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男たち 女たち  作者: yukko
華子
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家族の絆

私は谷川雄一、愛子夫妻に保育所に来て貰った。

所長と副所長、そして担任である私が二人の前に座った。

否、正確には三人の前に私達保育所の三人が座っていたのだ。

何故だか、谷川夫妻と同席したのは私の兄だ。

⦅お兄様、どうして、ここに?⦆と思わず聞きそうになったが、所長が「こちらの方は、ご関係のある方でしょうか?」と聞いた。

兄が「はい、そうです。」とだけ答えた。

私は顔色が変わったのかもしれない。

ただ、もう兄に気持ちが行かないよう気をつけた。


「どういうことでしょうか?」

「雄ちゃんは、3歳児ですが、漢字を読むことが出来るお子さんです。」

「それなら、凄い能力ということでしょう! 違いますか?」

「勿論でございます。

 ですが、他のことにつきまして気になることがございます。」

「気になること?」

「はい。」

「あの……お母様は何か感じられたことがございますか?」

「華……あ、高嶋先生。何を言ってるのですか?」

「私は今、雄ちゃんのお母様に伺っております。」

「なっ!」

「氏郷さん、高嶋先生は私に聞かれるの。

 私が答えないと……。」

「愛ちゃん……。」

「氏郷、少し黙っててくれないか。」

「………分かった。」

「高嶋先生、雄二朗は癇癪を起しやすいのです。

 癇癪を起すと、とても大変で………。」

「そうですね。保育所でもそのような場面が起きています。

 その場合、雄ちゃんは自分の身体を傷つけてしまいます。

 頭を何度も床に叩きつけるように……したこともございます。

 ただただ、抱き締めて落ち着くのを待っております。

 この行為を自傷行為と呼んでおります。」

「自傷行為………。」

「一番、傍近くで育てて来られたお母様が一番御存知だと思います。

 道を変えると自傷行為が出たりしませんか?

 何時も決まった道でないと大変だったりしませんか?」

「はい………その通りです。」

「私は担任として日は浅いですが、雄ちゃんの様子を見ておりますと……。

 雄ちゃんは自閉症ではないかと存じます。」

「自閉症……。」

「どうすれば、宜しいのでしょうか?」

「お父様、所長の私からお話致しますね。」

「はい。」

「出来ましたら、早急に児童相談所にて発達相談を受けられて、検査も受けて頂き

 ますようお願い致します。

 検査の結果、療育手帳が発行されましたら、私どもも療育に携わります。」

「それは……保育所を辞めなくても良いということでしょうか?」

「勿論です。

 辞めて欲しいなどと思っておりません。

 療育手帳を発行されましたら、加配も可能です。」

「加配とは何ですか?」

「担当の保母をもう一人いちご組に配置することです。」

「それは!」

「嬉しいです!」

「では、児童相談所へ行って頂けますか?」

「はい!」

「私からのお願いでございます。」

「高嶋先生、何でしょうか?」

「出来ましたら、ご夫婦お二人で児童相談所へ伺って頂きますようお願い致しま

 す。

 お父様はお仕事がお忙しいでしょうけれども、お二人のお子さんでございます。

 お二人でお話を伺われますようお願い致します。」

「はい、日が決まりましたら、是非とも、そのように致します。」

「今まで大変だったと存じます。

 子育てはどうしても母親に負担が大きくなってしまいます。

 それは、どのご家庭でも……。

 だからこそ、一人で悩み苦しむのが母親でございます。

 どういう結果になろうとも、辛いのはお父様よりもお母様です。

 どうか、夫として奥様を支えて差し上げて下さい。」


「華子………。」と兄・氏郷の口から出そうになっていた。

氏郷は驚いていた。

華子の変貌に、驚いていた。


「雄ちゃんの上にお子さんがおられますね。」

「はい。」

「これから私が言うことを、出来ましたならば、ほんの少しで結構でございます。

 心に留め置いて下されば幸いでございます。」

「はい。」

「御兄弟も辛い想いをされます。

 それは、これから先ずっと………。

 この世界では哀しい事に差別や偏見がございます。

 その穿った視線が兄弟にも注がれます。

 私が知っている過去の事例でございますが………。

 塾に通わなくても優秀な成績の男子生徒が居ました。

 その生徒の兄弟が知的障害でした。

 学校で虐められた時、理由にされたのが、兄弟でした。

 そんな哀しいことが今も起きております。

 どうか、兄弟にも心を砕いて下さい。

 ただ、一番辛いのは雄ちゃんでございます。

 家族で雄ちゃんを支え、家族がお互いを支えられるよう……。

 お願い致します。

 私は、他の子と同様に、雄ちゃんをこれからも成長するよう教え見守ります。

 何かありましたらご相談下さい。

 微力ではございますが……私自身もお母様を支えさせて頂きたいと存じます。」

「高嶋先生……ありがとうございます。」


谷川雄一と愛子は愛する息子・雄二朗を連れて児童相談所へ行った。

判定結果は「自閉症」だった。

それから、療育が始まった。

兄の氏郷はどう思ったのか、何故、あの場に居たのか――私にはどうでも良かった。

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