第46話 マギーの初恋
ゼロは、電源を入れても、
すぐには復旧しなかった。
〈システム修復中〉
それだけが、
画面に表示されていた。
――待てば、
戻って来る……よね。
アリッサは、
画面から目を逸らした。
「ごはんよー!」
シンディの声。
シンディとメイトリックスには、
ずっとゼロは修理中と伝えている。
そろそろ疑われそうだ。
なんて言い訳しよう。
相談できるのは、
事情を知ってる
マギーちゃんだけだ。
――後で魔法の杖屋さんに
行ってみよう。
アリッサはそう決めて、
ごはんを食べに向かった。
アリッサは、
ご飯を食べた後、
マギーちゃんに
会いに出かけた。
ゼロは、
秘密基地に置いたままだ。
杖屋の扉から、
アリッサは、
そっと中をのぞいた。
店の奥、
カウンターの向こうに、
マギーの姿があった。
頬杖をついて、
つまらなそうに外を見ている。
――あれ?カール爺さんは、
戻って来たって聞いたけど。
マギーはアリッサの姿に気がついた。
「アリッサちゃん!」
アリッサは不審に思って聞く。
「マギーちゃん、
今日もお店番なの?
カール爺さんは?」
「家にいるわよ-」
と、マギーの明るい声。
そして、
おじいちゃんはおばあちゃんと
一緒にいた方が良いだろうから、
自分がお店番を買って出てることを、
とても早口で言った。
怪しい。
マギーは嘘をつくとき、
必ず早口になる。
カラン
お店の扉を開けて、
お客さんが入ってきた。
背の高い、
ちょっとハンサムな好青年だ。
杖を一本手に取って、
真剣な顔で悩んでいる。
そして、
しばらくすると、
首を振って棚に戻す。
それを、
何度も。
――ずいぶん迷うのね。
アリッサはそう思って、
マギーに伝えようと振り返る。
すると、
うっとりと青年を見つめる
ほんのりと赤い顔があった。
――え?そういうこと?
青年は、迷いに迷ったあげく、
何も買わずに店を出て行った。
アリッサは察して
つい声に出す。
「マギーちゃん、
あのタイプは、
彼女がいるかも」
マギーが怖い顔で
アリッサを睨んだ。
「そ、それがどうしたのよ。
あんな優柔不断、知らないし」
アリッサは、
余計なことを口走った
自分を悔やんだ。
アリッサは、
マギーの怒りと火照りが
収まるのを待ってから、
ゼロの様子を報告した。
マギーは、
心配そうな素振りを見せながらも、
アリッサに確認した。
「前にも、同じことがあったのよね」
「うん。」
「じゃ、きっと大丈夫よ。
信じなさい」
マギーにそう言われて、
少し気持ちが軽くなった。
そして、気になるもう一つの話題を
切り出した。
マギーは最初は、
知らないとか、
あんな弱そうな男とか
言っていたが、
次第に勢いがなくなった。
そして、
もうずっと前から
気になっていたことを
白状した。
「いつも迷った挙げ句、
何も買わずに出て行くのよ」
「もう三ヶ月ぐらい、
そんな感じなの」
――三ヶ月!
ずいぶん長い。
カール爺さんが戻るずっと前からだ。
「マギーちゃん、
両親について行かなかったのって
もしかして、……」
「あーもーうるさい
しょうがないでしょ。
好きになっちゃったんだから」
マギーの顔が、
また真っ赤になってきた。
「ところで、あの人の名前は?」
「知らない」
「住んでいる所は」
「聞けるわけないでしょ」
「もしかして、話したことは?」
「ないわよ」
これは重症だ。
何とかしてあげないと。
一通りマギーの恋愛トークを聞いて、
山の中の隠れ家に戻ってきた。
秘密基地に行くと、
スマートウォッチの
システム修復が終わっていた。
そして、
二行のメッセージ。
〈初期化しました。〉
〈新規データベースを
構築しました。〉
「ゼロ、聞こえる?」
〈識別できません〉
〈追加情報を要求します〉
アリッサは、目を閉じた。
この表示は記憶にあった。
呼ぶための、名前が必要ということ。
やはり、
ゼロは、もういない。
ゆっくりと、息を吐いた。
――ゼロ。
いいえ。
少し考える。
「あなたは……テン」
〈了解しました〉
〈呼称:テン〉
「こんにちは、テン。
私はアリッサ。よろしく」
〈了解しました〉
少し、間。
〈音声モードのカスタマイズを行いますか?〉
アリッサは、わずかに微笑む。
「執事風にしてくれる?」
『かしこまりました。アリッサ様』
そして、何を話すか、
少し悩む。
「テン、あのね。話を聞いてくれる?」
『もちろんでございます』
「私の友達が片想いで悩んでいて……」
その会話は、
夜遅くまで続いた。
次の日も
アリッサはマギーに会いに出かけていった。
テンは、秘密基地に隠して置いてきた。
シンディとメイトリックスにも、
まだ、話していない。
「シンディが
悲しむんじゃないかと思って」
アリッサは、困った顔でマギーに伝えた。
「好きな人に覚えられてないって、
寂しいわよね」
マギーが少し笑う。
アリッサは、何も言わない。
――私は、もう二度目だからね。
心の中で呟く。
テンのことを、
二人にどう伝えればいいのか。
「ねえ、もう悩んでても仕方ないんじゃない」
と、マギー。
「だって、消えちゃったんだしさ。
私もちょっと悲しいけど、
テンって子にも会ってみたいわ」
――そうか。そうよね。
確かに悩んでいても仕方がないか。
どうせ、そのうち言わないといけないし。
アリッサは、少し吹っ切れた気持ちになった。
「それじゃ、私の方の相談タイムね」
恋愛トークの時間が始まる。
マギーからの青年の情報は、
驚くほど少なかった。
分かっていることは、
週に1度、お店に来る。
そして、杖を見て、悩んで、
何も買わずに帰って行く。
――これは、カール爺さんの出番かも
「マギーちゃん、カール爺さんは、
杖の見立てが上手いのよね」
「そうだけど」
マギーが不審な顔でアリッサを見る。
カール爺さんなら、
マギーが知りたいことを、
青年から全部聞き出せるはずだ。
明日、相談に行ってみよう。
テンと一緒に。
カール爺さんは
想像通りの人だった。
アリッサが挨拶すると、
見透かすように、
「お前が、あの作戦の首謀者だな」
と言って優しく笑った。
――マギーのおしゃべりめ
『恐れ入りますが、
あの作戦とは、
どんなものでございましょうか』
顔を上げると、
カール爺さんが目を丸くしていた。
おしゃべりな機械には慣れないらしい。
明日は青年がお店に来る日だ。
さて、カール爺さんとテンと三人で作戦会議だ。
カラン
お店の扉を開けて、
青年が入ってきた。
アリッサとマギーは、
お店の隅で、
固唾を飲んで見守っている。
迷っている青年に、
カール爺さんが話しかける。
青年は、何度か首をかしげ、
手を振って説明している。
声は聞こえない。
そして、しばらくしてから、
深々と頭を下げて帰って行った。
今日も、杖は買わなかった。
青年の名前はエリオット。
杖屋のすぐそばに住んでいるらしい。
カール爺さんが、ぽつりと言った。
「若い女性が使う杖を探しているらしい」
軽く、首を横に振る。
マギーの顔から、血の気が引いた。
「でも、彼女の杖を選ぶのに、
三ヶ月もかかる?」
アリッサは首をかしげた。
……もしかすると
次の日、魔法の杖屋さんに行くと、
マギーの姿はなかった。
「マギーは、
あの青年に会いに行ったよ」
カール爺さんは困ったような顔で、
アリッサに言う。
「自分から告白すると言っておった」
「青年が、誰の杖を探しているのかも聞くそうだ」
――それは、全部確かめるってこと?
アリッサは言葉が出なかった。
――それでも勇気を出して行ったんだ。
――でも、
アリッサは、マギーの勇気が
少しだけ羨ましくなった。
次の日の朝、
アリッサは、勇気を振り絞って、
シンディとメイトリックスに、
テンのことを話した。
『お手柔らかにお願いいたします。
シンディ様、メイトリックス様』
と、テン。
「生まれ変わっても、
しゃべり方は変わらないもんなのね」
と、シンディ。
――そう設定したからね。
「もうちょっと普通に喋れないものかのう」
と、メイトリックス。
――メイトリックスの喋り方も
普通じゃないから
アリッサが心の中で突っ込む。
――でも、言って良かった。
アリッサは、
少しだけ、心が軽くなっていた。
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