三叉路
兄に私は頼んだ。
「雄一に結婚のお祝いの品を手渡したい。」と………。
兄は何も知らずに喜んで、雄一を我が家へ招いた。
両親からの祝いの品もあったからだ。
今の華子は、その名から遠く離れてしまった。
心には美しい華は咲いていない。
あるのは、ただ一つ【奪うこと】。
雄一の妻になることの為には、どんなことも、罪も、犠牲も躊躇わなかった。
その時がやって来たのだ。
「ご結婚なさいますのね。」
「ええ。」
「これ、私からのお祝いですの。受け取って下さいますね。」
「ありがとうございます。」
「まぁ、華子さんまで……。」
「良く気が付く娘に育ってくれた。
お父さんは嬉しいよ。」
「お父様………。」
「私も嬉しいよ。兄として……誇らしい気持ちになる。」
「お兄様………。」
「本当ですよ。私もそのように思います。」
「お母様………。」
その時の私には、父と母、そして兄のことを思う余裕はなかった。
その日、兄・氏郷の真新しい車が駐車場にあった。
兄は雄一に「運転してみるか?」と聞き、辞退する雄一に「いいから運転してみなよ。」と運転することを勝手に決めた。
このことは前日に兄から聞かされていた。
「雄一は車が好きなんだ。だから、僕の新車を運転して貰うんだ。きっと喜ぶ。」と……。
華子は兄に頼み込んだ。
「お兄様、新車で駅まで送って下さらない?」
「駅まで? どこに行くんだ?」
「お買い物に行きたいの。」
「仕様がない。連れて行ってあげるよ。」
「お兄様! 大好き!」⦅本当に大好きよ。⦆
運転席には雄一が座っていた。
兄は雄一に「華子を駅まで送ってやってくれ。頼む。」と言った。
雄一は「それなら君が運転すべきだよ。」と言ったが、兄は「運転は君に決めたから。」と言った。
兄が親友の雄一を大切に想っていることを誰もが知っていた。
兄の新車は雄一の給与では買えない。
だから、運転させたいと思ったのだ。
兄が助手席に乗った。
私は後部座席に乗った。
そして、雄一が運転する車はゆっくり発進して高嶋邸を出た。
最初は雄一の婚約者の話と、兄の恋人の話で前の座席の二人が盛り上がり、華子の存在は空気のようだった。
華子は場所を決めていた。
高嶋邸から少し先に三叉路がある。
そこを左折する。
その時、車は減速する。
場所は左折する三叉路。
私は、その三叉路の少し前に急に話し出した。
そして、後ろから雄一の運転している左手を……ギアを握っている左手を……上から強く握った。
ギアチェンジを妨げるように………。
兄の「華子ぉ!」という怒鳴り声と、雄一の「離せっ!」という声がした。
兄は私の手を雄一の手から離そうとした。
雄一は急ブレーキを掛けつつハンドルを強く握った。
二人の顔色は青褪めていた。
車は三叉路の傍の電柱に衝突した。
その瞬間、私の身体が車の中で浮き上がり、前の座席に叩きつけられた。




