第25話 山の中の隠れ家
新しい隠れ家まで、カサノバが送ってくれることになった。
「なあに、その近くの女たちに会いに行くついでだからさ」
そう言って、二頭の馬を引き出す。
そのうち一頭の手綱を、メイトリックスに手渡した。
シンディが、慣れた様子で鞍によじ登る。
「お嬢ちゃんは、こっちへどうぞ」
カサノバはそう言うと、ひょい、と
アリッサを持ち上げて鞍の上に乗せた。
そのまま、自分も後ろに跨る。
――近い。
アリッサは、わざと顰めっ面をしてみせる。
カサノバは気にした様子もない。
「さて、行くか」
馬上は意外なほど快適だった。
しかし、気まずい雰囲気は消えなかった。
カサノバは、アリッサが退屈しないように、馬を操りながら何曲か歌を歌ってくれた。
悔しいくらい上手だった。
後ろから、メイトリックスとシンディが乗った馬がついてくる。
あちらも、なんとなく気まずそうな空気だ。
嫌なやつと同じ馬に乗っていても、しばらく走っていると風が気持ちよくなってきた。
――こいつがいなければ、この馬とも、もっと仲良くなれるのに。
アリッサは、ふと気になってカサノバに聞いた。
「ねえ。この馬って魔獣?」
カサノバは大声で笑った。
「ははっ。こいつは普通の馬さ」
「魔法で攻撃してこないから、安心しな」
――なんだ、つまんない。
アリッサは少しがっかりした。
この世界の動物が全部魔獣ってわけじゃ
ないらしい。
――可愛い魔獣もいたらいいな。
ネズミの魔獣とか。
レッサーパンダの魔獣とか。
そんなものを想像して、ひとりで楽しむ。
しばらくして、前方に小さな山が見えてきた。
カサノバが前を指差す。
「あの山の上が隠れ家だ」
しかし、隠れ家は山の上ではなかった。
山の中にあった。
小さな山の頂に、地下へ通じる出入り口があった。
さらに、山の四方にも同じような出入り口があり、内部でトンネルが繋がっているらしい。
アリッサは、ふと連想した。
――アリの巣みたい。
「横から入ってもいいが」
カサノバが言う。
「この上の出入り口が、一番、部屋に近いからな」
そう言いながら、一頭の馬の手綱を近くの木に括りつけた。
「馬は、一頭置いていってやる」
「お嬢ちゃんへのプレゼントだ」
――恩着せがましい。
アリッサは、心の中で呟いた。
「一番近い町はどっちじゃ?」
メイトリックスが尋ねる。
「南だな」
「馬で三十分ほど走れば小さな町がある」
「漁港も近いはずだ」
――漁港?海がある?
その言葉に、アリッサは思わず嬉しくなった。
一通り説明を終えると、カサノバはさっさと帰っていった。
女たちに会いに行くというのは、どうやら嘘だったらしい。
カサノバの姿が見えなくなると、アリッサはすぐにシンディのそばへ行って、小さな声で聞いた。
「ねえ。あいつ、シンディと同じ腕輪持ってたよね」
「別れたのに、どうして同じのを付けてるの?」
下世話な質問だと分かっていた。
でも、どうしても気になっていた。
もし、そういうことなら。
メイトリックスが、あまりにも浮かばれない。
「……はあ」
シンディは、深くため息を吐いた。
「誤解しないでね」
「シンシアは、あいつが自分の腕輪を付けてること知らなかったの」
――どういうこと?
「勝手に似た腕輪を作って、勝手に付けてるのよ」
「……キモくない?」
確かに。
それは、ちょっと気持ち悪い。
「なんで、そんなことするの?」
アリッサが聞く。
「知らないわよ」
シンディは肩をすくめた。
「本人に聞いて」
――聞けるわけないじゃない。
この件は迷宮入りが決定した。
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