第67話 守るべきもの
エリザベスは唇で指を咥えながら、メイトリックスを舐め回すように見ていた。
「新しい鎧の着心地はどうなんだい」
ニヤリと笑い、勢いよく一歩前に踏み出す。
エリザベスの着ている鎧がガシャンと音を立てる。
「あんたのお古の鎧は、なかなかの着心地だよ。鎧を守る魔法付きだしな」
アリッサを一瞥する。
「お嬢ちゃんに、右腕だけ取られちまったけどね」
いつの間にか、エリザベスの右手にはナイフが構えられていた。
そのナイフを舌で舐める。
「それも、すぐに返して貰うさ」
メイトリックスは無言で一歩前に出た。
その動きで、アリッサとシンディはメイトリックスの影に隠れる。
「シンディの人形で脅かすなんて、趣味が悪いじゃない」
アリッサが声を荒げて前に出ようとした。
「ふふっ、シンディ……ね」
エリザベスのバカにしたような笑い。
「よしなさい」
シンディが慌ててアリッサの肩をつかんで後ろに引き戻した。その顔色は真っ青だった。
魔法使い連盟が杖を構えてエリザベスとの距離を詰める。
「お前さんとその獣たちは、その結界を破れんぞ」
老婆 アマンダが言い放った。
他の魔法使い達も、アマンダに従って陣を組む。
結界は青白い光を放って、エリザベスとホワイトタイガーの魔獣達を阻んでいた。
そのまま数分の時間が過ぎた。
――何かおかしい。エリザベスは何を待ってるの?なんで人形を投げ込んできたの?
アリッサが違和感を感じた瞬間、エリザベスが言った。
「そろそろ、だな」
突然の轟音。
ハッとして音の方を見る。
アリッサは、爆発した人形から沢山の武器や物が飛散する瞬間を目にした。
メイトリックスがアリッサとシンディを押し倒し、覆い被さる。
そして、目の前が真っ白になった。
しばらくしてメイトリックスは立ち上がった。
「怪我はないか?」
アリッサとシンディは黙って頷く。ショックで声が出なかった。
山の中の隠れ家を覆っていた結界は失われていた。
周りを見渡す。
白煙の向こうに倒れた魔法使い達が見えた。
辺りには、武器や物が散乱していた。
――時計?アクセサリー?古い剣?
「引っ越しで出てきたガラクタを返してやる。館も安全じゃなくなったからな」
エリザベスの声が響いた。
――これは、館襲撃で死んだカサノバの仲間たちの武器?
――そして、館で死んだ者達の遺品?
シンディが十字架のペンダントを見つけて拾い上げた。
「これは、あの子の……」
そっと胸に当てる。
涙が溢れ落ちた。
魔法使い連盟は壊滅状態だった。
年配の魔法使い達が大きな傷を負っていた。
それを、マギーと二人の若い魔法使い達が治療して回っている。
「もう結界を張りなおす魔力は無さそうね」
エリザベスが二頭のホワイトタイガーを従えながら、魔法使い達に近づいて行く。
――まずい。魔法使い達がやられちゃう。
アリッサが駆け出すより早く、メイトリックスが魔法使い達とエリザベスの間に割って入った。アリッサが後に続く。
「アリッサ、邪魔だ。来るんじゃない」
メイトリックスに言われて、アリッサの脚が止まった。
シンディが追い付き、後ろからアリッサを両腕で包み込む。
「バカね、彼に任せておきなさい」
「うん……」
情けなくて、思わず涙が出た。
――わたし、足を引っ張ってばかりだ……
エリザベスは立ち止まり、ホワイトタイガー達をけしかけた。
「さあ、お前達。狩の時間だ」
そして、魔法使い達を真っ直ぐ指差した。
二頭の魔獣は牙をむきだして突進して来る。
マギーが杖を振って攻撃魔法で反撃した。
魔獣を狙って、白い魔法の玉を放つ。
しかし、魔法は大きく逸れて、魔獣から離れた地面で弾けた。
他の二人の若い魔法使い達も、慌てて参戦する。しかし、ホワイトタイガー達は巧みに魔法を避けて近づいて来る。
メイトリックスが魔法使い達を守るように前に出た。
一頭のホワイトタイガーに向かって剣を振る。
魔獣は後に跳んで、剣は空を切った。
もう一頭が隙を見て横をすり抜けようとする。すかさずメイトリックスが蹴りを入れる。
ぎゃんっ
脚がホワイトタイガーの腹部を掠めた。
魔獣が地面に倒れ込む。
しかし、すぐに起き上がって唸り声を上げ始める。
二頭のホワイトタイガーは低く唸りながら、メイトリックスから少し離れた場所で左右に動き始めた。
「シンディ!何をしておる。早く飛行魔法で逃げなされ」
老婆アマンダの声が響いた。
「お前さんなら三人は運べる。残りはあたしらで何とかする」
メイトリックスが叫ぶ。
「わしは残せ。戦えるのはわしだけじゃ」
シンディが立ち上がった。
フライパンを投げ捨てて杖を振る。
シンディ、アリッサ、マギーの三人が宙に舞った。
「いや、お祖母ちゃん!逃げて!」
マギーの泣き叫ぶ声が響いた。
――メイトリックスは大丈夫。勇者だもの。
アリッサは、心の中で呟いた。
体が空中に舞い上がる途中で、アリッサの頬に水滴が落ちた。
上を見ると、シンディの顔が見えた。
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