表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/33

第22話 メイトリックスの馴れ初め

焚き火の前で、

アリッサは、

どうしても好奇心を抑えきれなかった。


こんな夜だし。

こんな雰囲気だし。


つい、

聞いてしまう。


「……ねえ」

「メイトリックス」


メイトリックスが、

優しい目で

アリッサを見た。


「シンシアとは、

どうやって

知り合ったの?」


少しだけ、

期待していた。


運命的な出会い。

助け合って、

惹かれ合って。


――いわゆる、

ロマンチックな恋バナ。


だが。


シンディの

驚いた顔を見て、

後悔した。


……もしかして、

地雷踏んだ?


メイトリックスは、

少しも照れず、

少しも笑わず、


淡々と、

語り始めた。


「……わしが、

死にかけた時があってな」


視線を、

わずかに落とす。


「シンシアは」


「勇者が、

一人ずつ、

倒れていくのを

見ておった」


「それに、

耐えられなかったんじゃろう」


拳を、

軽く握る。


「だから、

最後の一人を、

守った」


少し間を置いて、

続ける。


「……それが、

わしだっただけじゃ」


小さく、

息を吐く。


「それを、

英雄だなんて

呼ばれてものう」


自嘲とも、

諦めともつかない

笑い。


「胸を張れるほど、

立派な話でもない」


アリッサは、

何も言えなかった。


「シンシアは、

別の目的があって

戦場にいたんじゃ」


「魔法使いだということを、

隠してな」


アリッサが、

思わず息を呑む。


メイトリックスは、

感情を交えず、

事実だけを語る。


「それが、

台無しになった」


「わしを、

守ったことでな」


少し間を置いて、


「……シンシアはな」


「わしを、

守れるとは

思わなかったそうじゃ」


さらに、

一拍。


「じゃが、

魔法は――」


「思ったより、

効いた」


声に、

誇りはない。


「簡単な、

初級魔法だったんじゃがな」


「それで、

なんとか

戦場を逃げ延びて」


「逃亡生活が、

始まったんじゃ」


「一緒に逃げるなら、

もう、

他人でいる理由が

なかった」


焚き火の音だけが、

しばらく続いていた。


「……そういえばな」


メイトリックスが、

ふと思い出したように言う。


「逃げ始めた頃は、

よく怒られた」


アリッサが、

首をかしげる。


「何で?」


「わしが、

剣を持ったまま

寝ようとするからじゃ」


小さく笑う。


「『もう戦場じゃないんだから』

ってな」


その言い方が、

シンディに、

やけに似ていた。


「飯も、

急いでかき込むと

怒られた」


「『せっかく美味しく作ったんだから、

味わって食べなさい』

って」


メイトリックスは、

少し照れたように、

鼻を掻く。


「……魔法使いのくせに、

世話焼きでのう」


ぽつりと、

メイトリックスが口を開く。


「あいつが、

わしを助けなければ……」


そこで、

言葉が詰まる。


「あいつは、

まだ――」


最後まで、

言えなかった。


だが。


次の瞬間、

シンディが顔を上げた。


その目には、

はっきりとした

怒りが宿っている。


「……違う」


低く、

噛みしめるような声。


「シンシアは、

後悔なんてしてない」


はっきりと、

言い切った。


「一度も、

そんな顔を

見せなかった」


焚き火が、

ぱちりと音を立てる。


メイトリックスは、

何も言えず、

ただ視線を落とした。


シンディは、

それ以上、

何も続けなかった。


それで、

十分だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ