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第58話 聖女の生き様

体を丸めて

痛みに耐えるアリッサに、

エリザベスの足音が近づく。


そして、アリッサの顔を覗き込む。


「可愛らしいお嬢さん」

「もう竜の魔獣は呼ばないのか」


そして、何か箱のような物を

アリッサの目の前に置いた。


「あの人からの贈り物だ」


ガーゴイル社のロゴが目に入った。


……オペレーター


アリッサは慌てて箱を拾って開ける。


空箱……

唇を噛む。


「あら、お気に召さないみたい」

エリザベスの完璧な微笑み。

こんな時じゃなければ見惚れそうだ。


「いらないなら、返して貰おうか」


カツンとハイヒールの音。

エリザベスの姿が目の前から消える。

と、同時に、横腹に激しい衝撃。


「うぐっ……」


体が宙に浮き上がり、床に叩きつけられる。

うつ伏せの背中に硬い感触。

踏まれてる。


「嫌ーっ、止めて!」


ハイヒールが背中にめり込む。

激痛が走る。声が出ない。


目の前に空き箱。


ハイヒールで踏み潰される。

恐怖で体が痙攣する。


「顔じゃなくて良かったな」


シンディが杖を振る。

青い光がアリッサに向かって飛ぶ。


「せっかく折った背骨が元通りか」


カツン

エリザベスのハイヒールが鳴る。


「治っても痛みは体が覚えてるわよ」


アリッサの体が震える。


「ほら、さっきより怖いでしょう」


カツン

再び背中に激痛が走る。

涙が溢れる。


「エリザベス!止めろ」

メイトリックスの声。


「ふふっ」

エリザベスの天使のような笑い声。

ハイヒールの音が

メイトリックスに近づいて行く。


「いつまでも過去や痛みに縛られてる、

かわいそうな男」


いつの間にか、

右手にナイフが握られている。


エリザベスの右手が、

メイトリックスの胸に向かって

振り下ろされる。


アリッサが飛び込む。


ガツッ

鈍い音。


装着された右手の鎧が

ナイフを弾いていた。


エリザベスは、

メイトリックスの頭部を蹴りつける。


頭部への大きな衝撃で、

メイトリックスは気を失う。


アリッサは、

メイトリックスをかばって覆い被さる。

さっき踏みつけられた背中が、

焼けた様に熱い。


「ほお」

関心する様な声。


「痛そうだな」


エリザベスはシンディに目をやり、

顎をクイっと振った。

「治療してやれ」


シンディは不思議そうな表情で、

アリッサに治療魔法を飛ばす。


エリザベスのハイヒールの音が

シンディに近づいて行く。


そして、治療魔法が終わると同時に、

シンディに向かってナイフを投げた。


「何するのよ!」

シンディが倒れ込む。


ナイフはシンディの太股に

深々と刺さっていた。


「その傷は一生残るぞ」

エリザベスの満面の微笑み。

「ホワイトタイガーの牙を使っているからな」


……あいつ、わざと太股を

アリッサがエリザベスを睨みつける。


「シンディ!

 そのナイフを私に投げて!」

アリッサが叫ぶ。


「わ、分かったわ」

シンディが痛みをこらえて、

太股からナイフを抜こうとする。


エリザベスの右手がその手首を掴む。

「抜くと死ぬぞ」


一瞬の間。

エリザベスが再び微笑む。


そして、掴んだ手首を、

太股に向けて動かして行く。


ナイフが更に深く突き刺さる。

「いっ………た………」

シンディが床に倒れ込む。

体が痙攣している。


「不幸な女。何も決められない」

ナイフの柄を指先で弾く。

シンディの体がビクリと動く。


「しがらみに囚われてると、

幸せなんて一生来ない」


「………うるさいわね。

裏切り者のくせに」

シンディの苦しそうなうめき声。


アリッサの頭に血が上る。


エリザベスの足音が、

アリッサとメイトリックスに近づく。


「おちびちゃん。

覆い被さっても、無理」


エリザベスの右手には、

もう1本のナイフ。


アリッサは、

メイトリックスに被さって

うつ伏せのままだ。


しゃがみこむ。

「ここ、とか」

エリザベスのナイフが、

メイトリックスの肩に吸い込まれていく。

引き抜く。

赤い血が吹き出てくる。


アリッサは、

慌ててメイトリックスの傷口を

左手で押さえる。


「ここ、とか」

次はメイトリックスの左の横腹。

ナイフが刺されて抜かれる。

血が吹き出る。


「私はね、毎日、コイツらに祈りを捧げながら戦いを見ていた」


次は脚。

ガツッ

アリッサの右手の鎧。

なんとか守る。


「でも、みんな死んでいく。

 最後は修道院に誰も治療に来なくなった」

 

次は手のひら。

ガツッ

わざと急所を避けている。

 

「負けるんだと悟った」

「だったら、捕虜になる前に帝国の仲間になろうと思った」


右の横腹。

防御が間に合わない。


血の海。

もう押さえる場所が分からない。


「その方が、良い待遇で奇麗な生活を送れる」


足くび。

ガツッ


「考えてごらん。帝国は何が悪なの?」


エリザベスのナイフが

アリッサの頬を撫でる。

背筋が凍る。


「抵抗するから戦争になる」


一拍


「神はどっちの味方でもない。

 強い方につくだけだ」


エリザベスが両手でナイフを構えなおす。

……来る

アリッサは咄嗟に仰向けになり、

振り下ろされたナイフの動きを追う。

肩で受ける。


今までにない激痛が走る。


ナイフは、そのまま貫通して、

メイトリックスの胸に刺さる。


アリッサの下で、

メイトリックスの体が跳ねる。


修道院の扉を開ける音。

大勢の人の足音。


アリッサは朦朧としたまま

遠ざかるエリザベスの背中を見た。


意識が遠のいて行った。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!


「続きも読んでみたい」「面白かった」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


もちろん、読んでいただけるだけでも大変励みになります。

それでは、また次話で!

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