第44話 巡回便
次の日。
アリッサは、
朝早くから出かけた。
シンディとメイトリックスには、
魔法の杖屋へ行くと伝えてある。
「この辺りかしら」
旅商人のおじさんから聞いた、
山の向こうの道。
帝国の巡回便は、
ここを通るらしい。
館へ行くかどうかは、
分からない。
でも、
信じるしかない。
アリッサは、
パカラを操り、
街道沿いの木陰に身を潜めた。
小脇に抱えた手荷物に、
力を込める。
しばらく待つ。
静かだった。
馬車も、人も、
魔獣も来ない。
『アリッサ様、
退屈そうでございますね』
手荷物の中から、
ゼロが囁く。
「隠れてるんだから、
ちょっと黙ってて」
小声で叱る。
確かに、
少しだけ緊張が緩み、
眠気が襲ってきた。
アリッサは、
軽く頬を叩く。
目を凝らす。
どのくらい待っただろう。
道の先に、
かすかな土埃が上がる。
何か、来る。
「ゼロ、パカラ、行くわよ」
アリッサは、
手綱を強く引いた。
土埃の向こうから現れたそれは、
最初、馬車には見えなかった。
普通の荷馬車より、
ひと回りも、
ふた回りも大きい。
猛烈な速さで、
車体を軋ませながら迫ってくる。
黒い、金属の塊。
機械の馬。
御者台には、
誰もいない。
これが――
帝国の巡回便。
アリッサは、
たじろいだ。
パカラも怯え、
足を踏み鳴らす。
『アリッサ様、計画を中止なさいますか?』
手荷物からゼロの声。
――うるさい。
アリッサは、
勇気を振り絞る。
そして、
手綱を握り直す。
巡回便に並走する。
なおさら、その異様さが際立った。
車体に隙間がない。
窓も見当たらない。
――どうする。
カチャ、と。
金属が擦れる音。
小さな扉が、
わずかに開く。
何かが動いた。
飛び出してきたのは、
三匹の猿のような魔獣。
金属の首輪。
取り付けられた機械の箱。
――あの、黒豹の魔獣と同じだわ
巡回便の車体を伝って、
近づいてくる。
目の焦点は合っていない。
歯を剥き出し、
噛みつこうとする。
爪を振り下ろし、
引き裂こうとする。
三匹が交互に入れ替わる。
隙がない。
猿の鋭い爪が
パカラの体を掠る。
ふんっ。
痛みでパカラが鼻を鳴らす。
「パカラ、ごめん」
パカラの首筋に
血が滲む。
アリッサは、
少し距離を取り、
巡回便の後ろに回った。
猿たちも、
車体の後方に集まる。
今にも飛びかかってきそうだ。
――今だ
一気に速度を上げる。
小さな扉は、まだ開いている。
狙いを定める。
一瞬だけ、息を止める。
「ゼロ、頼んだわよ!」
叫びながら、
手荷物を放り込む。
手荷物は巡回便の中に、
吸い込まれて行った。
すぐに巡回便から離れる。
小さく呟く。
「ゼロ、頼んだわよ……」
巡回便は、
遠ざかって行った。




