第48話 予兆
アリッサは、
山の上で一人、
剣の練習をしていた。
思ったようにいかない。
どうしても剣に振り回されてしまう。
――駄目だ。
しばらく剣を振って、
疲れて座り込む。
風に乗って、
遠くの騒がしい音が聞こえてきた。
獣の咆哮。
叫び声。
金属のぶつかる音。
――戦いの音だ。
アリッサは木剣を握りしめたまま、
パカラに跨がり、
音のする方に向かった。
しばらく走ると、
狼型の魔獣の群れと、
兵士たちが戦っているのが見えた。
アリッサは、息を止めた。
木陰に隠れて、そっと覗く。
剣が振るわれ、火花が散る。
狼型の魔獣から、青い炎が飛ぶ。
その中央で、
大きな狼の体が跳んだ。
ウルフィだ。
速い。
兵士たちが弾き飛ばされて、
後退して行く。
小振りで傷だらけの狼が、
回り込みながら炎を吐く。
ウルフィのつがいだ。
二頭は、無駄なく、連携していた。
兵士たちは耐えられず、
一人、また一人と戦場を離れて、
敗走して行った。
――狼の魔獣が勝った。
そう思った瞬間、
群れの空気が、変わった。
低い唸り。
円を描くように、群れが二頭を囲む。
一頭がつがいの首元に噛みつこうとする。
焦げた毛のあたりを、執拗に攻める。
低い、短い唸り声。
威嚇ではない。
攻撃。
ウルフィが、一歩前に出る。
つがいを庇う。
さらに唸りが強まる。
包囲が少しずつ狭まる。
一頭が、つがいに牙を向けた瞬間、
ウルフィが、吠える。
群れは、少しずつ、
退いていく。
そして、ウルフィとつがいに、
歯をむき出して唸り声を上げる。
まるで、
群れから二頭を、
外に押し出すように。
群れの輪が、ゆっくりと動いた。
――どうして。
アリッサは、声を出せない。
二頭は、群れに向かって、
しばらく、静かに佇んでいた。
ウルフィが、
アリッサに気がついたように、
ちらりと見る。
そして、
鋭く、
長く、
遠吠えした。
何かを伝えるように。
――怒り? 悲しみ?
分からないよ……
やがて、二頭は群れに背を向け、
静かに遠ざかって行った。
アリッサは、
今見たことを、
信じられない思いで、
ただ、立ち尽くしていた。
山の中の隠れ家に戻ると、
カサノバが来ていた。
メイトリックスに、
話があったらしい。
シンディは、
買い物に出掛けており、
不在だった。
カサノバが、
メイトリックスの
胸当ての飾りをちらっと見る。
「馬か。いいプレートだな」
そして、アリッサに近づき、
ポンと頭をたたく。
「お嬢さんは器用なんだな」
「子供扱いしないで
くれるかしら」
アリッサは、
カサノバに舌を出した。
そして、
テーブルの上のテンを掴んで、
自分の部屋へと退散した。
剣を振るには邪魔なので、
テンはいつも外して練習するのだ。
メイトリックスが、
少し気まずそうに、
二人を見送った。
部屋に戻ると、
早速、二人の会話を聞いていたテンが話しかけてくる。
『アリッサ様が戻られる前に、
カサノバ様は、
魔法使いが危険だと
話されてました』
「危険? どういう事?」
アリッサは、
意味が分からず聞いた。
『たくさんの魔法使いが
兵士たちに捕まったそうでございます』
「それは、前からそうじゃないの?」
アリッサが首を傾げる。
『それが、
最近になって、
突然増えたそうなんです』
――増えた。なぜだろう。
『それで、カサノバ様は、
メイトリックス様に、
魔法使いから離れた方が良いと、
言っておられました』
アリッサは驚いて立ち上がった。
「それって、メイトリックスに、
シンディから離れろって言ってる?」
『はい。
カサノバ様は、
新しい隠れ家も準備されたそうで、
メイトリックス様に、
鍵も渡されておりました』
――それじゃ、みんなバラバラになっちゃう。
――それは嫌。
アリッサは、
メイトリックスの所に急いだ。
メイトリックスは、
厳しい顔をして座っていた。
カサノバは、
既に帰ったようだ。
「……何か用かの」
そう言って、
アリッサをチラッと見た。
「盗み聞きは関心せんな」
そして、すぐに背を向ける。
「メイトリックス!」
アリッサは、
メイトリックスの前に回る。
「シンディを、
置いて出て行くの?」
メイトリックスは、
少しの間黙っていた。
「シンディには、
何も言うでないぞ」
そして、
再びアリッサに
背を向けた。
「どういうつもりよ、
あのジジイ」
アリッサは、
怒りが止まらなかった。
かといって、
シンディには話せる訳がない。
「うー」
アリッサは、
しばらく悩んでいたが、
ふと気がついた。
「魔法使いが、
たくさん捕まっている……
って言ってたわね」
アリッサは、
マギーとカール爺さんが
心配になった。
――マギーちゃんの所に
行ってみよう。
――ついでに
エリオットとの進展も
聞かなくちゃ。
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