第69話 追撃の魔獣
若い魔法使い達が地上に舞い降りた。
次々と老婆アマンダや年配の魔法使いのところに駆け寄っていくのが見えた。
「私も、もう限界」
シンディが苦しそうに呻いた。
そして、シンディ、アリッサ、マギーの高度も下がって行く。
三人は、心配そうに見上げていたメイトリックスの側に降り立った。
その瞬間に、シンディが倒れる音がした。
「シンディ!」
マギーの叫び声。
「大丈夫。魔法を使い果たしただけよ」
アリッサが即座に答える。
メイトリックスは、黙ってシンディを抱えて、山の中の隠れ家に入って行った。
アリッサは、その姿を目で追って見送る。
――そう、きっと大丈夫。前もそうだったもの……
アリッサは、両手をぎゅっと胸の前で握りしめた。
「おばあちゃん!」
マギーが、老婆アマンダの所に駆け寄って行った。
膝を突いて両手で老婆の体を揺らす。
反応は、ない。
「いやだよ、おばあちゃん……戻って来て!」
マギーはアマンダに覆い被さって泣きじゃくった。
年配の魔法使い達は一人残らず死んでしまった。
その無残な遺体を前にして、若い魔法使い達の泣き声が響いた。
アリッサは、暫くの間、彼らを見つめた。
――飛行魔法は検知されたはず。
――そして、もうすぐ帝国の追撃が来る。
「ここで負けちゃだめ」
涙が出そうになるのをこらえて、声を出す。
「みんな、おばあちゃん達を隠れ家の中に移すわよ」
「そして、みんなにお願いがあるの」
マギーと魔法使い達は、怪訝な顔でアリッサを見た。
アリッサ達が準備を終えてしばらくすると、それは突然現れた。
土埃が舞い上がり、ドドドという地響きのような足音が迫ってきた。
「来た」
アリッサがパカラにまたがり、その土埃を指さした。
後ろには、マギーと若い魔法使いが三人。
そして、アリッサの前には剣を構えたメイトリックスの姿があった。
土埃が近づくにつれて、地面の揺れが大きくなっていく。
アリッサは目をこらして前方を見つめた。
「あれは……サイ?」
そこには、土埃を上げながら、高速で迫ってくる巨大な獣の姿があった。
鋭い角を生やして堅い革に覆われたサイの魔獣……
「あんなに大きいけど、大丈夫?」
「足が速すぎる!」
若い魔法使い達に動揺が走る。
「私が引きつけるから、予定通りやって!」
アリッサが声を張る。
そして、パカラをサイの魔獣に向けて走らせた。
「アリッサ、あの角に気をつけろ」
メイトリックスが叫びながら前進する。
アリッサは、真っ直ぐにサイの魔獣に向かう。
「パカラ、ごめん。もう少し耐えて」
魔獣の巨体は目の前に迫ってくる。
「よし、今じゃ!」
メイトリックスの合図とともに、アリッサはパカラの手綱を引いた。
サイの魔獣の鼻先ギリギリで、パカラが左に反転する。
魔獣の正面には、剣を構えたメイトリックスが待ち受けていた。
サイの魔獣が鼻先の角を下げてメイトリックスを襲う。
メイトリックスが右に跳躍する。
体を魔獣の横に滑り込ませて、剣を大きく突き出す。
その剣に向かって、魔獣の前足が食い込む。
剣の刃が魔獣の革と肉を切り裂き、血しぶきが飛ぶ。
メイトリックスは、そのまま体を滑らせて、魔獣の後ろ足を切りつける。
ぎゃーう
高い鳴き声と共に、サイの魔獣の巨体が立ち止まる。
そして、魔獣はゆっくりと体の向きを変えた。
ターゲットは、自分を傷つけた相手だ。
怒りに満ちた目で、走って逃げるメイトリックスを捉える。
そして、再び地面を蹴った。
「メイトリックス、もっと速く」
パカラに乗ったアリッサが、サイの魔獣の後を追う。
メイトリックスの走る先には、杖を構えた若い魔法使い達がいる。
アリッサは、そのままサイの魔獣の横を走り抜ける。
そして、走って逃げるメイトリックスに追いつき、手を差し伸べた。
メイトリックスは器用にパカラの横腹に足をかけ、馬上に納まった。
アリッサは、地面の一点を見つめてパカラを駆る。
すぐ後ろには、サイの魔獣が迫ってくる。
「パカラ、行くわよ。マギーちゃんお願い!」
アリッサのかけ声と同時に、マギーの杖から魔法が放たれる。
3人の若い魔法使い達も同時に魔法を放つ。
その魔法は、アリッサ達に向かっていた。
パカラの馬体が宙に浮いた。
アリッサとメイトリックスは、必死でパカラにしがみつく。
その背後で、地響きが轟いた。
魔法で隠されていた穴に、サイの魔獣が落ちていく。
どすーん
サイの魔獣の巨体は、大きくて深い穴の底に収まった。
「念のため、大きめに掘っておいて良かったわね」
マギーがほっとした声でつぶやいた。
山の上から乾いた拍手の音がした。
見上げると、そこには澄ました顔で立っているカサノバの姿があった。
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