結婚
私は病院の特別室のベッドに臥していた。
白い天井、白い壁、そして白いシーツ。
辺り一面が白い世界だった。
「良かったわ……良かった………。」
「お母様………?」
「そうよ、お母様です。
本当に良かったわ。」
「雄一さんは?」
「……あの方は……大丈夫よ。」
「お兄様は?」
「大丈夫ですよ。」
二人はシートベルトをしていたから大きな怪我をしなくて済んだ。
私は雄一と兄の身体のことまで考えていなかった。
⦅そうだ、事故を起こしたのだから怪我をするんだ。⦆と今になって身体が恐怖で震えた。
私は自分だけが怪我をすると目論んでいた。
そして、自分の命も危なかったと聞くと、恐ろしくなった。
後部座席で私はシートベルトを締めていなかった。
私の身体の傷は深く、広範囲に及んでいた。
娘の身体に小さな傷さえも残したくないと両親は思った。
だが、それこそが私が望んだことだったのだ。
――傷が残れば雄一に結婚をしてもらえる――それが、雄一に事故を起こさせた私のあの行動だ。
私は私が思い描いた未来を手中に入れる為の行動だった。
私の元へ兄と雄一が来たのは翌日だった。
兄は私を責めた。
「どうして、あんなことしたんだ!」
「何のことを仰ってるの? お兄様。」
「華子っ! 自分が何をしたのか分かってないのか?」
「氏郷………僕が華子ちゃんに怪我をさせた事実は変わらない。」
「何を言ってるんだ! あの事故を起こしたのは華子の行動だ。
君は悪くない。」
「だが、加害者は僕だ。それも変わらない。」
「雄一………君に責任はない。
僕はどこでも証言する。」
「氏郷………。」
「お兄様、私の怪我の方が酷いこと御存知なの?」
「知ってる。が、それは君の責任だ。」
「雄一さんが仰ったでしょう。
加害者は雄一さんだと……私は被害者。
違うの? お兄様。」
「違う!」
「そうだ。」
「雄一………。」
「その通りだよ。僕が加害者です。
これから、償います。
本当に申し訳ありませんでした。」
唯一が深々と頭を下げた。
私は雄一に「その言葉、忘れないで下さいまし。」と伝えた。
雄一は「勿論です。忘れません。」と言ってくれた。
兄だけが憤慨していた。
翌日、両親が見舞いに来た時に、私は両親に話した。
「雄一に責任を取って貰いたい。」と………。
「責任……を雄一君に?」
「ええ、取って頂きたいの。
怪我をしたのですもの。
傷が残るのでしょう?」
「ええ、ええ、そうよ。
女の子の身体に傷を残して、責任を取って頂かないといけないわ。
ねぇ、あなた、そうでしょう?」
「だが、氏郷の話によると……華子にも責任はある。」
「お父様! 私の身体に傷が残って……。
それでも雄一さんは悪くないの?
こんな身体になったのですもの。
もう結婚は出来ないと思います。
だから………雄一さんに私と結婚して頂きたいの。
私に罪を償うと仰って下さったのよ。
その言葉が嘘かどうか……ハッキリさせて下さい。
お父様、お願い………お願いです。
私………雄一さんの妻になりたいの。」
「華子………まさか………。」
「あなた、早く雄一さんに華子との結婚の話をつけて下さいまし。」
「だが…………。」
「あなたは華子が可哀想だと思われませんの?」
「…………分かった。話をしてみよう。」
私は密かに笑みを漏らした。
そして「お父様、お母様、ありがとうございます。」と言った。
◇◇◇◇
その一ヶ月後、雄一は婚約を解消した。
そして、私と婚約して直ぐに結婚した。
雄一との結婚式は盛大に執り行われた。
高嶋家の令嬢の結婚に相応しい煌びやかな挙式だった。
兄は最後の最後まで私と雄一の結婚に反対した。
兄は「こんな結婚式に参列したくない!」と言ったが、両親が許さなかった。
終始、兄は私に敵意がある視線を寄せていた。
それが、私の結婚式だった。
兄の心など気にもしていなかった。
勿論、心深くに忘れられない女性を秘めたまま結婚した夫・雄一の心の傷も気に掛けてはいなかった。
ただ雄一への想いが叶ったことを喜び、これから先、雄一が私を捨てられないことに自信を持っていた。
愚かしいくらいに……。
私はあの頃、醜い心の女だった。




