第45話 カール爺さん
アリッサは、
遠ざかる巡回便を眺めた。
あの手荷物が、
ちゃんと届きますように。
祈りを込める。
中には、
折れた杖、
改造した道具箱、
そして、修理指示書が入ってる。
宛先は、
館の囚人担当。
杖の修理指示書を見て、
きっと怖じ気づくはずだ。
指示元は提督で、
欄外に乱暴な文字。
――わたしの期待を裏切るなよ。
アリッサはクスッと笑う。
指示書は砦で見た書式を、
思い出しながら書いた。
筆跡は、
マギーちゃん。
本物に見えればいいけど。
折れた杖と道具箱は、
そのまま檻の中へ運ばれるはずだ。
檻の中の、
魔法の杖屋の店主に。
カール爺さんは怒るだろう。
――わしの大事な道具箱を
帝国なんぞに渡しおって。
そして、怪訝に思うだろう。
――マギーの杖。
――わざと折ってあるな。
これなら一瞬で直せる。
道具箱を開けると、
二重底に気付くだろう。
ゼロは、その下に隠してある。
――自然に見えるように苦労したけど、
持ち主だもんね。
そこで、突然、道具箱が喋るのだ。
『カール様、マギー様からご伝言を預かっております』
――カール爺さんは
腰を抜かすかな。
――それとも、
平然と聞いてるかしら。
アリッサは、
ゼロとカール爺さんの
やり取りを想像して楽しんだ。
カール爺さんは、
道具箱を開けて、
あっという間に、
マギーの杖を直すのだ。
きっと、
カール爺さんは、
ぶつぶつ文句を言いながら、
杖を握る。
そして、ゼロの指示に従って、
魔法を使う。
檻の鍵を開けて。
逃げるために。
帰るために。
その後、
呟くかもね。
……マギーのやつめ
「ふふっ」
アリッサは、
想像を繰り返しながら、
山の中の隠れ家へ戻った。
いつもと同じような日々が、
何日か、過ぎた。
「アリッサ、
ゼロは最近どうしたの?」
不在が気になるシンディ。
「修理中」
アリッサは、
そうとだけ答える。
そして、
ふっと寂しくなる。
――きっと大丈夫。
そして、
部屋を出て、
山の上に行く。
風が抜け、
葉が擦れる。
ふと、
視線を感じる。
顔を上げると、
ウルフィが、
こちらを見ていた。
ウルフィの森は、遠いはずだ。
その隣に、
もう一頭。
少し小ぶりの個体。
毛並みは荒れ、
ところどころ焦げている。
前脚の付け根に、
焼けただれたような跡。
首元にも、
浅い傷が残っていた。
【狼型の魔獣 メス 一頭】
館行きの名簿の一行。
ウルフィは、
ゆっくりと近づいてくる。
ただ、
静かに。
アリッサの前まで来た。
そして、
口に咥えていたものを、
そっと地面に置いた。
スマートウォッチだった。
土にまみれ、
端の部分が少し欠けている。
でも、
壊れてはいない。
アリッサは、
息を呑んだ。
もう一頭の個体が、
ウルフィに鼻を寄せる。
ウルフィは、
低く、短く鳴いた。
それは、
怒りではなく、
感謝のようだった。
二頭は、
軽く体をぶつけ合い、
じゃれ合うように回る。
ぎこちないが、
楽しそうだった。
焦げた毛が、
揺れる。
生きている。
ウルフィは、
一度だけ、
アリッサを見た。
その視線は、
穏やかだった。
そして、
二頭は並んで、
遠くへ消えていく。
振り返らない。
森に帰るのだろう。
アリッサは、
足元のゼロを、
ゆっくりと拾い上げた。
「魔法の杖屋さんに
行かなきゃね。」
本物の、
カール爺さんに会いに。
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