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第41話 魔法の杖屋

シンディとメイトリックスが

山の中の隠れ家に帰ってきた。


「二人は、捕まっていなかった。

 私を探していただけだった……」


アリッサは唇をかんだ。


砦で見た提督の名簿は、

嘘だった。


魔法使い。

勇者の二人組。


あれは、

罠。


最初から、

踊らされていた。


アリッサは、

冷静のつもりだった。


選んで、

見て、

判断していたつもりだった。


でも。


提督の手のひらの上で、

転がされていただけだ。


悔しさが、

胸の奥に残る。


それでも。

全部が嘘だったのだろうか。


覚えている。


――魔法の杖屋 店主。

――魔法使い 三姉妹。

――黒豹型の魔獣 十頭。

――狼型の魔獣 メス 一頭。


あのとき、

ウルフィは言った。


――奴らは、

俺たちを排除するためだけに殺す。


静かな声だった。

でも、憎しみは隠していなかった。


狼型 メス 一頭。


それは、

ただの文字じゃない。

ウルフィの憎しみの理由。


市場の、

魔法の杖屋。


あの大きな市場に、

確かにあった。


確かめなきゃ。


もう一度、

踊らされる前に。


あの名簿が、

本当に嘘なのか。

それとも――。


そして、

もうひとつ。


アリッサは、

オペレーターのこと、

ゼロのことを、

二人にどこまで話すか考えた。


全部を話したい。


もう、

嘘や隠し事は、

こりごりだ。


でも。


全部を話せば、

戻れなくなる気もした。


ゼロが、

余計なことまで

言ってしまうことも、

想像できた。


アリッサは、

小さく息を吐く。


まずは、

言えるところまで。


きっと、

二人なら分かってくれる。


アリッサは、

二人のいる部屋に

戻って行った。


「あのね……

二人に話があるの」


ゼロが早速反応した。


『アリッサ様、

かなり緊張されているようです』

『心拍数も上がっております』


シンディとメイトリックスが、

驚いて振り返る。


だれの声?


「ゼロ、うるさい。

ちょっと黙ってて」


シンディとメイトリックスが、

目を丸くして、


アリッサとスマートウォッチを

交互に見た。


「えーと、これは、実は……」


説明し終えたあと、

少しのあいだ、

誰も何も言わなかった。


自分が

どこから来たかは

言わなかった。


オペレーターとゼロは、

拾って修理したことにした。

――それが一番、無難だった。


ゼロの画面は、

静かに光っている。


シンディは、

腕を組んで、

難しい顔をしていた。


メイトリックスは、

アリッサをまっすぐ見ている。


「……にわかには

信じられんな」


低い声。


責める響きではない。


アリッサは、

小さく息を吸った。


「うん」


それ以上は言わない。

言えない。


沈黙が落ちる。


ゼロが、

空気を読まずに言いかける。


『補足説明を――』


「ゼロ、いいから」


ぴたりと止まる。


シンディが、

ふっと笑った。


「ほんとに喋るんだね」


「助けてくれる機械

って言ってたな」


メイトリックスが言う。


「信用できるのか?」

「帝国の道具ではないのか?」


『わたくしは

スタンドアロン型です

外部とは

一切繋がっておりません』


「……す、すたんど、

なんだって?」


「帝国とは

関係ないってことよ」


アリッサが答える。


本当は、

根拠はない。


でも、

ゼロは大丈夫だと、

自信があった。


メイトリックスは、

しばらく黙ったあと、

小さく頷いた。


「ならば、わしらはお前を

信じるしかあるまいな」


ゼロではない。

アリッサを信じる。


それだけで、

十分だった。


シンディも、

肩をすくめる。


「難しいことは分かんないけど、

害は無さそうだし、

楽しそうな機械じゃないの」


完全な納得ではない。


でも、

拒絶でもない。


なんとか、その位置に、

立てた。


アリッサは、

少しだけ視線を落とした。


「……実は、

もう一つ、

お願いがあるの」


二人が顔を上げる。


「大きな市場のあった町に

行きたいの」


メイトリックスの目が、

わずかに細くなる。


「市場の店、か」


「うん」


「会いたい人がいて……」


アリッサは、

道中で旅商人に助けられたことを話した。


「お礼を言いたいの」


アリッサは、

祈るように訴えた。


「私も行きたいわ。

色々買いたいものがあるのよ」


シンディが

嬉しそうに続ける。


「……仕方ないのう」


メイトリックスは

少々怪しみながらも

しぶしぶ合意した。



市場は、

人で溢れていた。


乾いた土の匂い。

焼いた肉の匂い。

染料の匂い。


その中で、

ひときわ静かな店があった。


看板には、

ただ「杖屋」とある。


――魔法の杖屋だ。


「旅商人へのお礼じゃ

なかったのか?」


メイトリックスが訝る。


「いいの。

ずっと入ってみたかったの」


嘘ではない。

アリッサは扉を押して、

店の中にさっさと滑り込む。


若い女性が、

ぱっと顔を上げた。


「いらっしゃいませ!」


明るい声。


アリッサは、

一瞬ほっとする。


――私よりちょっと年上かな


でも、

すぐに違和感が浮かぶ。


こういう店は、

年配の魔法使いがやっているはずじゃ……


シンディが、

少し目を細める。

「マギーちゃん?」


女性が目を見開いた。

「あ……シンディ姉さん」


「カール爺さんは?」


一瞬の沈黙。


「それが……」


視線が、

少しだけ揺れる。


「帝国の兵士たちが来て……

連れていかれたの」


空気が変わる。


市場の音が、

遠くなる。


「私じゃ杖は選べないし、

修理も出来ないし、

仕入れ方も分からなくて」


笑う。

無理に。


「だから、店番だけ」


「ばあちゃんは?」


「寝込んでる」


「両親は?」


「怖くて、町を出ちゃった」


さらりと言う。


「なんでマギーは残ったんじゃ?」


メイトリックスが問う。


「両親、口うるさいから」


苦笑する。


アリッサは、

ちらっとシンディを見る。


シンディは、

“口うるさい”という言葉は、

気にも止めていない様子。


――まあ、いっか。


「一人の方が気楽だし、

おばあちゃんも気になるし」

マギーが続ける。


シンディは、

ただ心配そうにマギーを見ている。


――本当は

両親に付いて行きたかったんだ。


アリッサの胸が、

少しだけ痛む。


「お爺さんは、

もしかして、

やかた……」


その途端、

肩を引かれた。


メイトリックスだった。


アリッサは、

そのまま後ろへ下がる。

メイトリックスが前に立つ。


少し、黙る。


「心配せんでええ。

そのうち帰ってくる」


穏やかな声。


けれど。


その目は、

ほんのわずかに寂しそうだった。


マギーは、

小さく笑う。


「うん。そうだよね」


そのまま三人は、

店を出た。


そして、

しばしの沈黙。


「これが、お前がここに来たかった理由じゃな」


メイトリックスが、

優しく言う。


アリッサは、

答えない。


シンディが、

店を覗き込む。


「私、買いたい杖があったのに」

少し拗ねた声。


「……じゃ、カール爺さんが戻って来ないとね」

アリッサは言った。


シンディが、

そうね、と頷く。


でも。

――まだ間に合う?


自信は、

持てなかった。

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