第39話 あなたの名前はゼロ
ゼロの修復には、
もう少し時間が必要だった。
〈言語機能:修復中〉
画面に表示された文字は、
なかなか消えない。
でも――
ちゃんと、喋ってたじゃない。
アリッサは、
スマートウォッチを腕に巻いた。
少し、ぶかぶかだ。
そのまま部屋に戻り、
布団に潜り込む。
独りじゃない気がした。
複雑な気持ちのまま、
眠りについた。
⸻
『おはようございます』
『お嬢様』
目を開けて、
一瞬だけ、分からなかった。
……朝?
腕を動かすと、
布団の中で、
スマートウォッチが小さく光っている。
「……ゼロ?」
『はい』
声は、
昨日よりはっきりしていた。
〈言語機能:修復完了〉
表示が、切り替わる。
「今……」
「お嬢様、って言った?」
『はい』
即答だった。
アリッサは、ぴしゃりと言う。
「やめて。その呼び方」
一拍置いて、
振り返る。
「私は、お嬢様じゃない」
ゼロは、即座に応答する。
『承知いたしました』
……分かっているのだろうか。
「気持ち悪いから、
名前で呼んでくれない?」
少し、強めに。
『分かりました。アリッサ様』
即答。
「様はいらないって」
今度は、
はっきりと。
『かしこまりました。アリッサ様』
アリッサは、
思わず額を押さえた。
「……アリッサで、いいのに」
小さく、ぼやく。
『恐れ入りますが』
一拍。
ゼロは、
やけに丁寧な調子で続けた。
『どうやら、
デフォルトで敬称を付与して呼称するのが、
わたくしの仕様のようです』
『変更は、不可でございます』
しばらく、無言。
「……最悪」
アリッサが、ぽつりと言った。
『そのようでございますね』
一拍。
『感情の悪化が、
明確に観測されております』
アリッサは、
その場で立ち止まり、天を仰ぐ。
「……ねえ」
『はい、アリッサ様』
「今、
黙るって選択肢はないの?」
『申し訳ございません』
一切、
申し訳なさそうではない声。
『アリッサ様が発話された時点で、
自動的に反応する仕様でございます』
間。
「……つまり?」
『はい』
『黙るには、
アリッサ様が
お話しにならない必要がございます』
アリッサは、
ゼロをにらんだ。
「……それ、
私が悪いみたいじゃない」
『事実関係の評価は
行っておりません』
一拍。
『ただし、
結果としては左様でございます』
これが、
ゼロの完全復活だった。




