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第54話 救済の村 - ソゾポル

馬車の車輪が、

ガタガタと音を立てていた。

道が悪いようだ。


眠い。でも眠れない。

アリッサは軽くあくびをする。


シンディとメイトリックスも、

眠そうな目をしていた。


シンシアの、あんな姿を見た後だ。

ぐっすり眠れた訳がない。


あの後、何とか宿を見つけ、

床に着けたのは夜中だった。


そして、三人とも、

シンシアの話題を避け続けている。


無言のまま馬車は進んで行く。


アリッサは、

昨晩も、宿で盗み聞きを試みた。


テンを……スマートウォッチを、

そっとメイトリックスの寝床の前に、

起き忘れたふりをして。


今朝、その独り言を

そっと聞いた。


――魔獣たちは、結局殺されてしまった。


シンシアがノートに書き記した言葉。

昨日の場所での出来事。


メイトリックスは、その下に、

――太股の傷痕……

と書き足した。


啜り泣くような声と一緒に。


次のページに書き記された言葉は、

――私には救えなかった。


恐らく、

次の行き先での出来事。


アリッサは眠い目を擦りながら、

その意味を考えていた。


「この先が目的地の村じゃ」


メイトリックスの眠そうな声。

シンディは何も言わない。

アリッサも無言のままだ。


何だか気まずい雰囲気だった。


村の入り口に

一人の村人が立っていた。


中肉中背のおじさん。

あまり特徴が無い。


「ソゾポルの村へようこそ」


人の良さそうな笑顔で

迎えてくれた。


そして、

馬車のキャビンの

ドアを開けてくれた。


下りようとするシンディを、

そっと支えて手助けする。


「あら、ありがとう」

シンディの表情が、

少し明るくなる。


「どうして、わしらが来ると

分かったんじゃ?」


メイトリックスも、

御者台から降りてきた。


「遠くから馬車の音が

聞こえたものですから。

耳が良いんですよ」


アリッサがキャビンから降りる時も、

優しく手を貸してくれた。


「お嬢さん。足元に気をつけてね」


感じの良い人だ。


――誰かさんとは大違いね。


キャビンから降りると、

風に乗って嫌な匂いがした。


カビ臭いような、埃っぽいような……


「では、ご案内しますね」


村人は先へと続く道を歩きはじめる。

この先が集落なのだろう。


三人は村人の後に続く。

そして、視界が開けた場所で立ち止まった。


「ちょっと、なによ、これ」

シンディの悲鳴のような声。


アリッサも

目の前の光景に目を見張った。


村は燃やし尽くされていた。


延々と続く家屋の残骸。

そこに散らばる沢山の白骨死体。


「すいません。お見苦しいですが、

この先に小屋がありますんで」


村人は平然と道を進んで行く。

そして、話し続ける。


「二年ぐらい経ちましたかね。

見ての通り、この村は

滅ぼされてしまいまして」


そして、道の奥の方に目をやった。

その先に沢山の墓が見えた。


「あの墓はお前さんが?」

メイトリックスが平然として尋ねる。


「はい。

でも、私だけなもんで、

時間がかかっちまって」


村人は立ち止まった。


「あの方達も、

早く埋葬してあげたいんですが」


そして、白骨死体の方に

両手を合わせる。


そして、ちらっとシンディの方を見た。


「あの、失礼ですが……」


「え?わたし?」


シンディは驚いて跳ね上がった。


「もしかすると、

シンシア様の

ご親戚の方ですか?」


「ふ、双子の姉だけど。」


うわずった声。


「ああ、やはりそうでしたか」


村人は嬉しそうに言った。


「シンシア様には、

とてもお世話になってました」


「お世話?」

メイトリックスが怪訝そうに聞く。


「この村に定期的に巡回看護に来て下さってました」


そうだった。

シンシアは移動支援の看護婦だ。


「それが、黒い軍服の男が来て……」

村人は声を詰まらせた。


アリッサの背筋が震えた。

あいつだ。あいつがこの村を……


「次に、シンシア様が来たのは、

村が滅びた翌日でした。」


遠い目。


「たいそうお怒りで、悲しまれて……」


そして、村人は、ふっと笑った。


「生き残った私に、全部のご遺体の埋葬を頼まれたのです」


――え?シンシアが?


「そんな。嘘よ!」

シンディが唇を噛んで言った。


「仕方がないのです。

私だけが生き延びたんですから。

許される事じゃありません」


メイトリックスの表情がこわばる。


「わしも、同じじゃな……」


駄目だ。最悪だ。

アリッサは、みんなを慰める言葉を探した。

無理だ……


どうしよう。


「わたし……埋葬を手伝うわ」

思ってもみなかった言葉が口から出た。


シンディがアリッサを振り返る。

助かったような表情。

いつの間にか、手に杖を持ってる。


「それじゃ、行くわよ」


何かを唱えて杖を上下左右に振った。

魔法だ。


地面にいくつも穴があく。

白骨死体が次々と穴に埋められて行く。


黒く焼けた木々が、

墓標になって並んで行く。


一瞬にして、

沢山の墓地が出来上がった。


通ってきた道を振り返ると、

白骨死体も家の残骸も、

綺麗に無くなっていた。


「はい。これでお終い」

得意そうにシンディが締めくくる。


村人は口を開けていたが、

膝から崩れ落ちた。

「あ、ありがとうございます」

「ありが……あ、ありがとうご……」

そして、地面に伏せて泣き出した。


――すごい……


アリッサが目を輝かせて振り返ると、

メイトリックスの顔が

怒りで真っ赤になっていた。


しばらくして、村人は

出来上がった墓地に駆け寄って行った。

両手を合わせて震えている。


――良かった……のかな。

アリッサは、シンディに近寄って、

そっと手を握った。



その後、村人の厚いおもてなしを受け、

三人は、にこやかに村を去ったのだが……


「魔法は危険だと分かってるじゃろう!」

メイトリックスの怒鳴り声が

馬車の中に響く。


「でも、みんな喜んだじゃない」

「あの村の人だって嬉しそうだったし」

シンディは悪びれることなく言い放つ。


――あーうるさい

でも、今日はゆっくり眠れそうだ。


そして、宿での夜のこと。


スマートウォッチが震えた。

液晶に目をやると赤く点滅している。


「テン、どうしたの」

早速、話しかけてみる。


『気になる事がございます』

「教えて」


『スコップで土を掘る音がいたします』

アリッサは首を傾げる。


「どこから?」

『ソゾポルの村でございます』

 昼間の村だ。

 まだ残った遺体があったのだろうか。

 しかし、もう夜中だ。


「その音は聞けるの?」

『近くに音声の収集装置があるようです』

『音声を出します』

 

〈ザクザク〉

〈ザクザク〉

「ふぅ」

さっきの村人の声だ。


〈ゴソゴソ〉

〈ズズズッ、ズズズッ〉

土の上を這うような音。


〈ザザッザザッ〉

手で土を埋める音?

その音がしばらく続く。


徐々に聞こえる音がこもってきた。


荒い息の音。


段々とゆっくりに

ゆっくりに

止まりそうになった。


……その時。


ごく微かに機械音。

——ブーン


静寂。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました!


「続きも読んでみたい」「面白かった」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


もちろん、読んでいただけるだけでも大変励みになります。

それでは、また次話で!

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