第81話 白い悪魔
雪山が吹雪いてきた。
白い雪が風で舞い上がり、視界を奪って行く。
「マギー!結界を出せる?」
シンディが叫ぶ。
「え?でも結界を張ったら攻撃出来なくなっちゃう」
マギーの戸惑った声。
「小さくていいんじゃ。お前たち二人分の広さでいい」
メイトリックスが叫ぶ。
アリッサとマギーが無言で輪の中から外に踏み出す。
そして、マギーはシンディの横に並んで杖を構えた。
アリッサは自分の右手に装着していた鎧を取り外す。そして、ポンとメイトリックスに手渡した。
「何も無いよりましでしょ」
そして、メイトリックスの隣で剣を構えた。
メイトリックスは、右腕に鎧を装着して振り上げる。
「ああ。全然違うな」
メイトリックスが満足げな声を出す。
「来るぞ。気を付けろ」
カサノバが全員に注意を促した。
シンディが杖を振った。
強い風が起きて空中の雪が散った。
視界が広がる。
その向こうに、大きな白い人影が浮かび上がった。
――雪男?
アリッサは目を凝らしてその姿を確かめた。
「イエティの……魔獣……」
カサノバの声が震えた。
「それも、何体もいる……」
ガーウー
ギャウ
グールー
イエティの魔獣達はお互いに鳴き声を掛け合いながら進んでくる。
そのうちの一体が、両手で大きな岩を持ち上げた。そして、岩をメイトリックス目がけて投げてきた。
シンディとマギーが同時に岩に攻撃魔法を放つ。岩は粉々に崩れてアリッサ達に降り注ぐ。
ガンッガン
メイトリックスが腕の鎧で大きな破片を弾き飛ばした。
「雪男って、火に弱いはず」
すかさずマギーが杖から火を放つ。
弱い。届かない。
アリッサが毛皮を脱ぎ捨てる。
「これに火をつけて!」
マギーが毛皮に火を放つ。小さな炎の柱が上がった。そして、自分の毛皮も脱いで炎の中に投げ込んだ。
メイトリックス、シンディ、カサノバも、それにならって脱いだ毛皮を炎にくべる。
炎の柱が高く上がった。
そして、炎の光がイエティの魔獣の姿を照らした。
イエティ達は少しずつ後ずさる。
「イエティ達の目的は何?」
アリッサがメイトリックスに尋ねる。
「食料じゃな。わしらを食べ物だと思っておる」
「私たち食べられちゃうの?そんなの嫌」
マギーが悲鳴を上げる。
「食べ物が欲しいなら、あげればいいじゃない」
アリッサはそう言うと、自分のリュックから干し肉を取り出した。
そして、手を伸ばして顔の前にぶら下げながら、イエティの魔獣に近づく。
「危ない!戻って来なさい」
シンディが叫ぶ。
イエティ達は不思議そうな顔でアリッサを見つめる。
その瞬間、一体のイエティがアリッサに襲いかかろうとした。
ガァァッ
辺りに竜の魔獣の声が響いた。
イエティの魔獣達が一斉に後ずさる。
竜の声はアリッサの腕から聞こえてくる。
「テン!ありがとう!」
「アリッサ様、あまり無茶はおやめください。たまたまクリツァ様の録音音声があったから良かったですが、あなたが食べられたら私も食べられる訳ですから。時計を食べるのはワニだけにして欲しいもんです」
――こいつ、上手いこと言ったと思ってるな。
アリッサは苦笑いする。
干し肉を齧って食べて見せてから、イエティの魔獣の前に投げる。
一体のイエティが、そっと拾って匂いを嗅ぐ。
アリッサは、手を口元に持って行き、食べるジェスチャーを見せた。
イエティが干し肉を口に運ぶ。
――食べた!
イエティの魔獣が頷きながら干し肉を咀嚼する。
グルルル
さっきとは違う鳴き声を出す。
そして、手のひらを何度も自分に向かって振った。
「もっとくれって言ってるのか?」
カサノバが荷物から干し肉を取り出す。
「ほらよっ」
イエティの魔獣に向かって干し肉の固まりを投げてやる。
干し肉の取り合いが始まった。
「今のうちに逃げるぞ」
メイトリックスの掛け声。
アリッサも慌ててみんなの所に戻る。
そして、ふと振り返ると、アリッサの干し肉を食べたイエティの魔獣がこっちを見ているのに気づいた。
自分の胸に手を当てて叫ぶ。
「アリッサ!私は、アリッサ!」
そして、イエティの魔獣を指さして叫ぶ。
「ジェラート!あなたはジェラート!ね」
「何してるの。早くしなさい」
シンディのイラついた声。
「はーい」
アリッサは諦めてシンディのもとに駆け寄った。
急いで荷物を背負って出発の準備をする。
毛皮の防寒具を燃やしてしまったため、かえって歩きやすくなった。
さっきまで火の近くにいて動き回っていたので、今のところは寒くない。
――だけど、帰りはどうしたもんかな。
お腹を空かして寒い服装で帰るのかと思うと、ちょっと憂鬱になった。
――でも、食べられちゃうよりマシよね
そして、シンディの背中について歩き始める。
――まずは洞窟まで行かなくちゃ。
遠くでイエティの魔獣が「アリッサ!ジェラート!」と叫ぶ声が聞こえた気がした。
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