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第42話 旅商人

三人は、

しばらくの間、

魔法の杖屋の前にたたずんでいた。


そして――


「それじゃあ、

 旅商人のたまり場に行ってみるかの」


気を取り直したように、

メイトリックスが歩き出した。


「ただ、

 お前さんが世話になった旅商人が

 いるかどうかは分からんぞ。

 彼らは旅をしているからの」


口調がいつもより、

少しだけ軽かった。


「まあ、運が良ければ……

 会えるかもしれん」


そして、

メイトリックスは

空笑いを浮かべた。


三人が向かったのは、

馬車の荷下ろし、積み込み場だった。


その横には、

待機場代わりの酒場のカウンターがある。


活気があった。


怒鳴り声。

笑い声。

荷車の軋む音。


大勢の旅商人たちが、

それぞれの仕事をしている。


アリッサは、

一生懸命、

見たことのある顔を探した。


でも、

なかなか見つからない。


「やっぱりいないかな。

 旅してるものね」


小さく、ため息。


諦めかけた、そのとき。


別の馬車が、

荷下ろし場に入ってきた。


「ほらよー、はいよー」


手慣れた手綱の引き方。


それに重なる、

聞き覚えのあるかけ声。


あれだ。


アリッサは、

その馬車に駆け寄った。


「おじさーん!」


旅商人は、

はっと顔を上げる。


「おう、あの時のお嬢ちゃん」


目尻にしわを寄せ、

優しそうに笑った。


「元気になったようだな」


アリッサは、

ためらいなく荷台に飛び乗る。


それを見て、

シンディが何か言いかける。


けれど、

メイトリックスをちらりと見て、

口をつぐんだ。


「おじさんは旅してて、

 帝国の兵士たちは怖くないの?」


アリッサは、

赤いリンゴをぱくつきながら聞いた。


ゼロが喋りそうな気配を見せた。


「ゼロ、黙ってて」


小声で言う。


「知らない人の前では、

 喋っちゃだめって言ったでしょ」


ゼロは、

ぴたりと沈黙した。


シンディが、

ちょっと笑いそうになる。


旅商人は、

少し考えてから言った。


「兵士たちは怖いさ。

 それに、どこか気味が悪い」


そして、

街道沿いで見かける

黒い鉄の馬車の話をしてくれた。


「あれは、多分、帝国の巡回便だと思うんだよ」


続ける。


「町には来ないからな。

 帝国の施設の間を定期的に行き来して、

 何かを運んでいるらしいな」


「どの辺りで良く見かけるの?」


アリッサが詳しく聞こうとする。


「ほれ、あの山が見えるだろう。

 あの向こうの道で良くみかけるな」


メイトリックスが、

二人のやりとりを怪訝そうに見ている。


アリッサは、少し気まずくなった。


そして、

積み荷をきょろきょろと見渡し、

鮮やかなオレンジ色の果物を指さして言った。


「シンディ、私、あの果物食べたい」


「高いからダメよ」


即答。


そして、シンディの買い物が始まった。


旅商人のおじさんは、

嬉しそうにシンディに色々な物を勧めた。


もちろん、この後、

メイトリックスの激しい価格交渉が待っている。


アリッサは、

そのやり取りを想像し、

旅商人のおじさんを、

ちょっと気の毒に思った。

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