婚約と結婚
雄一は愛子と愛を育み、孝三郎は良美と愛を育み始めていた大学4年生の頃、僕も愛を育んでいた。
上田尚子と付き合っていた。
僕らは三人とも愛する女性と将来を約束していた。
一番早く婚約したのが雄一だった。
大学在学中に婚約した雄一。
挙式は卒業後の秋に決まった。
華子の気持ちが雄一から離れてくれることを願って、なるべく会わせないようにしてきたが、僕の不安な気持ちは消えていない。
そんな日を過ごして、秋が深まったある日のことだった。
華子が父に懇願したと聞いた。
僕は「雄一のことですか?」と父に聞いた。
「何故、雄一君の名前が出たんだ?」
「華子がお父様に懇願したのでしょう?
それで僕は雄一のことかと思いました。」
「違うよ。華子が懇願したのは、華子の友人のことだ。」
「華子の友人?」
「氏郷さんは御存知ではありませんの?
華子さんの初めてのお友達ですわ。」
「華子に友人が居るのですか?」
「まぁ、氏郷さんったら……。」
「氏郷、華子は何時までも君の後ろを付いている訳じゃないよ。」
「僕の後ろ、ですか。」
「そうですよ。華子さんは幼い頃からお兄様が大好きですわ。
中学校まで本当にお友達が居ませんでしたもの。
氏郷さんに遊んで貰いたくて、毎日待っていたでしょう。」
「あぁ、そうですね。」
「それが、高校生になった途端、お友達が出来ましたのよ。」
「そうだったんですか。」
「本当に宜しゅうございましたわ。ねぇ、あなた。」
「そうだとも、本当に良かった。」
「華子にお友達が出来たんですね。」⦅そう言えば前の位人生でも居たな。⦆
「可哀想な子なのよ。」
「華子のお友達が……ですか?」
「ええ、九州から親戚の家に養女に来たんですって……。」
「養女、ですか……それは辛いでしょうね。」
「幾ら養女と言えども、結婚させて生まれた男児を養父母の子どもにするなど、言
語道断だ!」
「今、何と仰いました?」
「その華子の友達は結婚させられるのだそうだ。
そして、男児を必ず一人産まないといけないそうなんだ。
産まれて来た男児を養父母の子どもにする為に、な。」
「それは、酷い話です。」
「そうでしょう。
だから、華子さんは助けてあげて欲しいとお父様に頼んだのです。」
「助けるって、どうなさるのですか?」
「華子から頼まれたのは、友人の見合い相手を見つけて欲しい、ということだ。
次男、三男の縁談を見つけて欲しいと言って来た。」
「それは、難しいですね。
次男とか三男とかあまり聞きません。」
「うん、そうだ。
君の友人の中に次男か三男は居るか?」
「居ませんし、第一、皆、付き合っている女性が居ます。」
「だろうね……社で聞いてみるか。」
「あなた、私は実家で探してみますわ。」
「恋愛結婚は出来ないのでしょうか?」
「高校を卒業して20歳になったら結婚させると養父母が言ったそうだ。」
「それは……酷いですね。」
「華子からの頼みだ。それに産まれてくる子まで決められるのは不憫だ。
だから、何としても探さねばなるまい。」
「あなた……お願い致します。」
「うむ。」
華子の気持ちが友人に向いていることなど,、僕は知らなかった。
華子の願いを受けて、父はまだ高校生の華子の友人の為に縁談を探した。
華子の初めても友人・吉田幸代の縁談を父も母も見つける為に多くの人に幸代の話をした。
そうするうちに幸代の見合い相手が見つかった。
父の会社の取引先の男性社員・真鍋進。
華子が望んでいた三男であり、実家が農家で婿養子も可能だった。
父は吉田幸代の養父母と会った。
婿養子が可能だということと、有名大学を卒業し東証一部上場の企業に勤務していることが吉田幸代の養父母の心を捕らえた。
吉田幸代の養父母は感謝して、まだ高校生の幸代との見合いの話を進めた。
「華子、君の友達は本当にこれでいいのか?」
「お兄様、私はちゃんと聞きました。
さっちゃんは、婿養子に来てくれたら二人以上男の子を産まなくて良いから助か
った!って言ったのよ。
だから、良かったの。
私はそう思っているの。」
「それなら、良いのだけれど……高校生なのに、もう結婚なのか……。」
「どちらにせよ。20歳になったら結婚しないといけないのだから良いって……
そう言ってたわ。」
「哀しいな……恋の一つも出来ずに結婚か……。」
「お母様もそうだったから……お相手の方が良い方なら……。」
「お母様の時と今とは違う。」
「でも………婿養子に来て下さるなら……まだ幸せかもしれないから……。」
「そう言ったのかい? 友達は……。」
「ええ………彼女が寂しくならないように私は生涯仲良くするわ。」
「それは良いね。」
その後、僕達、雄一、孝三郎、そして僕の三人は次々と婚約して、卒業後に結婚した。
無事に雄一は愛する女性と結婚出来た。
僕はホッと胸を撫で下ろした。
◇◇◇◇
僕の結婚式の日。
僕は雄一夫妻と、孝三郎、そして高校の時の友人である矢沢和宏が披露宴に来てくれた。
僕の視線は、時々華子へ向かう。
華子は終始俯き加減で泣いているかのように見えた。
華子の視線の先には雄一が居た。
やはり、まだ華子の心を捉えて話さないのは雄一だ。
⦅華子が完全に諦めてくれるのを待つのか、それとも僕は動く方が良いのだろうか。⦆などと考えてしまったのだ。披露宴の最中に……。
隣で美しい花嫁姿の尚子がそっと僕に耳打ちした。
「華子ちゃんのこと気になるの?」
「うん……まぁ……。」
「仲が良いものね。」
「そうか?」
「うふふ………。」
披露宴が無事に終わり、華子は両親と共に自宅へ帰って行った。
帰る前に華子は尚子に「今日から『お義姉様』と呼ばせて下さい。兄共々よろしくお願いします。」と大人のような挨拶をして僕は驚いた。
僕に向かって微笑んだ華子は「お兄様、お義姉様に嫌われないようにして下さいまし。」と憎まれ口を叩いた。
振り袖姿で新日本髪を結っている華子。
頭を軽く叩くわけにはいかず、睨んでやった。
家族と別れて、尚子と二人で二次会の会場へ向かった。
二次会の会場で雄一夫妻と孝三郎、そして和宏と話をした。
「おめでとう!」
「ありがとう。次は孝三郎だな。」
「あぁ、参考にさせて貰おと思っていたんやけどな。」
「おう、参考にしてくれよな。」
「ならへんかったわ。」
「どうして?」
「奥さんが美し過ぎて……雄一の時も参考にはならへんかった。
美し過ぎる新郎新婦を二組も続けざまに見せられたら……。
そりゃあ、もう………敵いまへんわ。」
「何を言ってるんだ。」
「それはそうと……可愛いな。氏郷の妹さん!」
「そうか?」
「いっつも綺麗な奥さん見てたら、妹さんが霞むのか?」
「可愛いか?」
「羨ましいな……俺もあんな可愛い妹が欲しいわ。」
「いつでも、やるぞ。」
「嘘ばっかり……仲が良いんですよ。華子ちゃんと……。」
「やっぱり! そりゃそうやな、妹やさかい。」
「孝三郎、雄一、愛子ちゃん……こっちは僕の高校の時の友人で矢沢和宏。」
「初めまして。僕は谷川雄一です。こっちは僕の妻。」
「愛子です。」
「初めまして、矢沢和宏です。」
「初めまして、俺は川口孝三郎です。」
「初めまして、矢沢和宏です。」
「和宏は女性と話すと赤面するんだ。
だけど、それは恋心じゃないから、雄一、安心して。」
「分かった。」
「済みません。僕は……どうしても顔が赤くなってしまうんです。」
「僕と話すのは変わらないんですね。
でも、僕の妻とは赤くなるのですか?」
「済みません。」
「私と何度か会ってるのよ。でも毎回、お顔が真っ赤なの。」
「そりゃ、大変やな。」
「そうなんです。困ってるんですよ。」
「恋人が出来たら変わるさ。」
「恋人……君と違って僕は見た目が良くないからなぁ……。」
「結婚するのは見た眼よりも性格だろう。」
「氏郷の妹さんでも真っ赤にならはる?」
「氏郷の妹さん? 今日、初めてお会いしたので……。」
「華子、か………和宏、顔、真っ赤になったか?」
「分からないよ。」
「どう思わはりました? 俺は可愛い子やな、と……思いましたわ。」
「可愛い……ですね。」
僕は思い出していた。
この会話があったから、僕は矢沢和宏を父に華子の見合い相手に推薦したのだ。
そして、この会話を覚えていたからこそ、和宏の後に孝三郎に華子を勧めたのだ。
でも、和宏も孝三郎も華子とは結婚に至らなかった。




