自立
一日が終わり、ベッドで横になっていると思い出す。
入所式から幾度か垣間見た雄一と愛子が二人並んだ姿を……。
美男美女の夫婦。
麗しい二人の姿。
愛子は私から見ても温和で優しい性格だ。
保育所への送迎や様々な行事の際に幾度も感じた。
愛子だからこそ雄一は生涯連れ添う相手に選んだのだと今の私は思う。
私では全く駄目だったのだということに気付かされる。
そして、良かったと安堵する。
この保育所での再会は、私にとって必要な再会だったとも思える。
◇◇◇◇
父からも母からも見合いを進められているが、そんな気は全くないまま30歳が目前になった。
工場を辞めて保母になった時も「何故、何も相談しなかった!」と父から叱られた。
アパートに引っ越した後、母からは「家に帰って来なさい。そんな女の子が一人で暮らすなどと……危ないです。いいですね、直ぐに帰って来なさい!」と何度も言われた。
それでも、私は帰らなかった。
兄に「私、自立出来たかしら?」と聞いた時、兄は何も応えなかった。
ただ苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
工場を辞める頃、私は工場で知り合った川口孝三郎からの告白を受けた。
関西出身の離婚歴がある男性である。
私は言った。
「お友達なら……。」
「え………………お友達?」
「ええ、お友達です。」
「なんでや? 俺のこと嫌なんか?」
「お付き合いって……あまり……したくないのです。」
「え………………それって、男に興味がない?」
「心を寄せた方は居ます。」
「そやったら、俺のこと嫌やねんな。
断る理由を嫌やって言うたら、俺が可哀想やって思うたんか?
そんな気遣いは要らん。
俺はもう一回離婚してるさかい。
ホンマのこと、言うて!」
「嫌だとか思ったことはありません。」
「そやったら!」
「でも、想いを寄せてはおりません。」
「さよか………好きでも嫌いでもあらへん、ってことか?」
「言葉に致しましたら、その言葉でございましょうね。」
「いっつも思うねんけど、華ちゃんは【ええしの子】か?
言葉が丁寧やな。」
「その【ええしの子】の意味が分かりませんわ。」
「大阪では言うねん。こっちでは言わへんのか………さよか……。
意味は……そやな【高貴な家】とか【お金持ちの家】とかで使うな。」
「どちらも違います。」
「けど、俺とは違うな。
そないな言葉使わへんもん。
俺が使うたら、けったいや! わはは!」
「けったい?」
「あぁ……可笑しいとか奇妙とか……まぁ、そないな意味やな。」
「言葉は土地によって違いますものね。」
「ほんで、俺と付き合うの? 付き合わへんの?」
「お友達なら………。」
「ほんなら、そのお友達から始めよか。」
「お友達で!」
「いつか、時間を掛けて好きになって貰うしか、あらへんのやな。
まぁ、頑張るしかないか……。」
それ以降、川口孝三郎と友達付き合いをしている。
友達としてのお付き合いをしてから、私は矢沢和宏を思い出してばかりいる。
今のアパートにも和宏から貰ったあの折り紙のオーナメントが飾られている。




