第76話 アリッサの覚悟
「逃げるぞ」
カサノバが振り返って修道院の建物に駆け出す。
「クリツァは?」
カサノバの後を追いながら、アリッサが叫ぶ。
「放っておけ。俺たちが危ない」
アリッサが立ち止まる。
――そんなこと、出来ない……
そして、マギーを振り返る。
「拘束魔法はどうやったら解けるの?」
「え?それは、シンシアを倒すしか……」
マギーが力なく答える。
――それじゃ、戦うしかないじゃない。
アリッサがエリザベスとシンシアの方に向き直る。二人は徐々に距離を詰めてくる。
――怖い。でも、やるしか……ないか。
「アリッサ、これを!」
修道院の建物から戻ってきたカサノバが、アリッサに向けて何かを投げた。
ドサッ
それはアリッサの目の前の地面に着地した。
「聖母像?」
「あいつは修道女だ。そいつに攻撃は出来ないはずだ」
「分かった」
アリッサは剣を投げ捨てて聖母像を拾う。
「マギーちゃん、援護をお願い!」
そして、再びシンシアとエリザベスの方に駆け出した。
「お嬢さん、頑張るじゃないか」
エリザベスはそう言いながら、腰から白い刃のナイフを取り出す。
ホワイトタイガーの牙のナイフだ。
――あれに刺されたら死ぬかも……
アリッサは、そう思いながらも足を止めなかった。
マギーがエリザベスに向かって攻撃魔法を繰り出す。
方向は悪くない。
しかし、ことごとくシンシアに跳ね返される。
「当たらない……」
マギーが悔しそうに呻く。
エリザベスがナイフを構える。
アリッサは立ち止まる。
聖母像を頭の上にかざし、右手の鎧で顔を覆い隠す。
そして身構える。
エリザベスのナイフがアリッサ目掛けて力強く放たれた。
――速い!
狙われている場所が分からない。思わず目をつぶりたくなる。
その瞬間、青白い壁がアリッサを包み込む。
ナイフはマギーの防御魔法に阻まれて、アリッサの足もとに落ちた。
アリッサがそのナイフを拾う。
「この聖母像、全く効果ないじゃない!」
アリッサがカサノバに向けて叫んだ。
「そんな銅像に意味はない。所詮、人間の作った模倣品だ」
エリザベスの冷たい声。
「じゃあ、そっちの相方はどうかしらね」
アリッサは聖母像を力いっぱいシンシアに向けて投げつけた。
シンシアが動揺したのが分かった。
慌てて聖母像を受け取ろうと手を伸ばす。
マギーの放った攻撃魔法がエリザベスを襲った。
「当たった!」
マギーの驚いた声。
エリザベスがよろめいた隙を見て、アリッサがナイフを放つ。
「あっつ!」
エリザベスの声にならない叫び。
ナイフは鎧で守られていないエリザベスの右腕を貫いていた。
マギーの攻撃魔法が再びエリザベスを襲う。
エリザベスの体が跳ね上がった。
「今だ!」
アリッサはシンシアのそばに駆け寄った。
そして、右腕の鎧をシンシアの顔に押し付ける。
「シンシア!メイトリックスの鎧よ。そして、あなたの鎧を守る魔法」
シンシアの動きが一瞬止まった。
アリッサはクリツァの方を見る。
まだ拘束魔法は解かれていない。竜の魔獣は光の鎖に包まれたままだ。
「あなたはメイトリックスじゃない。帝国の回し者がうるさいわね」
シンシアはアリッサを払い避けた。
「その鎧はどうやって盗んだの?」
杖を構えてアリッサに向ける。
――仕方がない
アリッサはシンシアが手に持った聖母像を蹴り上げた。
「あっ」
聖母像がシンシアの手を離れて宙を舞う。
シンシアは、慌てて聖母像に手を伸ばす。
「今だ」
アリッサは、右手の鎧でシンシアの頭を思いっきり殴りつけた。シンシアに隙が出来た。
マギーがシンシアに攻撃魔法を叩き込む。
魔法を真っ正面から受けて、シンシアが倒れ込んだ。
「拘束魔法が解けたわ!」
マギーの叫び声。
「クリツァ、叫んで!仲間を呼んで!」
クリツァの鋭い雄叫びが響いた。
――テン、気がついて!
アリッサは心の中で祈る。
それと同時に、館の方からクリツァの吠える声が響く。
テンが録音したクリツァの声だ。
程なくして、竜の魔獣の群が空いっぱいに広がった。
そして、修道院と館の二手に分かれて散らばって行く。
「ちっ。シンシア、撤退するぞ」
エリザベスの苛ついた声。
シンシアの口元が微かに動いた。
アリッサは、その唇の動きを追う。
――わたしを……ころして……
そして、エリザベスとシンシアは陽炎のように消え去った。
「シンディとメイトリックスを助けに行くわよ」
クリツァが、アリッサ達三人を乗せて、館に向けて飛び立った。
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