第60話 カサノバの屈辱
カサノバが去った後、
アリッサは頭の中を整理する。
――カサノバ達とメイトリックスは、この修道院で待ち合わせしてた。
――目的は、恐らく、館の襲撃………
――シンシアは、そのための情報を集めてた。
――それをメイトリックスが引き継いだ。
アリッサは、以前、メイトリックスがカサノバと交渉し、隠れ家を譲って貰った事を思い出した。
そして、エリザベス。
彼女はここで待ち伏せしてた。
誰を?
メイトリックスを。
どうして?
館襲撃を知っていたから。
帝国に……計画が漏れている。
「……アリッサ……」
か細い声。
シンディが目を覚ました。
「ちょっと、手を貸してちょうだい」
上半身を起こそうとしている。
「わかった。でも無理しちゃ駄目よ」
アリッサはシンディを助けに行く。
「ありがとう」
再びか細いシンディの声。
そして、おもむろに杖を取り出して振り上げた。
「駄目!無理よ!」
シンディの杖から回復魔法が飛ぶ。
その先はメイトリックス。
一瞬で途切れる。
シンディがベッドに倒れ込む。
「メイトリックスが死んだら、
私のせい………」
弱々しい声。そのまま気を失う。
アリッサは、
シンディの手から杖を取り上げた。
「テン!シンディの状態をチェックして」
スマートウォッチが震える。
『シンディ様は寝ておられるだけでございます』
――まったく、世話が焼ける。
――杖は暫く没収だわ。
そして、そっとシンディの太股を覗き込む。
大きな傷跡。シンシアと同じ場所に……
「あの女、許さないから」
毒づいてから、メイトリックスの様子を見に行く。
「テン!」
『メイトリックス様の状態チェックでございますね』
テンが先回りして答える。
『今の回復魔法が効いてます。
傷が少し回復して、血圧と心拍数も安定して来ました』
アリッサはホッとして、膝から崩れ落ちた。
「良かった……」
しかし、カサノバ達が心配になってきた。
提督とエリザベスの罠に落ちていないだろうか。
しかし、急激に眠気が襲って来る。
アリッサは逆らえずに床に横たわった。
バンッ
突然扉が乱暴に開かれた。
「何?」
アリッサが飛び起きる。
血だらけの男たち。
カサノバの仲間たちだ、
足を引きずりながら、修道院に入ってくる。
一人、二人……三人……
それだけ?十人以上はいたはず。
「カサノバは?他の仲間は?」
アリッサが聞いても、
男たちは首を横に振るだけ。
そして、床に倒れ込む。
一人は右片腕がない、もう一人は左足がない。
そして、最後の一人は首が…… 手を繋いだまま、二人に引きずられて連れてこられた死体だった。
「どうしよう」
アリッサは二人を引きずって、床に寝かせた。
「テン、どうすればいいの?」
『シンシア様のノートをご覧になりますか?』
シンシアの医療記録のノートは、カサノバが持っていってしまった。
「見たくても、ここにないから」
『台の上に放置されておりましたので、
透過センサーで全ページを撮影しました』
テンの誇らしげな声。
「テン!やるじゃない。薬品の種類と使い方のページを探して」
アリッサはテンからのアドバイスを貰って、二人の男たちを介抱した。
包帯もなんとか綺麗に巻けた。
しかし、失った腕と足は戻らない。
治療が終わって少し落ち着いたが、
男たちの意識は途切れ途切れだった。
聞き出せたのは、
片腕が欠けた鎧を着たナイフ使いの女、そして治療魔法が得意な魔法使い。
そして、大勢の帝国の兵士に待ち伏せされた。
館は地獄と化した。
――帝国は魔法使いが嫌いなはずなのに……
帝国の兵士たちは、倒しても倒しても復活し、カサノバ達はあっという間に押されていった。
「カサノバの兄貴は
俺たちに逃げろと言ったんだ」
男が涙ぐむ。
「その瞬間に女にナイフで手足を切り落とされて……」
――見せしめだ
――一人は腕を、もう一人は足を、そして、三人目は首を切り落として、そのまま逃がした。
アリッサの背筋が凍る。
ここも危険だ。
追っ手が来る。
その瞬間に扉が再び開いた。
アリッサは身構えた。
扉から現れた男は
ゆっくりと床に倒れ込んでいく。
「カサノバ?」
男が床にぶつかり、
バンッという大きな音が響いた。
カランカラン
割れた腕輪が床を転がった。
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