第57話 修道女 - エリザベス
しばしの沈黙。
シンディも何か言いたげだが、
迷っている様子。
一拍。
「……雨だな」
メイトリックスがポツリと言う。
アリッサとシンディが外に目をやると、
小さな雨粒が降り始めていた。
「パカラを屋根の下に連れてくる」
アリッサは、少しほっとして
修道院の扉に向かった。
と同時に扉が開いた。
黒い長身の人影。
「誰だ?」
女性の声。
頭から肩まで黒い布で覆われている。
修道女のようだ。
「シスター エリザベス。
久しぶりじゃの」
メイトリックスが
立ち上がろうとする。
シンディが慌てて制する。
「無理しないでよ」
ちらりと修道女を見る。
そして、小さく呟く。
「……美女の前だからって」
アリッサは、
思わず修道女のベールの下を覗き込む。
「うわっ」
思わず声が出る。
モデルさんみたいに奇麗な顔。
「あの馬車馬はパカラというのか」
その奇麗な顔が、
アリッサに向かって微笑む。
「馬は多少の雨でも大丈夫だ」
ポンと頭を叩かれた。
そして、
メイトリックスに向かって歩いて行く。
――カッコいい
アリッサはエリザベスの姿に見惚れた。
「メイトリックス。
何故、ここにいる」
エリザベスは首を傾げる。
「ここは、
お前にとって地獄だろうに」
メイトリックスが
苦笑した気がした。
エリザベスが続ける。
「お前たちは、戦い、傷つき、ここに送られて、
休む間もなく治療されて、
再び戦場に送られてた」
「首を斬られるか、
心臓や頭を刺されて死ぬまでな」
そして、遠くを見る。
「戦いが終わった今は、
単なる寂れた修道院だけどな」
シンディが口を押さえる。
……シンシアは、
ここで、そんな仕事を……
傷ついた勇者達は、
魔法使いがすぐに治療する。
だからベッドは必要ない。
その無限ループは、
致命傷で死ぬまで続く。
メイトリックスが
顔を伏せる。
「仲間の多くは、
この戦いで死んでいった」
「強い勇者から狙われるからな」
エリザベスが
不思議そうな顔をする。
「お前が1番強かったと
記憶してるが」
メイトリックスが声を絞り出す。
「鎧が……」
「良かっただけだ」
アリッサの腕で、
スマートウォッチが震えた。
『シンシア様の、
鎧を守る魔法のお陰でございますね』
空気が凍りついた。
メイトリックスが
震える声で聞き返す。
「テン、今なんて……?」
『鎧を守る魔法は、
アリッサ様がご存じです』
アリッサは、慌てて事情を説明した。
「マギーと魔導書を見てて、
たまたま見つけたのよ」
「そこに、鎧を守る魔法は
シンシアが発明したって
書いてあったの」
そして、テンに向かって一言、
――バカ
と小さく囁いた。
メイトリックスの震えた声が続く。
「つまり、わしが強かった訳でも、
鎧が良かった訳でもなく、
シンシアに守られていた……」
深いため息
「……ようやく分かったよ」
「他の勇者が死んでいくのに、
わしだけが生き延びた理由が……」
「違うわ!」
シンディが叫ぶ。
「あの子は、
あなたが1番強いって知ってた」
「だから、望みを託して……」
ハッと口をつぐむ。
メイトリックスの悲しそうな目
「シンディ、お前も知ってて……」
エリザベスは、2人の会話を
興味深そうに聞いていた。
そして、
床の上に並んだ鎧のパーツに
目をやった。
「それが魔法のかかった鎧か」
そして、鎧に近づいて行く。
エリザベスがアリッサとすれ違う。
長いベールがアリッサの頭を撫でる。
雨に濡れていない。
そういえば、
何故パカラの事を知っていた?
あの会話の時には、
エリザベスはドアの外にいたはず。
「早速、シンシアの鎧を試してみるかな」
エリザベスが鎧に手を伸ばす。
「ダメ!」
アリッサは全身で鎧に覆い被さった。
エリザベスの脚が一瞬見えなくなった。
横腹に激しい衝撃。
蹴り上げられた。
部屋の隅まで飛ばされた。
体が壁に叩きつけられる。
息が出来ない。
「げほっ、ごほっ」
口から涎が垂れる。
痛い。苦しい。
……もうやだ
「エリザベス!?」
メイトリックスと
シンディの驚きの声。
エリザベスは、
ゆっくりと鎧を装着する。
「右手のパーツが足りないわね」
エリザベスが周りを見渡す。
その右手のパーツは
体を丸めたアリッサの両手に
抱えられていた。
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