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第62話 爪痕

それから、隠れ家に帰るまでが大変だった。


途方に暮れているカサノバの仲間たちを勇気づけ、

馬車とパカラを貸し与え、

みんなで、何とかカサノバを馬車のキャビンに運び上げた。

そして、町はずれの酒場まで帰っていった。


シンディは竜に乗るのを嫌がり、

魔法で帰ると言い張った。

クリツァは嫌がるシンディとアリッサを咥えて自分の背中に乗せ、

メイトリックスをベッドごと咥えて持ち上げて飛び立った。


そして、三人は山の中の隠れ家に戻った。


パカラと馬車は次の日に戻ってきた。

カサノバの仲間の一人が届けてくれた。

馬車には沢山の食料品が積み込まれていた。


そして、日常に戻った。

……はずだった。


メイトリックスの体は順調に回復した。

しかし、元から少なかった口数が、更に減った。

そして、時々、シンディの顔から目を逸らすようになった。

新しい鎧を設計し、製作するのに没頭している。


シンディは変わらず明るく振る舞っていた。

しかし、太股には大きな傷痕が残った。

時々、傷痕を眺めてぼーっとしている。

そして、歩くときに少し足を引き摺るようになった。


カサノバの様子は、時々来てくれる仲間たちが教えてくれた。

意識が戻ったけれど、記憶を失っているのか、何も喋らないそうだ。

頭痛が酷いらしく、毎日ベッドで過ごしているらしい。


そして、カサノバの仲間たちは、相変わらず町はずれの酒場にいる。

新しい仲間も増えているらしい。

毎日、武勇伝で盛り上がっているそうだ。


アリッサは、毎日、秘密基地に籠もっていた。

通話用の管に詰めていた干し草と布切れは取り外した。

――私は、今まで帝国や館と戦っているのは自分だけだと思ってた。

――定期便の襲撃も秘密にして一人でやってた。

――そういう秘密を作るのを止めることにする。


そして、ホワイトタイガーがぶら下げていた機械を調べるのに没頭した。


アリッサがクリツァと修道院に戻った時、

ホワイトタイガーの死体は他の魔獣に回収されて消えていた。

そして、この機械の箱だけが残されていた。


アリッサは、破壊したい衝動を抑えて、

その機械の箱を持ち帰ったのだった。


機械の箱は立方体でソフトボール位の大きさだ。

そして、センサーの塊だった。

中にはカメラ、マイク、その他、色々な装置が詰まっていた。


底には蓋が付いていて、中にバッテリーらしき物が入っていたが、回収時に外してある。

電源が入ると情報が帝国に送られてしまうからだ。

そして、隠れ家の場所も分かってしまうだろう。

だから、バッテリーを戻す訳にはいかない。


――でも、帝国は、どうやってこの機械で魔獣を操っているのだろう。


帝国に操られていた魔獣たちは、必ず機械の箱を首からぶら下げていた。

黒豹も、猿も、ホワイトタイガーも……

そして、正気を失っていた。


アリッサは何度も何度も、機械の箱をひっくり返しては観察した。

何か分かることがあるかも知れない。

今は出来る事をやるしかない。


しかし、今のところ、何も得る物は無かった。


「ごはんよー」

シンディの声が隠れ家に響いた。

明るい声だが、どこか寂しげに聞こえてしまう。


「はーい。今行くー」

アリッサは出来るだけ元気な声で応えた。


昼食中はいつも通りシンディの世間話が続いた。

しかし、修道院や館の話題には誰も触れない。


「鎧の設計の調子はどうなの?」

アリッサがメイトリックスに尋ねる。

「うむ。大分出来上がってきたが、まだしっくりこないのじゃ」

メイトリックスは眉間に皺を寄せた。

「いい職人が見つからなくてのう」

「へー、やっぱり職人の腕次第なのね」


アリッサは頷いた。

どの時代でも良い職人は大事だ。


アリッサは、ふと思いついて言った。

「私が作ろうかな」

そして、メイトリックスの顔を見ると、明らかに困っていた。


そして、シンディが呆れた声で言った。

「そういうのはプロに任せておけばいいのよ」

「もっと別のことに時間を使いなさい。女の子なんだから」


――なんだかいいな。いつもの会話。

アリッサは、思わずニヤけてしまう。


その時、パカラの鋭い鳴き声が聞こえた。

怯えているような、甲高い嘶きが続いた。


「ちょっと様子を見てくる」

アリッサは立ち上がって厩舎へと向かった。


厩舎でパカラは落ち着きなく動き回っていた。

外に向かう通路の方を気にして怖がっている様子だった。


「何かいる?」

アリッサは干し草用のピッチフォークを手に取り、通路の先の扉に近づいた。


そっと扉を開けると、口に何かを咥えて座っているウルフィの姿があった。

毛並みが乱れて痩せていた。


「ウルフィ!」

「うぉん」


アリッサの声にウルフィが呻り声で応える。

そして、咥えていた物を、そっと地面に置いた。


小さな、血だらけの機械。

「これ、何?」

ウルフィは悲しそうな鳴き声をあげた。


アリッサは、ウルフィがつがいと一緒に群から追放された時のことを思い出していた。

しかし、周りを見渡しても、つがいの姿は無かった。


「あなたのパートナーは、どこ?」


そして、自分の過ちに気がついた。


帝国の館から戻ってきた人達の体内には、機械が埋め込まれていた。

アリッサは機械を無効化する方法を考え、その情報を魔法使い達に展開した。


しかし、つがいの狼も同じように館から戻ってきたのだ。

体内の機械と共に。


「ごめん。ウルフィ……私はあなたたちを助けてあげられなかった」

アリッサの涙がウルフィの頭に落ちた。


ウルフィは低く唸りながら、しばらくじっとしていた。

自殺したのか殺されたのかは分からなかったが、恐らく、つがいはもうこの世にいない。


ウルフィは死んだつがいを弔う為に、食べて機械を見つけたのだろう。


アリッサの涙は止まらなかった。

ウルフィはしばらくすると、立ち上がり、

ふっと顔を上げて、アリッサの頬を伝う涙を舌で舐めた。

そして、ひと唸りしてから背中を見せて去って行った。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!


「続きも読んでみたい」「面白かった」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


もちろん、読んでいただけるだけでも大変励みになります。

それでは、また次話で!

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