第82話 シンシアの贈り物
「確か、この辺りのはずじゃが」
メイトリックスは、そびえ立つ雪の壁を眺めながら言った。
背中の荷物とシンシアの麻袋を下ろして、壁を叩き始める。
そして、音の違う場所を見付けると、力を入れて壁の表面の凍った雪をたたき割った。
雪の下から、鉄の扉が現れた。
「おお!」
全員が驚きの声を上げる。
「うむ」
メイトリックスは、満足げに頷く。
そして、扉の周りを叩いて氷の幕を払い落とし、取っ手を力一杯引いた。
扉は重々しい音と共に、ゆっくりと開いた。
扉の奥は暗闇で見えない。
メイトリックスは荷物から火打ち石と火打金を取り出そうとする。
「そんなの、必要ないわよ」
シンディが杖を振って明かりを灯す。
そして、壁にかかった幾つかのランタンを確認すると、火を放って着火した。
洞窟の中には、広々とした空間が広がっていた。
「入るぞ。凍えて死んじまう」
カサノバが前に進む。
それに続いて、全員が扉をくぐって洞窟の中に入っていった。
「なんか、箱だらけね」
マギーが周りを見渡して言った。
「ここに武器や物資を隠していたからのう」
メイトリックスが懐かしそうに言う。
「国王が殺されてから、わしら勇者達で集まってな。何年もかけて、ここで反撃の準備をしてたんじゃ」
少し涙声になっている。
「まだ何か残っているかもしれんな」
「油もたっぷり残ってるな」
カサノバが嬉しそうにストーブに火を付ける。
「お嬢さんたちも、寒かっただろう。こっちへ来いよ」
「別に、平気だから」
アリッサが意地を張って背中を向ける。
「えー、寒いじゃん。ストーブ暖かそう」
マギーがカサノバの隣に座り込む。
「寒いわね。すぐに洞窟が見つかって良かったわ」
シンディがアリッサの肩を抱いてストーブに近づく。
メイトリックスも両手をこすりながら、アリッサの隣に座った。
全員でストーブを囲んで暖を取る。
そして、しばらくイエティの魔獣の話で盛り上がった。
「シンシアを寝かせる場所を探さなくちゃね」
シンディが言う。
「この奥に食料の保管用の穴がある。そこなら冷凍状態を保てるはずじゃ」
メイトリックスが洞窟の奥に目をやった。
そして首を傾げる。
「あの箱はなんじゃ?」
メイトリックスの視線の先に、一際目立つ箱があった。
豪華な装飾がついた金色に輝く大きな箱。
「どれどれ、俺が開けてみるよ」
カサノバがその箱に近づいて、慎重に蓋を開けようとした。
開かない。
何度も試したが、蓋はビクともしなかった。
「だめだ。鍵がかかってる」
「私がやってみる」
マギーが杖を構えて魔法で開けようとする。
効果がない。
全員が諦めかけたその時、
「この箱ですが、シンシア様のノートに書かれているものに似ております」
テンが喋りだす。
アリッサが手首のスマートウォッチを見ると、テンがノートのページを表示していた。
「えーと」
アリッサは、表示されたページの文字を読む。
〈わたしの愛するあなたへ。いつかあなたは再び立ち上がる。その時のために〉
ピンときた。
「メイトリックス、箱を開けてみて」
訝しげな顔をしてメイトリックスが箱の蓋に手を掛ける。
何の抵抗もなく、箱の蓋は開いた。
「なんじゃ、これは!」
箱の中は四つに区切られて、お金、装飾品、武器、そして、魔法の小瓶がぎっしりと詰め込まれていた。
全員が驚いて箱の周りに集まった。
「これを、シンシアがわしの為に……」
メイトリックスが膝から崩れ落ちた。
「わしは、そんなに立派な男じゃない。わしは、お前に何もしてあげられなかった。お前が誰かも気付かなかった。お前の愛まで疑ってた……」
そして、メイトリックスは麻袋を引き寄せて、シンシアの顔を見る。
「お前を、こんな、酷い目にあわせて……わしは最低じゃ」
シンシアにそっと口づけする。メイトリックスの唇が凍りつく。
「うぅ、くぅ……」
苦しそうに呻くような声。
「すまん……許してくれ。こんな金はいらん。お前に……生きている、お前に会いたい」
メイトリックスの目から涙がぼたぼたと落ちる。
「どうして……どうして、こんな……」
そして、声を上げて泣き出した。
「うぉーん」
メイトリックスの泣き声が洞窟に響く。
しばらくの間、全員が黙っていた。
そして、テンが突然喋り出した。
「箱の中に、ポータルの魔法の小瓶もございます。これで、帰ることができますね」
「しっ」
アリッサが軽くスマートウォッチを叩いてテンを黙らせた。
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