第35話 希望
スマートウォッチに付いた土を、
湧き水で洗い流す。
大丈夫。
防水機能付きだ。
バッテリーは切れている。
だが、
壊れてはいないようだった。
さて、
どうやって充電しよう。
ケーブルも、
電源も、
無い。
アリッサは、
時計を眺めながら考える。
森の奥で、
鳥の鳴き声が聞こえた。
……やっぱり、
あそこしかないか。
――砦に。
歩いて行く。
充電できる確証はない。
でも、
電気は通じていた。
アリッサは立ち上がり、
スカートについた土を払った。
――さあ、行くぞ。
そして、
今までよりも
しっかりとした足取りで、
歩き始めた。
砦は、
空っぽだった。
アリッサは、
ほっとすると同時に、
胸騒ぎを覚えた。
……散らかっている。
電気は落ちていて、
薄暗い。
そして、
誰もいない。
あの兵士たちは、
どこへ行ったのだろう。
――撤収?
……処分。
――お前たちは、
いつも
期待を裏切る。
提督の、
冷酷な声が
脳裏に蘇る。
背筋が、
ひやりとした。
――まさか、ね。
アリッサは首を振り、
電気室を探した。
ブレーカーを上げる。
灯りが、
戻る。
さて。
どうしよう。
充電する方法を、
考える。
……やっぱり、
無理か。
諦めかけて、
ふと視線を巡らせた。
棚の上。
段ボール箱。
見覚えのあるロゴ。
……ガーゴイル社。
胸が、
小さく鳴った。
急いで箱を下ろし、
中を見る。
新品の、
スマートフォン。
新品の、
スマートウォッチ。
ぎっしりと
詰め込まれている。
――帝国が、
オペレーターを
狙っていたのは……
これのため?
アリッサは、
一つ箱を取り、
開けた。
新品のスマートウォッチ。
充電ケーブル。
迷わず、
自分のスマートウォッチを
接続する。
充電が、
始まる。
その間に、
残りの箱を
すべて開けた。
新品のデバイス。
……十セット。
床に並べる。
アリッサは、
何も言わずに立ち上がる。
そして、
一つずつ。
無言で、
踏み壊していった。
額の汗を拭き取る。
スマートウォッチに、
〈充電完了〉の文字が浮かんだ。
そして、この下に別の文字。
〈システムバックアップあり〉
バックアップ、
もしかすると。
震える指でボタンを押す。
〈バックアップをダウンロードします〉
あいつ……
いつの間に。
アリッサは祈るように、
スマートウォッチの
画面を見つめた。
ダウンロードの完了まで、
さほど時間は掛からなかった。
……でも、
ここでは起動できない。
帝国の領域だ。
急いでスマートウォッチの電源を切って、
砦の出口を探す。
――見覚えのある場所。
提督のいた部屋。
オペレーターを
破壊した場所。
アリッサは、
そっと、
部屋を覗き込んだ。
重厚感のある椅子。
高級なインテリア。
豪華で、
煌びやかなシャンデリア。
そして――
床に落ちた、
ボロボロの
黒い板。
アリッサは、
それを拾い上げた。
オペレーターの、
残骸だ。
しばらく、
手の中で
重さを確かめてから、
そっと、
ポケットに入れた。
そして、
その場で立ち尽くした。
――どこへ行く?
森では、
もう生活できない。
シンディの町は、
危険すぎる。
選択肢は、
ほとんど残っていなかった。
しばらく、
考える。
そして――
思い浮かんだのは、
一つだけだった。
山の中の、
隠れ家。
アリッサは、
小さく息を吐いた。
――帰ろう。
行き先は、
決まった。




