第64話 疑惑
アリッサが意識を取り戻すと、
薄暗い部屋の床の上に寝かされていた。
手足が何かで固定されている。
首だけ動かして周りを見渡すと、狭い倉庫のような部屋だった。
周りには誰もいない。
耳を澄ませても、何も聞こえなかった。
「アリッサ様、お目覚めでございますね。ご安心ください。身体に異常はございません」
テンが緊迫感のない報告をする。
「テン、ここはどこ?あの後、何があったの?」
アリッサはささやき声でテンに尋ねる。
「アリッサ様が気を失われた後、魔法で手足を固定されてこの部屋に運ばれてきました。それから1時間ほど経過しております」
だとすると、ここは魔法の杖屋の倉庫か。時間もそれ程経っていない。
「あの人達はいったい何者なの?マギーちゃんは大丈夫なの?」
テンが答える前に、倉庫の扉がゆっくりと開いた。ランタンの光が射し込んで来る。
「アリッサ……起きてる?」
マギーの声だ。
「マギーちゃん、いったい何があったの?」
アリッサは擦れた声を出した。
聞きたいことが沢山あった。
マギーはランタンを倉庫の壁に掛けた。
そして、アリッサを抱き起こした。
「あれは、魔法使い連盟の人達。私のおばあちゃんが会長なの」
――確か、マギーのおばあちゃんは、カール爺さんが捕まった時に寝込んでいなかったっけ。
――ちょっとイメージと違ったな。
アリッサがどうでもいい事を考えていると、マギーは魔法の杖を取り出した。
杖を振ってアリッサの手足を解放する。
そして話を続けた。
「話すと長いんだけど」
「隣町に帝国に歯向かっていた人達がいてね」
「帝国の兵士たちとぶつかってたの」
「魔法使い連盟も、その人達を密かに支援してた」
マギーは一呼吸置いた。
「その人達が、先週一気に滅ぼされた」
「帝国の兵士たちとシンディによって……」
「え?」
アリッサは聞き間違えかと思った
「おばあちゃんたちは、そう思ってる」
マギーは弱々しい声で告げた。
「兵士たちを率いていたのが、ナイフ使いの修道女と回復担当の魔法使いだっていうのよ」
「おばあちゃんたちは、その魔法使いがシンディだって疑ってる」
――エリザベスだ。そして、治療魔法が得意な魔法使い。カサノバがやられた時と同じだ。
「この話をシンディ達にも伝えてちょうだい」
そう言いながら、マギーはアリッサに小さな瓶を渡した。
「鎧を守る魔法を詰めた瓶よ。メイトリックスおじさんに渡してね」
シンシアが作った魔法だ。
「私も魔法使いの端くれだからね。魔導書を読んで勉強してるのよ」
マギーは少し自慢げに言った。
そして、マギーはアリッサの背中を押した。
「とにかく逃げて。おばあちゃんたちが戻って来ちゃうから」
そして、魔法の杖屋から外に出された。
――お礼をいう間も無いんだから。
アリッサは心の中でマギーへの感謝を伝えた。
町の外の厩に戻ると、待っていたパカラが嬉しそうに嘶いた。
アリッサは急いでパカラを走らせて、山の中の隠れ家に向かう。
――なんでシンディが疑われるのよ。早く伝えなきゃ。
隠れ家が見えてきた。
厩舎のある南の入り口にパカラを向ける。
そして、パカラから降りて扉を開けようとした。
その瞬間……
バリバリバリッ
大きな雷の様な音と共に、空を青白い光が包んだ。
光はドーム状になって隠れ家の周りを覆って行く。
隠れ家の中から、新しい鎧を着て武装したメイトリックスと、フライパンを手にしたシンディが飛び出して来る。
「なんじゃこれは」
「なによ、これ」
メイトリックスとシンディが同時に叫び声を上げた。
――そうだ。魔法の瓶。
アリッサはマギーから貰った魔法の瓶を取り出した。中にはキラキラとした液体が入っている。
アリッサは蓋を開ける。
「メイトリックス、ちょっと屈んで」
「なんじゃ、急に」
アリッサは不思議そうな顔をしたメイトリックスに近づき、瓶の中身を鎧に振り掛けた。
「シンシアの魔法だよ」
驚く二人を尻目に、アリッサは急いで鎧の片腕を取りに行く。
そして、右手に装着して二人の隣に並んだ
隠れ家はすっかりドーム状の光に包まれていた。
もう逃げられない。
光の中から10人ほどの魔法使い達が姿を見せた。
全員が杖を構えてこちらを静かに見つめていた。
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