それぞれの想い
高嶋の家で兄夫婦と両親との同居の話が出た。
兄嫁は同居を嫌がった。当然のことである。
母は舅と姑を同居して看取った。
祖父母は二人とも50歳代で亡くなった。
介護ではなく看病だったが、それも入院がほとんどだった。
同居していたが、義両親の下の世話をしたことが母は無い。
私は父は元より母さえも経験していないことを兄嫁に強いる同居になるような気がして、兄夫婦との同居には反対した。
父にも母にも「同居の苦労をお義姉様にさせるのは良くありません。」と何度も伝えた。
舅や姑との同居が原因の離婚も起きている。
兄夫婦には末永く連れ添って貰いたい――それが私の願いでもある。
前に人生で兄は共に歩みたいと願った女性、愛する女性と歩めなかった。
この人生では末永く二人で歩んで欲しいと願っている。
兄夫婦との同居を諦めて貰う為に幾度も実家に帰りって話していたら、母が急に「華子さん、貴女が帰って来てくれたら、私は氏郷さんと一緒に暮らさなくても宜しいのよ。」と言い出した。
父も何とかして私の一人暮らしを辞めさせたかった気持ちが強くて、母の言うことに同意した。
果たして両親の言う通りに私は実家に帰ることになった。
「華子ちゃん、ありがとう。」
「お礼を言われるようなことを私はしておりませんわ。」
「いいえ、してくれたわ。」
「華子……その……なんだ……ありがとう。」
「仲が良いご夫婦にあたられたら、独り身には聊か辛うございましてよ。」
「華子………君は……大人を揶揄うものでは……。」
「あらっ? お兄様、私、もう30歳になりますのよ。
もう、すっかり大人でございますわ。」
「そうよ、もう、あなたったら………。」
「ははは……そうか、もう30歳か………。」
「まだ、辛うじて29歳です。」
「そうよ、あなた………29歳と30歳では女性にとって違いますからね。」
「心しておく。」
久し振りに実家に帰り、実家から保育所へ通うようになった。
通勤時間は長くなってしまったが、両親は喜んでくれた。
◇◇◇◇
幸代の夫は浮ついた心のままだった。
最初の不倫相手と別れてから、次の相手が早くも見つかったようだ。
今度は20歳の女の子。
どう考えても若さには勝てない。
幸代は「どんなに主人の為に頑張っても……報われない……。」と電話の向こうで泣いている。
私は言葉も出なかった。
ただ、聞いているだけで、本当に情けない有様だ。
これで友達と呼べるのだろうか………何も出来ない、何も役に立てない。
悔しい。
幸代は養父母に何も話していない。話せないのだ。
実の両親にも話せていない。
実の両親に「心配掛けたくないから……。」と幸代は言っていた。
どうして幸代は全て我慢しなければならないのか――私には全く分からない。
私は幸代の夫を許せない気持ちでいっぱいになった。
◇◇◇◇
雄一と愛子の末子・雄二朗は少しずつ変わっていった。
道を変えてもパニックを起さないようになった。
様々な道を歩くようにしてからだった。
色々な公園に行くようにした。
場所が変われば行く道も変わる。
自ずと道を変えることへの恐怖が雄二朗から消えたのであろう。
同じ道でないと恐怖を感じていた雄二朗から、恐怖とか不安がなくなったのだ。
そのようにして、保育所を卒業して小学校へ進学する頃には、様々な原因で起きていた自傷行為は、ほぼ無くなった。
私は雄二朗の成長が嬉しかった。
それは、誰よりも愛子の心である。
愛子こそ、一番嬉しいのだ。
兄は谷川雄一の前の人生のことを思い出したのだろう。
雄一の父親が胃がんで亡くなった時、雄一に兄は懇願した。
「頼む! 将来、もし、胃がんの原因が分かったら、その為の医療を受けてくれ。
父親と君は食生活が似ているのかもしれない。
そういう点も気をつけてくれ。」
「なんだよ、氏郷。」
「頼むよ。」
「僕の父が胃がんで亡くなったから気に掛けてくれたんだな。」
「うん。」
「ありがとう。僕も癌になりたいと思わないから……。
受けるから、安心してくれ。」
「分かった、必ずだぞ!」
「うん、僕も!だが……君も、な。」
「分かった。そうだ! 二人で受けないか? 癌検診!」
「そうだな、そうしよう。」
雄一はピロリ除菌を行った。
兄も同時期に行った。
そして、今も二人は仲良く癌検診を受けている。
そう、雄一は胃がんで亡くなった前の人生とは違い、この人生では長生き出来ている。




