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男たち 女たち  作者: yukko
氏郷
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51/73

美穂子と良太

良太が居る部屋に華子と誠は入った。

襖を開ける時、二人は目を合わせた。

二人頷いて、誠が襖を開けた。


「こっちに座りなさい。」

「はい。」


目の前に中井良太が居た。

会うのは病院で出逢ったのが初めてだった。

あの事故の日と、その翌日に会った。

会うのは、あれ以来だ。

カーテン越しに良太の声が聞こえたことはあったが、華子は会わなかった。それは、誠も同じだった。


「あ!…………済みませんでした。」

「頭を上げて下さい。」

「でも………事故を起こしたのは家内です。」

「事故は中井美穂子さんが起こしたのではありません。

 巻き込まれたのです。」

「でも……怪我をさせてしまいました。」

「それは御互い様です。」

「………ありがとうございます。」

「自己紹介が遅れました。申し訳ございません。

 僕が大崎誠でございます。

 そして、こちらに座っているのが、家内の華子でございます。」

「大崎華子でございます。

 今日はお越し下さり誠にありがとうございました。」

「あ…………あの………えっと………俺、じゃない。

 僕は中井良太です。 美穂子の夫です。」

「中井さん、僕の両親が多大なご迷惑をお掛けして本当に申し訳ございません。

 何とか両親を止めます。」

「…………………………。」

「お子さんは、どうさなっておられますか?

 怖い想いをなさっておられることと存じます。」

「本当に、お子さんが一番の被害者で……申し訳ございません。」

「子どもは! 大丈夫です。俺が居ますから!

 俺は子どもを誰が何と言っても渡しません。

 俺の子です。俺がちゃんと育てます。」

「僕はお子さんを奪うことなどさせないと約束致します。」

「本当ですか?」

「はい。」

「ただね…………中井さん。

 この話を誠君に持ち掛けたのは、君の細君なのだよ。」

「美穂子が………そんな………。」

「はい、信じたくないことでしょうけれども………。

 この事故の時、車の中で奥様から『養子にして欲しい。』と言われました。

 それで『養子に出来ないのなら、慰謝料を払って欲しい。』と………。

 僕は、そのお申し出をお断り致しました。

 養子にしないのなら慰謝料の支払いを求められても、僕にも妻が居ます。

 妻のことを思うとお断りするのが最善だと思いました。

 そう奥様が仰ったとしても、僕の両親が酷いことを行っているのは事実です。」

「養子にしないのなら、金を払えと言ったのですか? 美穂子が………。」

「はい。」

「…………………………………。」

「中井さん、お教え願いたいのです。」

「俺が教える……ですか? 何を?」

「ご結婚の前に、細君はご懐妊されていたと伺っております。

 それは確かなのですか?」

「はい、妊娠していました。」

「ご結婚なさって間もなく、お子さんが産まれたと伺っております。

 それも間違いないでしょうか?」

「はい………そうです。

 あの、調べたのですか?」

「申し訳ありません。興信所に調査を依頼しました。」

「興信所………。

 そうなんだ………就職じゃなかったんだ………馬鹿だな、俺………。」

「中井さん………。」

「これで、やっと両親に親孝行できると喜んで………。

 美穂子と学に、いい暮らしをさせてやれると喜んで………。

 馬鹿だな……俺………。」

「馬鹿じゃありません。

 そんな風に仰らないで下さいまし。

 お願いでございます。

 そんな風に……仰らないで……。」

「………奥さん……ありがとうございます。

 どこまで分かっているんですか?

 学のこと……どこまで分かって、俺を呼んだんですか?」

「今、お話ししましたことと……お子さんが中井さんの子どもではない可能性あり

 ということでございます。」

「そこまで………話します。

 美穂子は妊娠していました。」

「はい。」

「俺の子じゃありません。

 誰の子など聞いて居ません。

 俺はずっと美穂子が好きでした。

 だから、どんな状況でも受け入れる。

 美穂子が笑顔になってくれれば、それだけで良かったんです。

 もう妊娠8ヶ月でした。

 直ぐに入籍しました。

 結婚式は出来ずに……でも、今までそれなりに幸せだったんです。

 学は美穂子に似てなくて、多分……父親に似ているんですよね。

 それが少しだけ寂しかった。

 でも、それも全て受け入れると心に決めて結婚したんです。

 誰が父親でも俺にとっては俺の子。

 だから、誰にも渡したくありません。

 おむつも替えた。夜泣きした時、夜中に俺が背負って外を歩いたんです。

 俺も美穂子と一緒に育てて来たんです。

 成長を見て来た。

 俺は……誰にも渡したくないんです。

 学は俺の子!………俺の……息子です。」

「中井さんのお子さんです。

 他の誰のお子さんでもありません。

 中井良太さんの息子さんですわ。」

「…………………奥さん………ありがとう………ありがとう。」


中井良太は泣いていた。

中井良太の「学は俺の子!」という言葉と、中井良太の号泣を僕も母も隣の部屋で聞いた。

家内……妻のこと。昭和の頃まで使われていた言葉。家の中に居る人を意味する。専業主婦が多かった時代の言葉である。

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