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第56話 修道院 - エデナラ

気を失ったメイトリックスを、

馬車に乗せるのは一苦労だった。


地面には鎧を引きずった跡。


アリッサとシンディは、

上がった息を整えた。


「これから、どうするの……?」

アリッサは不安を隠せなかった。


シンディは少しの間考え込む。


「……エデナラ修道院」

「え?」

「確か、シンシアが働いてた」

シンディは御者席に上がろうとする。

「そこなら、薬ぐらいあるかも」


アリッサが思い切って聞いてみる。

「魔法じゃ駄目なの?」


シンディが振り返り、

困った顔をする。

「あの傷は魔法じゃ治せないのよ」

そして、なんとか御者席に収まり、

手綱を引いた。


馬車がゴトゴトと動き始める。


アリッサは、

メイトリックスが

ノートに書き足した一文を思い出した。


――太股の傷痕


シンシアも、

傷を魔法で治せなかったんだ。


そして、ソゾポルの村のページ。


シンシアの書いた、

――私には救えなかった。

の後に、

――裏切り者への罰

と書き足してた。


シンシアって一体、

どういう人なんだろう。


布を濡らして、

メイトリックスの血だらけの

顔を拭く。


「……大丈夫」

「息はしてる」


涙が滲む。


……盗み聞きなんか、

しなきゃ良かった。


スマートウォッチを外して、

そっとメイトリックスの手首に着ける。


「テン!メイトリックスの体の状態を教えて……」


『血圧と心拍が低下しています。足を高く上げて下さい』


アリッサはメイトリックスの足を

キャビンのシートの上に持ち上げた。


「アリッサ!メイトリックスは大丈夫?」

シンディの声が飛ぶ。

「大丈夫よ……」

アリッサの擦れた声。


馬車の速度が、さらに上がった。



エデナラ修道院は廃墟だった。

周りには、焼き尽くされた荒野が広がっていた。

「これが、シンシアの職場………」

シンディが呻く。

「あの子、野戦病院だって言ってた」


アリッサは馬車から降りて歩き出す。

「だったら、薬があるかも」

無理に明るい声。


瓦礫を踏みながら、廃墟に入る。

シンディが慌ててついて来た。


建物の中は思ったよりも清潔だった。

薬の棚もある。水も出る。

確かに病院っぽい。

……でも、何かが違う。


アリッサは心配そうに聞く。

「ここなら……治療できるかな」


シンディが困った顔をする。

「私、薬のことよく分からないのよ」

少しの間

「テンが使えるかも」

「そうね。」

シンディの顔が少し明るくなる。

「でも、この病院変じゃない?」

少し躊躇いながら、

「ベッドが、一つも無いの」

確かにそうだ。

さっきから違和感があったのは、

そのせいだ。


馬車を廃墟に近づけて、

なんとかメイトリックスの体を

馬車から引きずり下ろす。


ベッドがないので、

床の上に布を敷いて寝かせる。


「テン!どうすれば良いか、教えて」

アリッサは、メイトリックスの手首のスマートウォッチに向かって話しかける。


『まずは鎧を脱がせて、

傷口を綺麗に洗ってください』


言われた通り、シンディが鎧を外して行く。

アリッサがプレゼントしたパカラのプレートもボロボロに砕けていた。


体に付いた血を拭って行く。

鎧の下には傷はない。

傷は腕と足だけ。


アリッサが薬の棚に走る。

薬草の名前。分からない。


「テン、どの薬草がいいの?」

『シンシア様のノートに書いてあります』


シンディの手が一瞬止まった。


聞き返す。

「テン、今、何て?」


アリッサはメイトリックスの持ち物からノートを取り出す。

そして、バツが悪そうに、そのノートをシンディに手渡した。


シンディは無言でノートを受け取り、

ペラペラとめくりながら棚から薬草の瓶を選んだ。

「話は後で聞くから」

そして治療を続ける。


アリッサは居場所がなくなり、

血だらけの鎧を水で流して綺麗にし始める。

鎧はピカピカ。傷一つない。


――ピカピカ過ぎない?

首を傾げていると、

治療を終えたシンディが

アリッサの前にどかっと座った。


「あいつの旅の理由は、これね」

ノートをテーブルの上に放り投げる。


「これはシンシアの医療記録ノート」

「そして、今までの行き先は、このノートの順番通り」


そして、アリッサの顔をじっと見る。

「いつから知ってたの?」

黙る。

『アリッサ様は旅の最初からご存じでした』

「テン!」

慌てて止めようとしたが、遅かった。


声に反応してメイトリックスが目を開ける。

「……あんまり……責めるな」

うめき声。

「その子はノートは読んどらんよ」

ちらっとアリッサに目をやる。

「盗み聞きは良くないけどな」

そして、体を起こそうとする。


「まだ動かないで」

シンディが制する。


アリッサは何も言えずに縮こまる。

でも、メイトリックスが助かって良かった。

そっと涙を拭った。

指先が、まだ震えている。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!


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もちろん、読んでいただけるだけでも大変励みになります。

それでは、また次話で!

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