第66話 死の恐怖
メイトリックスが剣の構えを解いた。
そして、ゆっくりと老婆達に向かって歩いて行く。
「シンディは帝国に寝返ったりしていない。それはわしが保証する」
そして、おもむろに剣を地面に突き刺し、ひざまづいた。
親指を剣の刃に這わせる。切れた指から血がにじみ出た。その血を地面に数滴落とす。
「勇者の名において、この剣に誓う」
凜とした声が響いた。
魔法使い達は、しばらく静かにメイトリックスの姿を見守っていた。
「アマンダ様、本当に信じて良いのですか?」
若い男の魔法使いが沈黙に耐えきれずに口を開く。
「ふふっ」
老婆の含み笑い。
「勇者の誓いか。初めてみたよ」
そして、あっけにとられて立ち尽くすシンディを一瞥する。
「この勇者は命を預けるって言ってんだよ。そのシンディの潔白のためにさ」
老婆アマンダは杖をメイトリックスに向けて降った。メイトリックスの指の傷が消える。
「誓いなんぞいらんわ。魔法使い連盟会長のわしが間違いを認めたからな」
そして、アリッサに向けて、再び杖を振る。
「え?なに?」
驚いたアリッサが首を縮める。何も起きない。
「小娘、怖がらんでいい。追尾魔法を解除しただけじゃ」
シンディは老婆アマンダを睨みつける。
「アマンダ。子供たちを利用するなんて、随分と卑怯じゃない」
そして、魔法使い達の背後を指さす。
「その胸くそ悪い映像も、いい加減消してくれない?」
シンディの指した先には、結界の光に浮かび上がる二人の人影があった。
メイトリックスから奪った鎧を着たエリザベスと相棒の魔法使いの姿。
「映像など、もう出しておらんぞ」
老婆アマンダの怪訝な声。
「映像じゃない。帝国の敵よ!」
アリッサの叫び声。
魔法使い連盟の面々が振り返ると同時に、何か小さな物が飛んできた。
「うがっ」
若い魔法使いが倒れる。胸に白いナイフが刺さっている。見覚えのあるエリザベスのナイフ。
急いで他の魔法使いが治療魔法を試みる。効果がない。
「俺の息子が、死んじまった……」
年寄りの魔法使いが力なく言った。
「やだ。死んじゃったの?」
マギーの泣き声。
「なんでよ。いやよ。もう帰りたい」
――なんで、こんな事に……
――もう人が死ぬのは嫌だよ……
アリッサの胸が痛んだ。
――みんなで生き延びるんだ。絶対に!
「気をつけて!ホワイトタイガーのナイフよ。魔法は通用しない」
アリッサが再び叫ぶ。
「あら、お嬢さん。私の可愛いナイフを覚えていてくれたみたいだな」
エリザベスの声。
「魔法使い連盟も意外とバカだな。追尾魔法なんて、簡単に検知されるのに。提督の言うとおり、私が潰してあげる」
目を凝らすと、エリザベスの背後に二頭の白い獣が見えた。
「今日は、ホワイトタイガーの魔獣達も連れて来たからな」
魔法使い連盟の面々がざわついた。
「追尾魔法を帝国に検知された?」
「大丈夫だ。あの二人は結界に入れない」
「しかし、あの魔獣には魔法も結界も効かないんじゃないか?」
「ナイフも結界じゃ防げない。刺されたら終わりだ」
そして、じわじわと恐怖が広がっていった。
「シンディ!あの隣の魔法使いって、まさか……」
アリッサがシンディにささやき声で話しかける。
「黙ってて」
シンディは杖とフライパンを構えたまま、少しずつエリザベス達との距離を縮めていった。
「お前たち、私の相棒が気になるのか」
エリザベスの見透かしたような声が響く。
隣の人影は微動だにしない。
エリザベスは、その相棒の背後に回り込み、両手で抱き付いた。
そして、顔を寄せて口づけをする。
「ふざけないで!」
シンディの怒号。
エリザベスは、相棒から唇を離して頬を寄せたまま、シンディに顔を向ける。
「あなたにそっくり。ここの傷も」
そして、左手で相棒のスカートをたくし上げて、太股を撫でる。
右手にナイフが光った。
相棒の首筋に突き立てる。そのまま胸に向かって体を引き裂いた。
「いやー!」
シンディの悲鳴。
エリザベスは何度もナイフを相棒に突き刺し、最後に首を身体から切り離した。
そして、髪をつかんで頭部を結界の中に投げ入れた。
ゴロゴロと頭部が転がって、シンディの足元に届いた。シンディは目を背けて座り込む。
アリッサはシンディに駆け寄った。
そして、転がってきた頭部を拾った。
「シンディ、血が出てない。人じゃないわ」
精巧に出来た人形だ。
シンディそっくりの顔。気持ちが悪かった。
頭部を思いっきりエリザベスに投げつける。
エリザベスは微笑みながら蹴り返す。
そして、身体の部分も結界の中に投げ入れてきた。
「よく出来てるだろう」
エリザベスは、シンディとメイトリックスに目を向けた。
「お前たち二人への、提督からの贈り物だ」
メイトリックスは無言のまま、剣を構え直した。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
「続きも読んでみたい」「面白かった」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。
もちろん、読んでいただけるだけでも大変励みになります。
それでは、また次話で!




