夫と妻
父子家庭には支援が無かった。
和宏は一人で二人の幼子を育てられなかったのだ。
それで、娘が残した子を育てたいという切なる願いを訴えた亡き妻の両親に子どもを委ねた。
和宏の両親は、孫に会えなくて「寂しい。」と言っている。
全く会えない訳ではないが、会いに行くにも息子の家に行くわけではないので、敷居が高いのだ。
和宏は亡き妻の両親に感謝をしているが、どうしても自分の親に委ねるのとは違い遠慮もしてしまう。
会いに行く前には必ず連絡を取り「行ってもいいか?」を聞かねばならない。
毎週日曜日に会いに行くことにしているが、和宏の本音は「土曜日に迎えに行って、日曜日に送りたい。子ども達と一晩一緒に居たい。」のだが、その本音を言えないまま月日だけが過ぎ去った。
ある日、子どもに会いに行ったら義両親から「この子達は私達がずっと育てたい。」と言われた。
「それは……もう僕の家には帰らせないということですか?」
「そんな風に言うと、ねぇ………私達が悪いみたいじゃない?」
「和宏君、私達の気持ちになってくれないか。
もう楽しみは、この子達しか無いのだから………。
君はこれから再婚出来るだろうし、再婚したら子どもが生まれるだろう。
そうなったら可哀想なのは、この子達だよ。」
「そうですよ。継母の継子虐めってありますでしょう?」
「それは、僕が……我が子を大事に思っていないとでも仰るのですか?」
「否、そんなことは………。」
「我が子がどんな目に遭っても何も言えない盆暗だと仰ってるのですか?
僕がそういう人間だと?」
「いいや、そんなことは……。」
「そんな…………酷過ぎるわ。
貴方は酷い言葉を私達に投げつけるの?」
「僕は再婚など考えておりません。」
「それはだね、今だから言えることだよ。」
「そうですよ! 先になったら変わるでしょうよ。
その時は、この子達が邪魔になるに決まっています。」
「そうだ! 君にとって、いつか邪魔になる。
だから、帰したくない! 私の娘の子どもだ!」
「…………僕の子どもでもあります。」
「…………………………それは……そうだが………。」
「…………私の娘がこの世に残した子よ。」
話し合いにすらならなかった。
和宏は疲れ果てた。
和宏の様子を聞いた兄が私のことを思い出したのだ。
兄は私に和宏のことを話して、「和宏のことを、もし……嫌じゃなかったら、もう一度会ってみないか?」と私に聞いた。
「お子さん、もう小学生になったんでしょう?」
「うん、そうだ。」
「もし、再婚相手の子を望んでいらっしゃるなら私は無理です。」
「どうして?」
「もう若くありませんもの。」
「まだ、30代だ。」
「もう30代!ですわよ、お兄様。」
「駄目なのか。」
「………和宏さんのお気持ちも伺わずに私に話していませんか? お兄様。」
「……君の言う通りだ。和宏に聞いていない。」
「では、無かった話ですわよね。」
「華子、本当に結婚しないのか?」
「しないのではございません。出来ないのでございます。
お間違いなさらないで下さいまし、ね。お兄様。」
「………華子。」
それから兄は二度と和宏のことを話さなくなった。
孝三郎のことも……。
◇◇◇◇
哀しい事に幸代の夫の気持ちは浮ついたままだった。
家庭に落ち着く人では無かったのかもしれない。
私の周囲の男性は、幸代の夫以外は皆【妻一筋】だ。
妻以外の人に心を寄せてはいない。
父も兄も……雄一も、そして和宏も、孝三郎も……。
和宏は妻の死後、誰とも付き合ってさえいないようだ。
そう、孝三郎も私と付き合った時に余所見をしなかったし、結局は【元妻】の元へ帰り再婚した。
それも、【妻一筋】と言っても差し支えないように私は思っている。
再び離婚したけれども、それも理由は孝三郎の不倫では無かった。二度とも親が原因だった。
妻が居るのにも拘らず、他の女性と付き合うなど幸代の夫以外では一人も居ない。
3人目の相手が出来たと知った時、最早、幸代の心の中には夫が居ないのかもしれない。
「さっちゃん、今………何て言ったの?」
「あのね、また相手が変わったの。
最初の人が一番長かったな……二番目の人は3年間で終わったみたいよ。
それも、子どもは生まれなかったし……。
そうそう、最初の女性と終わったのはね。
相手が結婚したかったからよ。」
「それって……さっちゃんの御主人様と?」
「ううん、あの関係が先が無いと思ったのかしらね。
他の人と結婚したいって言ったんですって!」
「じゃあ、ご主人様と誰かと同時にお付き合いなさってたの?」
「同時かどうかは分からないわ。
ただ、結婚したいから別れて!って言われたんですって……。
振られたのよね。うちの人………。」
「さっちゃん?」
「あぁ、大丈夫よ。心配しないで!
なんか吹っ切れたみたいなの、私。
心が騒がないのよ……全く騒がないの。
慣れたのかしら?」
「愛していないからじゃないの。」
「愛していないから、か………それよね、うん、それだわ。」
「このままで、いいのね?」
「うん、このままじゃないといけないのよ。」
「どうして?」
「もし、私より先にうちの人が亡くなったら、相続は私が半分貰えるの。
子ども達の為に私は妻で居続けるわ。
だって、私が死んだら、私が相続した分は私の子ども達が受け取るのよ。
そうでしょう。
だから、妻のままがいいの。
ねぇ、華ちゃん。
年齢から言ったら私の方が若いから長く生きられると思わない?」
「そうね、さっちゃんの方が長生きするわよ。」
「ねっ! そう思うよね。
だから、私はそれに賭けるわ。」
果たして幸代は夫より長く生きた。
不動産などの相続は妻で居続けた幸代が半分受け取れた。




