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人殺し配信者と呼ばれた俺、なぜか毎回ダンジョン事故を当ててしまう  作者: 有馬 凪


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9/13

第九話 「17秒では足りない」

 配信開始から3秒で同接は5万人を超えた。


 十秒で8万人。


 二十秒で12万人。


 画面の右上の数字が壊れた体温計みたいに上がっていく。


《来た》

《本人配信》

《3年前の件!?》

《逃げずに来た》

《説明しろ》

《人殺し配信者》


 コメント欄は最初から荒れていた。


 当然だった。


 荒れるために来た人間がいる。


 心配して来た人間がいる。


 面白がって来た人間がいる。


 俺を助けたい人間も、俺を燃やしたい人間も、同じ画面にいる。


 配信っていつもそうだ。


 見た目だけは同じ文字になる。


「こんばんは。灰原レンです」


 自分の声が少し低く聞こえた。


 カメラの向こうにいる人数を考えると、胃が冷たくなる。


 でも、逃げる場所はなかった。


 隣にはミオが座っている。


 黒キャップは脱いでいた。


 いつもより顔が硬い。


 少し後ろには青崎ユウト。


 青崎は画面の中心には入っていない。


 でも、ちゃんと映る位置にいる。


 そこが上手いと思った。


《ミオちゃんいる》

《青崎もいるじゃん》

《三人で説明?》

《青崎は関係あるの?》

《白瀬ミオ 水》


 ミオが小さく呟いた。


「まだ水なんですね」


「本題入る前に負けないでください」


「負けそうです」


《白瀬ミオ 水、本人に効いてて草》

《緊張してる?》

《いやこの場で水は草》


 少しだけコメント欄が緩む。


 その一瞬だけ息ができた。


 青崎が静かに言う。


「灰原さん」


 始めましょう。


 そういう意味だった。


 俺は頷く。


「3年前の事故について話します」


 コメント欄の流れが変わった。


《来た》

《やっとか》

《今さら?》

《美談になったから説明するの?》

《聞く》


「今日、3年前の映像が出回りました」


 画面にはまだ何も映していない。


 俺の顔だけ。


 それが逆にきつい。


 自分の顔を見ながら、自分の過去を話すのは変な感じだった。


「17秒の動画です」


《怒鳴ってたやつ》

《あれ本物?》

《戻れって言ってたやつ?》

《声怖かった》


「本物です」


 コメント欄が一瞬加速する。


《認めた》

《本物かよ》

《じゃあやっぱり》

《切り抜きじゃん》


「俺が怒鳴っている声は本物です」


 喉が乾く。


 水を飲もうとして、ペットボトルが空だったことを思い出す。


 ミオが無言で、自分のペットボトルを差し出してくれた。


 画面の端に映る。


《水きた》

《白瀬ミオ 水》

《助かる》

《今それ茶化すな》


 コメント欄の中で、誰かが誰かを止める。


 少しだけ変な感じがした。


「ただ」


 俺は続ける。


「あの17秒だけでは足りません」


 言った瞬間、自分の中で少しだけ何かが決まった気がした。


 今日はそれを言いに来た。


 俺は無罪を証明しに来たんじゃない。


 善人にしてもらいに来たんじゃない。


 17秒で人間を決めるな。


 それを言いに来た。


《足りない?》

《言い訳?》

《前後あるってこと?》

《切り抜きだからな》

《でも怒鳴ってたのは事実》


「そうです」


 俺はコメントを拾った。


「怒鳴っていたのは事実です」


 ミオが少しだけこちらを見る。


 青崎は黙っている。


「でも、怒鳴る前に何があったのか。誰に向けた声だったのか。なぜ戻れと言ったのか。それがないと、あの十七秒は別のものになります」


《それはそう》

《でも人死んでる》

《話を逸らすな》

《聞こう》


 コメント欄は割れている。


 割れている方がまだいい。


 全部が一方向に流れる時の方が怖い。


 青崎が一歩だけ前に出た。


「ここで、一つ確認しておきます」


 青崎の声が入ると、コメント欄が少し整った。


《青崎》

《進行役?》

《青崎いると安心する》

《また空気戻してる》


「今日これから流す映像は、僕が撮ったものではありません。ただ、三年前に現場付近にいたスタッフから提供されたものです」


《スタッフ?》

《未公開?》

《本物なの?》

《加工じゃない証拠は?》


「映像の取り扱いについては、提供者の許可を得ています。協会にも提出します。今日は、すべてを流すわけではありません」


《全部出せよ》

《隠すな》

《編集するの?》


 青崎は少しだけ間を置いた。


「全部をそのまま出すと、亡くなった方や関係者の尊厳を傷つける可能性があります」


 コメント欄が少し止まる。


「だから、必要な範囲だけを出します」


 上手かった。


 感情ではなく、理由で止める。


 でも冷たくない。


 青崎は本当にこういう場が上手い。


 ミオが小声で言う。


「司会者みたいですね」


「ですね」


「ちょっと悔しいですか」


「かなり」


「正直」


《後ろで何か喋ってる》

《ミオちゃんと死神、小声やめろ》

《緊張感どこ》


 青崎が少しだけ笑いそうになった。


 でもすぐ戻す。


「まず、出回っている十七秒を見ます」


 画面が切り替わる。


 青崎が用意した映像が映る。


 見たくなかった。


 でも、見るしかなかった。


 暗い通路。


 揺れる画面。


 若い俺の声。


『戻れって言ってんだろ!』


 そこで動画は終わる。


 たった十七秒。


 コメント欄が流れる。


《やっぱ怖い》

《怒鳴ってる》

《この後事故?》

《ここだけ見ると最悪》

《でも短いな》


「次に」


 青崎が言う。


「同じ場面の前後です」


 映像が巻き戻る。


 少し長い映像が流れる。


 地下6層の旧搬入口。


 若い俺が映っている。


 黒いパーカー。


 今より痩せている。


 目だけが妙に鋭い。


 それを見て、俺は少し気持ち悪くなった。


 自分なのに他人みたいだった。


 画面の中の俺が言う。


『戻った方がいい』


 周囲の誰かが笑う。


『また灰原のビビりセンサー出た』


 コメント欄が変わる。


《え》

《前から止めてる?》

《ビビりセンサーって言われてたんだ》

《いじられてる》


 画面の中で、神谷リョウが映る。


 息が止まる。


 ミオが横で少し姿勢を正した。


 青崎も声を出さない。


 リョウは笑っていた。


『レン、心配しすぎ』


 明るい声だった。


 コメント欄が一瞬、遅くなる。


《この人が亡くなった人?》

《神谷リョウだ》

《声初めて聞いた》

《笑ってるのきつい》


 やめろ。


 名前を軽く流すな。


 そう思った。


 でも俺も画面に映している。


 結局、俺も同じことをしているのかもしれない。


 若い俺は笑っていない。


『いや、本当に戻った方がいいです』


『今日ここまで来て戻るの?』


『空気悪くなるって』


 その言葉が流れた瞬間、コメント欄に反応が出る。


《空気》

《うわ》

《今と同じじゃん》

《こういうのあるよな》

《でも結果論では?》


 結果論。


 またその言葉だ。


 俺は画面の中の自分を見ながら言った。


「これは結果論です」


 コメント欄が動く。


《え》

《本人が言うの?》

《どういうこと?》


「俺が危ないと言った。実際に事故が起きた。だから俺が正しかった、で終わらせるのも、たぶん違います」


 言いながら、自分でも難しいことを言っていると思った。


 でも、ここを雑に言いたくなかった。


「ただ、あの場で俺がふざけていたわけじゃないことは、分かってほしいです」


 若い俺が天井を見る。


 画面の端。


 砂が落ちる。


 本当に少しだけ。


 でも映っていた。


 青崎が映像を止める。


「ここです」


 カーソルで、画面の端を示す。


「天井から砂が落ちています」


《ほんとだ》

《見えづら》

《これ気づくの無理だろ》

《灰原は気づいてた?》

《だから怒鳴った?》


 映像が再開する。


『戻れって』


 若い俺の声が強くなる。


 誰かが笑う。


『怒んなよ』

『配信中だぞ』


 そして、あの十七秒。


『戻れって言ってんだろ!』


 今度はコメント欄の見え方が少し違った。


《これ止めようとしてるじゃん》

《怒鳴った理由ある》

《切り抜き悪質すぎ》

《でも助けられてない》


 最後のコメントに、胸が少し刺さる。


 そう。


 助けられてはいない。


 映像の中で、リョウが振り返る。


『分かった、分かった。じゃあ一回――』


 低い音。


 揺れ。


 崩落。


 そこから先は青崎が音量を少し下げた。


 映像も一部ぼかしている。


 それでも、十分だった。


 粉塵。


 叫び声。


 若い俺の声。


『リョウ!』


 コメント欄が遅くなる。


 今まで速すぎた文字が急に重くなる。


『リョウ! 返事しろ!』


 画面の端で、若い俺が崩れた方へ走っていく。


 誰かが止めている。


『灰原、そっち行くな!』

『危ない!』

『戻れ!』


 でも若い俺は戻らない。


 粉塵の中へ入る。


 そこまで流して、青崎が映像を止めた。


 画面が俺の顔に戻る。


 コメント欄は少し止まっていた。


 完全に止まることはない。


 でも、さっきまでとは違っていた。


《助けに行ってる》

《全然違うじゃん》

《これ隠されてたの?》

《人殺しは違うだろ》

《でも死んでる》

《亡くなった人のこと考えると複雑》


 複雑。


 その言葉に少しだけ救われた。


 複雑でいい。


 簡単にしないでほしかった。


 俺はカメラを見る。


「俺は助けようとはしました」


 声が震えそうになる。


 でも、続けた。


「でも、助けられませんでした」


 コメント欄が流れる。


《灰原のせいじゃない》

《でも本人はそう思えないよな》

《神谷さん……》

《謝れとか言ってごめん》


「俺のせいじゃないと言ってくれる人がいるのはありがたいです」


 言葉を選ぶ。


 ミオが隣で、黙って聞いている。


「でも、俺はそれで全部楽になれるわけじゃないです」


 喉が乾く。


 今度は水を飲まなかった。


「リョウさんは死にました」


 その名前を言うのに、三年かかった気がした。


「俺は生きています」


 画面の向こうで、何万人が見ている。


 でも、その瞬間だけ、俺はリョウに向けて話している気がした。


「それは変わりません」


 コメント欄の流れが少し遅くなる。


《きつい》

《ごめん》

《これで人殺し扱いはない》

《でも本人はつらいよな》


 その時。


 荒いコメントが流れた。


《じゃあなんで今まで黙ってた?》


 それを見た瞬間、胸が少し冷えた。


 でも、これは答えなければいけない質問だった。


「怖かったからです」


 即答した。


 ミオが少しだけ目を伏せる。


 青崎も黙っている。


「見たくなかったからです。話したら、またあの日に戻るからです」


《正直》

《逃げてたってこと?》

《そりゃ逃げるだろ》

《でも説明責任は?》


「逃げていました」


 言った瞬間、コメント欄がまた動く。


「説明するべきだったと言われたら、そうかもしれません。でも俺はあの時の映像を見返すことも、リョウさんの名前を出すこともできませんでした」


 声が少し詰まる。


 ミオが小さく水を置いてくれた。


 俺はそれを飲まなかった。


「それを、今日までできませんでした」


 青崎が少し前に出る。


「補足します」


 青崎の声は落ち着いていた。


「当時、この映像を表に出さなかったのは灰原さんだけの判断ではありません。関係者の意向、亡くなった方のご遺族への配慮、現場スタッフの離脱、いろいろな事情がありました」


《青崎、説明うまい》

《遺族か》

《それは簡単に出せない》

《でも切り抜きは出回った》


「ただ」


 青崎は続ける。


「今日、悪意ある切り抜きが先に出ました」


 コメント欄が速くなる。


《あのアカウント誰?》

《小出しにしてるやつ》

《脅迫DMあった?》

《犯人探し始まるぞ》


 青崎はすぐに言った。


「犯人探しはしないでください」


《え》

《いや必要だろ》

《特定班出番》

《やめろって》


「必要な対応はこちらで協会と相談します。視聴者の皆さんが誰かを特定したり、攻撃したりすることは望んでいません」


 綺麗だった。


 でも、必要な言葉だった。


 コメント欄の一部が反発する。


《綺麗事》

《じゃあ泣き寝入り?》

《でも特定は危ない》

《また別の炎上になる》


 ミオがそこで、初めて前に出た。


「私も言っていいですか」


 俺は少し驚いた。


 青崎も一瞬だけ目を向ける。


 ミオはカメラを見る。


 目が少し赤い。


 でも声はちゃんとしていた。


「今日、私もすごく伸びました」


 コメント欄が少しざわつく。


《ミオちゃん》

《水の人》

《いきなり何?》


「灰原さんと一緒にいたからです。事故があったからです。人を助けたところが切り抜かれたからです」


 ミオは一度だけ息を吸う。


「正直、登録者が増えて嬉しかったです」


 コメント欄が止まりかける。


《正直すぎ》

《言うんだ》

《それ言っていいの?》


「でも、それと同時に気持ち悪かったです」


 ミオの声が少し震える。


「人が死にそうになったことで、自分の数字が増えるのが、気持ち悪かったです」


 俺はミオを見た。


 ミオはこっちを見ない。


 カメラを見ている。


「だから、たぶんコメント欄だけが悪いわけじゃないです。配信者だけが悪いわけでもないです。みんなでそういう空気を作ってます」


 コメント欄が割れる。


《それはそう》

《俺らのせいにするな》

《ミオちゃん勇気ある》

《配信者側が言うな》

《でも分かる》


「でも」


 ミオは続けた。


「だからって誰も悪くないってことにはならないと思います」


 その言葉は、思ったより強かった。


「霧島さんも悪かったと思います。煽ったコメントも悪かったと思います。切り抜いた人も悪いと思います。でも、誰か一人を燃やして終わりにしたら、また同じことが起きる気がします」


 ミオは少しだけ目を伏せる。


「すみません。うまく言えないです」


 コメント欄はすぐには反応しなかった。


 でも少しずつ文字が流れた。


《いや分かる》

《ミオちゃんすごいな》

《綺麗事だけど必要》

《白瀬ミオ 水、卒業》

《二つ名やめろ》


 ミオが小さく言った。


「最後のやつ、今じゃないです」


 少しだけ笑いが起きた。


 画面の向こうで緊張が少しだけ緩むのが分かった。


 青崎が頷く。


「ありがとうございます」


 そして、俺を見る。


 最後はあなたが。


 そういう目だった。


 俺はカメラを見る。


 同接。


 18万人。


 見たことのない数字だった。


 18万人が俺の顔を見ている。


 3年前の俺と、今の俺を比べている。


 この配信も、たぶん切り抜かれる。


 どこを切られるかは分からない。


 俺の言葉はまた17秒にされる。


 それでも話すしかない。


「俺は」


 声を出す。


「今日出た17秒の動画を消せとは言いません」


 ミオが少し驚いた顔をする。


 青崎もわずかに眉を動かした。


「あれも、本物なので」


《え》

《消せじゃないの?》

《本物だけど切り抜きだろ》

《どういうこと?》


「あれだけで判断しないでほしいです」


 俺は言った。


「人間は17秒では足りません」


 コメント欄が少し止まる。


「誰かが怒鳴っている17秒。誰かが泣いている17秒。誰かが謝っている17秒。誰かが失言した17秒。それだけで、その人間の全部を決めないでほしいです」


 霧島のことも頭にあった。


 青崎のことも。


 ミオのことも。


 自分のことも。


「もちろん、17秒で傷つく人もいます。17秒で誰かを壊すこともあります」


 言いながら、自分でも矛盾していると思った。


 でも、その矛盾ごと話したかった。


「だから、切り抜くなとは言えません。見たものを忘れろとも言えません。ただ、その先を見ないまま、人を裁くのはやめてほしいです」


 コメント欄が流れる。


《17秒では足りない》

《タイトル回収》

《でもネットってそういうものだよな》

《難しい》

《灰原、変わったな》


 変わったのかどうかは分からない。


 ただ、3年前よりは少しだけ喋れるようになった。


 それだけかもしれない。


「それと」


 俺は息を吸う。


「リョウさんの名前を遊びに使わないでください」


 コメント欄が止まった。


「俺を叩くためでも、俺を擁護するためでも、リョウさんの死を雑に使わないでください」


 声が少し震えた。


 でも、ここだけは言いたかった。


「お願いします」


 頭を下げた。


 画面の中で自分が下を向く。


 何万人が見ているのか分からない。


 でも、少しだけ静かだった。


 顔を上げると、コメント欄が流れていた。


《分かった》

《ごめん》

《神谷さんのこと知らないのに使ってた》

《これはそう》

《人殺し配信者って呼んでごめん》


 その中に、もちろん別のコメントもある。


《美談にするな》

《結局助けられなかった》

《配信者が被害者面するな》


 全部は変わらない。


 変わるわけがない。


 でも、全部が一色ではなくなっていた。


 それだけで、少しだけ息ができた。


 青崎が小さく言う。


「そろそろ切りましょう」


 俺は頷く。


「今日は、これで終わります」


《え、もう?》

《おつ》

《休め》

《まだ質問ある》

《逃げるな》


「追加で話すことがあれば、協会を通して出します」


 青崎の入れ知恵だった。


 たぶん正しい。


「今日は見てくれてありがとうございました」


 少し間を置く。


「あと」


 言うか迷った。


 でも言った。


「水筒案件は、今日は返事しません」


 一瞬。


 コメント欄が止まった。


 次の瞬間、流れた。


《そこ!?》

《草》

《防災水筒泣いてる》

《今じゃないけど今でよかった》

《生きててよかった》


 ミオが横で吹き出した。


 青崎もとうとう少し笑った。


 俺も少しだけ笑った。


 笑っていい場面かは分からない。


 でも、笑えた。


「お疲れ様でした」


 配信を切った。


 画面が暗くなる。


 同接18万人の視線が一気に消える。


 部屋が静かになった。


 静かすぎて、耳鳴りがした。


 俺は椅子にもたれた。


 全身から力が抜ける。


 ミオがペットボトルを持ち上げる。


「水、飲みます?」


「飲みます」


「案件じゃないです」


「分かってます」


 水はぬるかった。


 でも、ちゃんと味がした。


 青崎がノートパソコンを見ている。


 配信は終わったのに通知は止まっていない。


 切り抜き速報。


 ニュース。


 考察。


 まとめ。


 もう始まっている。


【切り抜き速報】


『灰原レン「人間は、17秒では足りません」』


【急上昇】


灰原レン

17秒では足りない

神谷リョウ

白瀬ミオ

水筒案件


「最後だけ本当に何なんですか」


 ミオが言った。


「水筒は強いですね」


 青崎が真面目に言う。


「真面目に分析しないでください」


 少しだけ笑う。


 その時、青崎のスマホが鳴った。


 青崎が画面を見る。


 顔から笑みが消えた。


「どうしました」


 俺が聞く。


 青崎は少し黙ってから、画面をこちらに向けた。


 知らない番号からのメッセージだった。


【余計なことをするな】


 それだけ。


 続けて、もう一通。


【全部出したら、次は青崎ユウトの番だ】


 ミオの顔が強張る。


 俺は青崎を見る。


 青崎はしばらく画面を見ていた。


 それから小さく笑った。


 配信用の笑顔ではなかった。


 困ったような、疲れたような笑いだった。


「……俺も、切り抜かれる側になりましたね」


 その声はいつもの青崎より少しだけ弱かった。


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