第80話 雪山登山
「ここからは歩きじゃな」
メイトリックスが馬車を止めた。
アリッサがキャビンのドアを開けると、辺り一面、真っ白な景色が広がっていた。
通ってきた道には木々が生い茂っていたが、ここから先は、荒涼たる白銀の険しい斜面が続いている。
確かに、馬車では登れそうもない。
青い空と雪の積もった山肌のコントラストが眩しい。
「アリッサ、雪に見とれてないで、早く降りてよ」
後からシンディがせっつく。
「はーい」
素直に返事をして雪の上に降りると、脚が脛まで沈んだ。
ボスボスと雪に穴を開けながら前に進む。
――そうだ。あれをやろうっと。
アリッサは大の字の姿勢になって、背中から雪に倒れ込む。
バフッ
目の前に青い空が広がった。気持ちいい。
「何してるの?楽しそう!」
早速、マギーが真似て横に並ぶ。
バフッ
「きゃー、気持ちいい!」
「でしょ?雪に残った跡も可愛いのよ」
二人ではしゃいでいると、いきなり目の前が真っ白になった。慌てて顔から雪をどかす。
「二人とも遊んでないで手伝いなさい」
シンディの声。
でも、本気で怒ってはいない。
アリッサとマギーが目配せする。
「シンディもやってみたら」
「楽しいわよ」
そう言って二人でシンディを雪の上に押し倒した。
「きゃー、何するのよ!」
バフッ
シンディは、そのまま動かない。
「シンディ?」
「ごめん。大丈夫?」
アリッサは、起き上がろうとしないシンディが心配になって声をかけた。
シンディの顔を覗き込むと笑顔があった。
アリッサと目が合う。
「気持ちいいわね」
「でしょう?」
マギーが再びシンディの横に倒れ込む。
アリッサもその横で大の字になった。
バスッ
大きな音がした。
隣に大の字になったカサノバがいた。
一通り楽しんで馬車に戻ると、メイトリックスが準備を済ませていた。
アリッサは渡されたモコモコの毛皮を着込み、荷物を背負う。
――そうだ。耳当ても付けなきゃ
アリッサはお手製の耳当てを全員に配り、自分でも装着した。
毛皮に覆われてて暖かい。
「これは暖かくていいのお」
メイトリックスの嬉しそうな声。
「暖かいわ。でも、なんで耳が着いてるの?」
シンディの不思議そうな声。
そう。女性用は猫耳付き。
――だって、可愛いじゃない。
「シンディ、可愛いー!」
マギーの歓声が上がる。
「マギーちゃんも似合ってるわよ」
「アリッサだって可愛いじゃん」
はしゃいでいると、カサノバが不満そうに言った。
「なんで俺の耳当てには耳が着いてないんだ?」
メイトリックスが太陽の位置を確かめる。
鎧から防寒具に着替えた体は、いつもよりほっそりして見える。
「この天気なら、洞窟までは二時間ぐらいで着けるはずじゃ。少し急ぐぞ」
そして、麻袋に入ったシンシアを担ぎあげ、山に向かって歩き始めた。
その後を、シンディ、アリッサ、マギーと続き、しんがりをカサノバが守る。全員が1本のロープで繋がっていた。
アリッサは慎重に足元を固めながら、シンディの背中を追う。
雪が深くて、脚をしっかり上げないと前に進めない。
歩き始めて10分も経つと、脚が悲鳴を上げ始めた。
荒い息を吐いていると、体が持ち上がってメイトリックスの肩の上に乗せられた。
「軽いな。ちゃんと飯は食っとるか?」
後ろを見ると、マギーもちゃっかりとカサノバに担がれていた。
また10分ぐらい進む。
「もう大丈夫。降りる」
メイトリックスに降ろして貰って、歩き方を研究する。
大股で歩くと疲れちゃう。歩幅は狭い方がいい。
つま先から足を下ろすと滑りやすい。そーっと雪を平らに踏むと安定する。
目線はシンディの背中に固定。
――いちに、いちに……
掛け声でテンポを一定にして歩く。
チラッと後ろを見ると、マギーがアリッサの歩き方を真似ていた。
一時間ぐらい歩いた。
やっと半分だ。
「ちょっと休憩するか?」
メイトリックスが後ろに声を掛ける。
しかし、天気が怪しくなってきた。空も真っ白な雲に覆われて、風も出てきた。寒い。
「先を急いだ方がいいんじゃない?」
シンディが不安そうな声を出す。
「そうじゃな。洞窟まで、あと10分ぐらいあるからの」
メイトリックスの答えに全員が戸惑う。
「二時間かかるって言ってたよね」
アリッサがメイトリックスに確認する。
「はっはっは」
メイトリックスが笑いだした。
「山での到着予想時間にはマージンを上乗せするんじゃ。もう、洞窟は目の前じゃな」
ガーウー
突然、雄叫びのような声が響いた。
やまびこのように、不気味な声が広がって行く。
グールッ
それに応えるように別の声が響いて来る。
「まずい。囲まれたな」
メイトリックスはシンシアの入った麻袋を雪の上に降ろして剣を抜いた。
「みんな固まるんじゃ。来るぞ」
アリッサとマギーを囲んで、三人の大人たちが輪を作った。
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