↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
51/82

第51話 片鱗

次の日の朝。


アリッサは、

朝食を食べながら、

ぽつりと口を開いた。


「私、きっと知らずに、

 シンディとメイトリックスに

 迷惑かけちゃってると思う」


「……ごめんね」


シンディが、

慌てて顔を上げる。


「アリッサ、どうしたの?」


そして、

はっとして、

テンをちらりと見る。


「テン!」


語尾が、

わずかに上がる。


『いえ、

 わたくしは愚痴の内容は

 何もお話ししておりません』


淡々とした声。


「それは本当よ」


アリッサが、

横から言った。


「私が聞いたのは、

 シンディが酔い潰れたことだけ」


「……テン」


シンディは、

肩を落とした。


少しだけ、

恥ずかしそうに視線を逸らす。


そして、

ふと思い出したように言った。


「そういえば、あの時」


「変な音を聞いたのよね」


首を傾げる。


「ブーンって、

 蜂が飛ぶみたいな音」


――蜂?


アリッサの中で、

小さな何かが引っかかった。


耳鳴り?

それとも――


メイトリックスが、

何も知らない顔で言う。


「この後、

 剣の稽古を

 つけてやろうかの」


アリッサは、

静かに立ち上がった。


「ごめん」


「マギーちゃんの所に

 行く予定なの」


一瞬だけ、

メイトリックスの顔が

寂しそうに曇る。


それを見ないふりをして、

アリッサは

部屋を出ていった。



杖屋は、

開いていた。


アリッサは、

ほっとして、

扉を押した。


中に入る。


マギーが、

仏頂面で座っていた。


「誰もお客さんが来ない」


挨拶する間もなく、

いきなり愚痴が飛んでくる。


「そりゃそーよ」


「この店のお客さんは、

 捕まっちゃうって

 思われてるんだから」


アリッサは、

勢いに押されて、

黙った。


「魔法使いの連絡網では、

 そろそろこの町でも、

 魔法使い追放が始まるって……」


空気が、

一瞬だけ重くなる。


アリッサは、

恐る恐る切り出した。


「えーと……

 カール爺さんは、

 お元気?」


マギーが、

ちらりとこちらを見る。


「それがさ」


「なんか、

 不機嫌で」


「毎晩、眠れないって

 愚痴ってた」


「夜中の三時ぐらいに、

 ブーンっていう音で

 目が覚めちゃうって」


――ブーン。


背筋が、

すっと冷える。


――それって。


さっき、

シンディが言ってた音。


アリッサは、

腕のテンに視線を落とした。


「テン。

 シンディが言ってた音って、

 どこから聞こえてたの?」


『隣で泣かれていた

 ご婦人からでございます』


三姉妹の、

生き残り。


喉が、

ひりつく。


「時間は?」


『夜中の三時頃だったかと』


点が、

揃った。


アリッサは、

ゆっくりと息を吐いた。


そして、

マギーを見る。


「ねえ」


「いくつか、

 お願いがあるんだけど」



アリッサが、

マギーにお願いしたのは、

魔法を探すことだった。


マギーは、

本棚から

分厚い本を引っ張り出す。


魔導書だ。


「体の中を見る魔法?」


マギーが、

聞き返す。


「そんなのあったかなあ」


ぺらぺらと、

ページをめくる。


この世界に、

レントゲンなんてない。


だったら、

魔法に頼るしかない。


「じゃあ、

 何か金属を探すやつとか」


マギーは、

少し考えた。


「戦闘補助魔法かな」


「治療の時に、

 破片とか探すのが

 あったかも」


アリッサも、

身を乗り出す。


「えーと……

 これは?」


「鎧を守る魔法。

 違うね」


ページの端に、

小さな文字。


「……シンシア?」


「ああ、

 この魔法を作った人ね」


マギーは、

何気なく言った。


「あった。

 これだ」


金属の破片を探す魔法。


……使える。


「それとね」


アリッサは、

視線を上げた。


「マイクを壊す魔法」


「マイク?」


「音をとるやつ?」


黒豹の首輪。

外にぶら下がっていた箱。


映像も、

音も、

取れた。


でも、今回は――


体の中に、

隠れている。


だから、

音だけ。


映像は、

取れない。


顔は、

分からない。


だから――


特定された家で、

捕まる。


魔導書をめくりながら、

マギーが首を傾げる。


「特定の物だけ壊したいってこと?」


「攻撃魔法かな」


ページを、

大きくめくる。


「直接攻撃はダメ」


「体に影響しない方法がいい」


マギーが、

低くうなる。


「何か特徴は?」


音。

振動。

壊れる。


アリッサが、

ぽつりと呟く。


「ガラスって、

 音で割れるよね」


「高い音とか」


マギーの顔が、

少し明るくなる。


「あったかも」


「音声攻撃」


ページをめくる。


「耳を使えなくする魔法」


「……条件が合えば、

 ガラスや鏡も割れるって」


それだ。


アリッサは、

ゆっくり頷いた。


「あと、もう一つお願い」


「魔法使いの連絡網、

 使わせて」


マギーは、

怪訝そうな顔で

アリッサを見た。



特定の魔法使いの周りで、

魔法使いが次々に捕まっている。


それに気づいたら、


その魔法使いの体の中から、

夜中の三時に、

ブーンという音がしているはず。


その音は、

帝国に情報を送っているサイン。


止める方法はある。


金属の破片を探す魔法。

耳を使えなくする魔法。


この二つを使える魔法使いを探してほしい。


そして、

その魔法で帝国の機械を無効化する。


多分、それで行ける。


帝国はすぐには気づかない。

でも、魔法使いを追跡できなくなる。


アリッサは、

この内容を

魔法使いの連絡網に流した。


横でマギーが、

目を丸くして聞いている。


やがて、

二人は顔を見合わせた。


そして、

にやりと笑った。



「マギーちゃん、こんにちは」


アリッサは杖屋の中に入る。


「ちょっと待ってて。

 お客さんがいるから」


良かった。

お店に客は戻ってきている。


でも、この町でも

魔法使いの追放は

始まっているらしい。


今朝、

シンディが言っていた。


マギーは、

それでも町に残ると決めた。


接客を終えたマギーが、

アリッサに向き直る。


「ちょっと聞いて」


いつもの調子で、

話し始める。


「カール爺さんが、

 また不機嫌でさ」


「この前、突然、

 二人の魔法使いが家にやって来て」


「勝手に魔法をかけて、

 何も言わずに帰っていったんだって」


二人は、

激怒しているカール爺さんの姿を想像して、

声を殺して笑った。


きっと、

あちこちで

同じことが起きている。


そして、


三姉妹の一人の魔法使いの家にも、

二人の魔法使いが現れて、

何も説明せず、

そっと魔法をかけて帰っていく。


アリッサは、


その生き残りの魔法使いが、

いつかシンディと仲良くなり、


何も知らないまま、

笑いながら酒を飲んでいる姿を、

ふと、想像した。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!


「続きも読んでみたい」「面白かった」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


もちろん、読んでいただけるだけでも大変励みになります。

それでは、また次話で!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。