表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男たち 女たち  作者: yukko
華子
PR
20/35

義姉

就職活動は捗捗(はかばか)しくなかった。

希望は、たった一つ【女子寮がある会社】だけだったが、新卒ではないことと、20歳過ぎの女性だということで再就職先を見つけることは困難だった。

所謂、適齢期に入った私は【寿退社】の年齢だからだ。

休日は一人で部屋に籠っていた。

父から次の日曜日に見合いがあることを告げられて、私は遣る瀬無かった。

逃げたかった。

どうにかして見合いしなくて良い方法を見つけたいと思っていた。


そんな日、兄と義姉がやって来た。子どもを連れて……。

少し会わないうちに兄の子は大きくなっていた。

両親の喜びは一入ではなく……孫のことを世間では「目に入れても痛くない」と言う。

それを両親の姿を見て私は実感した。

兄の子は愛らしくて……私は雄一と愛子の子どもも⦅さぞかし愛らしいに違いない。⦆と思った。

そう想像しただけで胸が痛くなった。

まだ雄一に恋している己に気付いた瞬間だった。

私は自室に入って資格について考えようと思った。


「済みません。少し部屋で過ごします。」

「華子、尚子さんが来てくれているんだ。

 ここに居なさい。」

「そうですよ。尚子さんに失礼ですよ。

 お父様の言うことを聞きなさい。」

「…………………。」

「華子………どうしたんだ? 疲れているのかい?」

「働いているんですもの……華子ちゃん、疲れているのよね。

 私のことなど気に掛けないで頂戴。」

「尚子さんは優しい嫁だな。」

「本当に!」

「僕が選んだ女性ですから!」

「まぁ……親の前で……。」

「いいじゃないか、【仲良きことは美しき哉】だ。」


賑やかな居間から私一人が離れた。

そして、自室に籠った。

部屋で自分に合う資格を考えていた。

どのくらい経ったのか分からない。

ドアをノックする音に気付いた。

「華子ちゃん、私、尚子よ。」と義姉の声がした。

私は急いでドアを開けた。


「お義姉様、如何なさいました?」

「華子ちゃんとお話ししたくて……少しいいかしら?」


私は⦅また見合いの話?⦆と身構えてしまった。

部屋に入った義姉は私が飾ったままにしている折り紙のオーナメントを見つけた。

だが、私は義姉の視線の先に職業安定所の物が入らないようにしたかどうかが気になって、義姉の視線の先にオーナメントがあることに気付かなかった。


「あの……何かご用ですか?」

「華子ちゃん、この前はごめんなさいね。」

「えっ?」

「氏郷くん、華子ちゃんに余分なこと言ったのよね。」

「………あ………尚子さん、気にしないで下さい。」

「気になるわよ。義妹なんだから………。」

「…………………。」

「いいじゃないの。誰のことを好きでも、ねっ。」

「え………………。」

「氏郷くんに言ったのよ。

 華子ちゃんのことよりも、貴方は友達のことばかり考えてるって……。

 出て来るのは。『雄一に悪い』とか『和宏に悪い』とか、友達ばかり。

 誰の兄なんだって!って思うわよね。」

「お義姉様……。」

「ねぇ………華子ちゃんは、これから、どうしたいの?」

「私……ですか。」

「ええ、華子ちゃんがしたいことって何?」

「私は……私は会社を辞めて別の会社に就職したいです。

 父の会社に入れたのは世間から見れば幸せなことでしょうけれども、私は嫌でし

 かなかったです。

 今も嫌です。」

「それは、どうして?」

「社長の娘が会社に居て、周囲の人にとっては嫌なことなのです。」

「何か言われたの?」

「いつも言われています。

 御手洗いでも給湯室でも更衣室でも………。

 私が居ない時は必ず……コネ、だとか、やりにくい、だとか……。

 御手洗いでも、どこでも……そんな話をしている人達が居なくなってからしか動

 けないのです。

 その場から動けないのです。」

「そうなの………それは辛いわね。」

「だから、辞めたいんです。」

「そうなのね………どうして家を出たいの?」

「自立出来たら、もうお見合いしなくていいかもしれないですから………。」

「お見合いしたくないのね。」

「はい! したくありません。」

「一人で暮らすの?」

「はい………もう、ここには住めません。

 我儘だと思われるでしょうけれども、私は独りで暮らしたいのです。

 父や母が私のことを思ってくれていると言われても………。

 一人で生きられない私にしただけです。」

「そうね。

 私もね、仕事、辞めたくなかったのよ。

 でも、出産したら退職するって道が出来上がってて……。

 本音で言うと、悔しいの。

 でも、保育園も少ないし……預けたら母親失格みたいに見られるのよね。

 嫌だけど……。

 華ちゃん……それで、就職活動は順調?」

「大変難しいです。資格が無いので本当に無いのです。

 何のために短大へ行ったのか……意味が無いように私がしてしまったんですね。

 愚かでした。」

「頑張れ! 応援してる。」

「ありがとうございます。」


義姉と話せたことで、初めて幸代以外の人に自分の気持ちを吐き出した。

何故だか心は軽やかだった。


そして、私は父からの見合いの話を無視して、就職活動に励んだ。

父から無理やり連れて行かれても、その場で直ぐにお断りをし、職業安定所へ通っていた。

私の望みはただ一つ「どんな職業でも結構です。ただ女子寮に入寮できる会社に就職したいです。」だ。

時間が掛かったが、幸いにして、その望みが叶い、私は就職した。

その就職先は、女子寮がある会社で工場勤務だ。


そして、父の会社を退職する日がやって来た。

父の会社で引継ぎなどほぼ不要だった。

私は退職届を提出すると、総務課長が「何があったんですか?」と少し怯えたように言った。


「一身上の都合でございます。」

「一身上の都合………社長は………お父様は御存知でいらっしゃいますか?」

「私の父は社長でございますが、私は社長の娘として働いていたわけではございま

 せん。

 私なりに勤めて参りました。

 私は【ただの女子社員】でございます。

 私の退職に当たり、皆様にはご迷惑をお掛けすることにはなりません。

 課長、今まで御指導いただき誠に有り難く存じます。

 私は未熟でございましたので、色々とご迷惑をお掛けしたことと存じます。

 皆様には深く感謝し、深くお詫び致していたとお伝え下さい。」

「高嶋さん………。」

「残っている有給休暇は消化致しません。

 何卒よろしくお願い致します。」

「退職金が………。」

「それは………後程受け取らせて頂きます。」

「高嶋さん………。」

「ありがとうございました。

 皆様の御健康と御多幸を心より祈念致しております。

 では、失礼致します。」


退職を告げた私を周囲の複数の眼は見つめていた。

丁寧に頭を下げて私は会社を後にした。

後は、両親に退職と家を出ることを告げるだけだった。

そういえば……何故だか、父は度重なる見合い拒否を叱りつけながらも許してくれた。

嬉しい事に結婚しないままだ。

さぁ! 私の新しい人生が始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ