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第75話 シンシアの居場所

「それじゃ、気を付けてね」

アリッサはパカラに乗ったメイトリックスとシンディに声を掛ける。


「任せなさい。わたくしが皆さんを救って差し上げるわ」

シンディがシンシアの声色で応える。


エリザベスに扮装したメイトリックスは居心地が悪そうに黙って頷いた。

「メイトリックス様は不安を感じていらっしゃいます」

メイトリックスの腕に巻かれたテンが喋る。


「大丈夫だ。すぐに俺たちが助けに行くからな」

カサノバは上機嫌だ。


「二人とも素敵だわ。一緒に行けなくて残念」

マギーは度重なる初めての出来事に興奮が止まらない。


「じゃ、よろしくな」

カサノバがパカラの尻を軽く叩いた。

パカラは軽くひひんと鳴いて、館に向かって走り始める。


竜の魔獣のクリツァが、惜しげにその姿を目で追う。

「クリツァ、パカラは食べちゃダメだからね」

アリッサがジェスチャーを交えてクリツァを叱る。

クリツァは伸ばしていた首を引っ込めて、大人しく横たわった。


アリッサ達三人は、シンディ、メイトリックス、パカラの姿が見えなくなるまで、手を振って見送った。

そして、その場に座り込んだ。


シンディ達からの合図が来るまで待機だ。


三人はしばらく黙って館の方を見ていた。

「あのー」

マギーが我慢できずに喋り出す。

「カサノバさんはシンシア……王女と幼馴染みなんですよね」

「そうだ」

「ということは、身分もお高いんですか?」

「わはははっ」

カサノバが吹き出した。

「そうは見えないよな。一応、俺は貴族の息子だよ」


――全く見えないわよ。

アリッサが心の中で毒づく。


「メイトリックスは貴族じゃなくて勇者よね」

マギーが続ける。

「どうしてシンシアは身分の違うメイトリックスを好きになったの?」


マギーの問いにカサノバは少し考える様子を見せた。

アリッサも、固唾を飲んで答えを待つ。


カサノバは静かに話し始める。

「俺たちが子供だった頃、小さな女の子が王女の馬車の前に飛び出してな」

「轢かれそうになった女の子を、メイトリックスが庇って大怪我を負ったんだ」


カサノバは遠くを見るような表情で続ける。

「シンシアは、その子の親を叱った」

「子供が飛び出さないように、親がちゃんと見ておきなさいってな」


カサノバが、ふっと笑った。

「しかしな、メイトリックスはこう言ったんだ」

『王女様。確かにその通りですが、この者達を罰してはなりません。恐れながら、子供というのは何を仕出かすか分からない生き物です。雑踏の中では、馬車をもっとゆっくり走らせて下さい』

「そして、あいつは怪我した体を引きずって、怯える親達の前に立ち塞がったんだ」


カサノバはため息をつく。

「俺はその場でシンシアの表情が強ばったのを見ていたよ」

「もちろんシンシアは罰するつもりはなかったんだろうが、自分が叱った相手は罰せられると気付いたんだな」


カサノバは、深く思いを巡らせた。

「他にも似たようなエピソードが沢山ある」

「そして、あいつは徐々に国民の人気者になって行ったんだ」


「そんなで良く首をはねられなかったわね」

マギーが無邪気に言う。

「だろう?俺はシンシアが裏で守ってたと踏んでる」


「お気に入りの少年の勇者が、愛する憧れの勇者に変わっていったのかー」

マギーがとろけるような声で言った。

「メイトリックスは昔から不器用で頑固で強かったからな」


「あんたとは大違いね」

アリッサが憎まれ口を叩く。

「そうか?本当は、俺のことも見直してるだろ」

カサノバの軽口。

――そういうのを口に出して言っちゃうとこよね

アリッサがため息をつく。


少しの沈黙


「遅いわね」

マギーが不安を口にする。


メイトリックス達は、とっくに館に着いているはずだ。

確かにそろそろ合図があってもいいはず……


「お!戻ってきた」

カサノバの指差す方を見ると、陽炎のような霧の向こうに二人の人影。


白のドレスを着たシンディと、修道服をまとったメイトリックス。


少しずつ近づいて来る。


ぼんやりとシンディが杖を振った姿が見えた。

鎖のような白い光がこちらに飛んで来る。


「拘束魔法!?」

マギーが叫んだ。

光の鎖はクリツァを包み込んで、その大きな体を拘束した。

クリツァが苦しそうな声を上げる。


「違う、あれは……」

アリッサが身構える。

右手には鎧を付けて剣を握っている。


カサノバも剣を構えた。


マギーが杖を振って霧を吹き飛ばす。


その先には、こちらに向かって来るエリザベスとシンシアの姿があった。


突然、周囲にシンディの声が響いた。

「助けて!やられちゃう!」

それは、テンが拡声した館からのメッセージだった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました!


「続きも読んでみたい」「面白かった」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


もちろん、読んでいただけるだけでも大変励みになります。

それでは、また次話で!

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