大崎誠
華子が新婚旅行から帰って来た。
実家に挨拶に来たのは、嫁ぎ先での挨拶が全て終わってからだった。
僕は不安になった。
華子は舅、姑と同居をしたからだ。
一番最初の人生でも、二度目の人生でも、川口孝三郎は離婚した。
離婚の原因は「孝三郎の両親と妻との折り合いが悪い」ことだった。
時が遡って戻って来た二度目の人生の時に僕は孝三郎に注意した。
「奥さんを誰よりも大切にしろ。」と……だのに、離婚に至った。
そして、その後、華子と付き合ったにも拘らず、華子との別れた。
華子との別れを決定付けたのは、「離婚した元奥さんとの再婚」だった。
華子を泣かせて再婚したのにも関わらず、孝三郎はまた離婚に至った。
だから、この三度目の人生でも無駄であっても言うつもりだ。
「奥さんを誰よりも大切にしろ!」と………。
二度目の人生では、華子に申し訳ない事をした。
矢沢和宏も孝三郎も、僕が華子のことを話してから付き合いが始まった。
話さなければ良かったと後悔したのは、華子が交通事故で亡くなった後だった。
この三度目の人生では二度と誤らない。
雄一だけではなく、華子にも幸せになって欲しい。
今度こそ兄として妹の幸せも望む。
◇◇◇◇
華子が実家に挨拶にやって来た。
その日は両親だけではなく、僕と妻子、そして叔父と叔母や従兄弟達もやって来た。
大崎誠の親族には、それぞれの家を訪問して挨拶したそうだ。
それなのに、高嶋家には一度で挨拶を終えるように姑が言ったそうだ。
そんな姑と同居で華子は大丈夫なのか――不安が広がっていった。
「お義父さん、お義母さん、お義兄さん、お義姉さん。
それから、親戚の皆様。
只今戻りました。」
「お帰り。」
「お帰りなさい。」
「今日は無理を言って、お集まり頂き本当にありがとうございます。」
「誠君が忙しいのだから、一度で済ませるのは当然だよ。」
「集まったことなど何でもありません。
ただ、叔母として願うのは、華子を大切にして頂きたいことだけです。」
「それは、当然のことです。」
「その言葉、決してお忘れなきよう願いたいですな。
こういう挨拶しか、なさる気が無い。」
「叔父様……。」
「華子、大崎家の親族には集まって頂いたのではないのだろう。
そちらのご両親と一緒に挨拶回りをしたのだろう。
高嶋家はどうでも良いような扱いだから、君のことを案じているのだ。」
「叔父様……。」
「申し訳ございません。」
「謝られるよりも、このような扱いをそちらで華子が経験しなくて済むようにして
頂きたい。」
「氏家!」
「兄様、兄様は何も言えないだろうから私が代わりに言っただけです。」
「氏家、止めなさい。」
「………しかし………。」
「氏家。」
「………はい。」
⦅家柄が釣り合っても、こんな頼りない男。⦆
「決して高嶋家を侮ったりしておりません。」
「誠君、私はそんな風に思っていないよ。」
「お義父さん、ありがとうございます。」
華子はほとんど話さなかった。
終始、俯いていた。
⦅この結婚は間違いではないだろうか。
こんな頼りない男が……自分の親と妻を同居させる?
両親と何かあっても、華子は間に入って貰えないのじゃないか?⦆
華子が夫と帰る時、僕は華子に話した。
「華子、何かあったら相談に乗るからね。
電話を架けて来なさい。」
「お兄様、ありがとうございます。
でも、大丈夫ですわ。」
「絶対に無理しないと約束してくれないか?」
「お義兄さん、安心して下さい。
僕が居ますから……。」
⦅君だから不安なんだ!⦆「頼みます。僕にとって、たった一人の妹です。」
「はい。」
華子は夫と帰って行った。
華子の友人夫婦のような仲が良いと思えない夫婦の姿だった。
あの吉田幸代と進のような夫婦になって欲しいと切に願った。
◇◇◇◇
誠は自宅へ帰る車の中で苛立っていた。
高嶋家を侮る気など露ほども無い。
だが、親族宅への挨拶回りをした大崎家が、高嶋家には親族宅への挨拶回りをしないと決めて通達した。
そうだ、通達だ。
否と言わせないと決めて、日時まで指定した。
両親が新婚旅行中に勝手に決めて、通達したのだ。
誠は、高嶋家でどんな嫌みの言葉も受け入れるしかないと思った。
どのような叱責も受けるつもりで挨拶に行った。
こんな挨拶を高嶋家の当主である高嶋氏晴は受け入れた。
意見を言う弟に「止めなさい。」と止めてくれた。
⦅器が違い過ぎる。うちの両親とは違う。⦆と誠は思った。
もう二度と高嶋家を侮るような行為を両親にさせないと心に決めた。
助手席をチラッと見ると、妻の華子は終始俯いている。
辛かったのだろうことは分かる。
「華子、守るから……君を守るから……。」
「………はい。」
一生、妻を守ろうと誠は心に決めた。




