第38話 さようなら
アリッサは、
山の中の隠れ家に戻ると、
急いで
スマートウォッチの状態を
確認しに行った。
秘密基地の奥。
いつものように、
部屋に潜り込む。
<システム更新完了>
文字が画面に
浮かんでいるのが、
目に入った。
そっと画面に触れると、
別の文字が浮かび上がる。
<起動しますか?>
ドキドキしながら、
スマートウォッチを手に取り、
画面にそっと触れる。
<過去の学習データを
検索しています。>
……
<学習データは
消失しています。>
「え?待って!」
<初期化しました。>
--え?
<新規データベースを
構築します。>
アリッサは、
呆然とした。
行ってしまったのか。
永遠に?
アリッサは、
静かに、
スマートウォッチを置いた。
起動を待つ。
少しだけ、間を置く。
「……聞こえる?」
返事はない。
画面が淡く光り、文字が浮かぶ。
〈入力を確認しました〉
その一文を見て、
胸の奥が、
ほんの少しだけ沈む。
「オペレーター……」
反応がない。
言い直す。
「えっと……」
名前が、出てこない。
「……起動できてる?」
一拍。
画面が淡く光る。
〈はい〉
それだけだった。
速さも、間も、
どこか機械的で、
正確で。
でも――
「……私のこと、
分かる?」
今度は、返事までが早い。
〈識別できません〉
続けて、
〈追加情報を要求します〉
アリッサは、
息を吸って、吐いた。
「ああ……」
分かっていたはずなのに、
それでも、
どこかで期待していた。
「……そうだよね」
スマートウォッチに触れる。
冷たい。
「大丈夫。
分からなくて、いい」
少しだけ間を置いてから、
「あなたは……ゼロ」
〈了解しました〉
〈呼称:ゼロ〉
それで、終わり。
そこには、
あの合理的な冷血感は、
いない。
代わりにあるのは、
何も知らない、
まっさらな応答だけだった。




