兄の気持ち
和宏と別れた次の土曜日、兄がやって来た。
私は兄の顔を見たくなかった。
直ぐに私は自室に籠った。
暫くしてドアをノックして兄が入って来た。
「お兄様! まだ、どうぞと言っていません。」
「着替えている時間じゃないからいいだろう。」
「お兄様………駄目です。」
「そうか、駄目か?」
「ええ。」
「華子、君……僕が結婚してから、一度も僕の家に来ないね。」
「お邪魔でしょうから……お兄様のお邪魔はしません。」
「そうか、そんな気など使わなくていいんだがな。
まぁ、華子も忙しそうだものな。」
「そう?」
「見合い相手と付き合って1年だな。
そろそろ将来の話は出てないのか?」
「お兄様、あの方から何も聞かれてないの?」
「あの方?」
「和宏さんです。
高校の頃からのご友人でしたのね。」
「あぁ、そうか……和宏、話したんだな。」
「ええ、伺いました。
お兄様は、そんなに私を結婚させたいの?」
「まぁ、それは、そうだな。」
「私は結婚などしたくありません。」
「華子! 君は和宏との縁談を断るのか?」
「……もう終わりました。」
「終わった? 何故? 付き合ったんだよね。
少しも気持ちが無ければ付き合わないはずだよ。」
「お友達なだけですわ。
でも、騙されてましたから……もう、お友達でもありません。」
「華子………騙されてたって……何をだ?」
「お兄様のご友人で……お父様のお知り合いからの縁談ではなかったことです。」
「たったそれだけで? そんなことくらいで騙されたとか……君は………。」」
「お兄様は……たったそれだけって……私にとっては…………。」
「華子、まさか、まだ雄一に想いを寄せてるのか?」
「!…………お兄様………………。」
「諦めなさい。雄一は最愛の人と結婚して幸せに暮らしている。
華子が入る隙間など無い!
和宏は君のことを大切にしてくれる。
和宏なら、僕も安心出来るんだ。
考え直しなさい。
雄一を諦めて、和宏をちゃんと異性として見た方がいい。」
「お兄様は………そんなに私が……お嫌いなの?」
「どうして、妹を嫌う?」
「お兄様は私を嫌っておいでです。
私は……私は雄一さんに勝手に想いを寄せているだけです。
何もしていません。
想いを伝えても居ません。
誰にも迷惑など掛けていません。
それでも、許されないの?」
「華子………想いが叶わないなら諦めるしかないだろう。」
「もう諦めています!
だから、遠くから雄一さんの幸せだけを祈って………。
それも罪ですか?」
「罪だとか言ってない!」
「お兄様は私を許せないんだわ。」
「どうして、許すとかの話になる。
華子のことを心配しているだけだよ。」
「私のことを案じて下さるのなら、このままにしておいて下さい。
私はこのまま一人で生きて行きます。」
「華子、それを言うなら自立しなさい。
自立も出来てない子どもの君が何を言ってる。」
「自立……させてくれないのは、お父様です。
働きに出ることさえ自由にさせて下さらず。
お父様の会社の総務部に就職するしか許して頂けませんでした。
それなのに…………。」
「華子………親は子どもを案じるのだよ。」
「将来、絶対にお兄様とお義姉様にご迷惑をお掛けしません。」
「華子…………。」
「だから、もう放っておいて下さい。」
兄が私が飾った和宏からの最後の贈り物、折り紙のオーナメントを見た。
「これを頑張って作った和宏の気持ち、分かるよな。
君が何を好きか僕に聞いたんだ。
僕が答えたんだ。華子が好きなのは、雪の結晶だと……。
それを折ったんだな。
…………華子、このオーナメントを飾ってるのは何故なんだ?
捨てずに、飾ってるのは………どうしてなのか、少し考えたらいいと思う。
………それから………華子、僕は君を許せないとか思ったことは無いよ。
嫌ってもいない。
大切な僕の妹だよ。
それから………まだ、女性の一人住まいを社会は許容していない。
結婚して子どもを産むのが、女性の生き方とされている。
それが今の社会だよ。
それだけは理解した方がいい。
…………帰るよ。」
泣いている私の頭を撫でてから兄は私の部屋から出て行った。




