してからは、厚子さんのご両親あてに御供物料だけ郵送した。

 厚子さんのご両親の住所宛てに今年も送ったんだ。現金書留で……。

 墓参りは必ずしたよ。

 祥月命日に近い休みの日に………一人で行っている。今年も行った。」

「それ、彼女は知ってるのかな?」

「さぁ………。

 兎に角、謝罪する。」

「あぁ、そうして。

 それから僕には子どもは無理だよ。

 無精子症なんだから………諦めて。

 会社は子どもでは無くて、他の優秀な人に委ねた方がいい。」

「誠!」

「居るだろう。良く見て見なよ。

 僕はお父さんの会社で社長になる気は無いからね。」

「誠!」

「何言ってるのよ。」

「前から決めてたことなんだ。

 僕よりも優秀な社員が居るのに、僕が社長の息子というだけで社長になるのは変

 だ。

 ずっと、そう思って来た。」

「そ………そんな…………。」

「………誠、考え直せ!」

「考えが変わることは無いよ。

 いつか話すつもりだったけど、子どもが無理だと分かった今が一番最適な時。

 そう思った。」

「誠っ!」

「あぁ……………こんなことになるなんて………。」

「お父さん、お母さん、中井美穂子さんとのことは終わりにして下さい。

 もう、こんなこと終わりにして欲しい。」

「………分かった。」


両親が中井美穂子とどんな話し合いをするのか誠には分からなかった。

ただ、僕に誠は言った。


「これで、終わってくれると信じたいです。」


誠の本心からの言葉だと僕は思った。

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