② レッツ・大冒険!(小旅行)
「必ずナツヒを隣に置いて行動してください。片時も離れないように」
「……は、はいっ!」
ユウナギの顔が一気に明るくなった。
「本来なら王女の外出などありえたとして、侍女も兵も何十人と召し連れるもの。しかし、今回のことは明るみにしたくない、私の我がままです」
彼の胸中にもいろいろと複雑なものがあるようだ。
「国の中なら概ね平穏です。行商人が常に行き来している道程ですし。それでも無謀なことは絶対にしないでください。今回の旅の刻限は6日後の夜です」
ユウナギは早速緊張してきたのか、ぐっと息を飲み込んだ。6日間王女の不在をごまかす彼の心労はいかばかりか。
「行商人の邑まで馬車で2日かかります、現地ではそう余裕もない。目当ての人物と必ず会えるとも限らない。いいですね」
そして途中の邑では親族のところで一泊できるよう、すぐ通知すると話した。
「もう一度、いちばん大事なことです。あなたに万一のことがあれば、ここ中央は混乱に陥る。私はもちろん、ナツヒも責任を問われます。どういうことになるか想像できますね」
「…………」
一瞬言葉を失ったが、真剣な顔で頷くユウナギであった。
何かあったら自分ではなく、自分の大切な人の責になってしまう。その不安は帰宅するまで付きまとうのだろう。
しかし、初めて外の世界に出られるのだ。
ユウナギは逸る心を抑えきれずにいた。
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「はぁ……」
中央を出てからそれほどたってはいないが、もう飽きたのか、自分の馬で飛ばしたい……とフテくされ馬車に揺られる護衛兵・ナツヒ。車酔いで心が折れそうなユウナギの隣にて、無言を貫いている。彼女だって話しかけてほしくはないだろう。
中間の邑で一泊、翌朝も早くに出発し、やはり無言のまま、目的の邑に着いた頃は夕暮れ時。
急いで件の商人を探したら、運良く知る人に案内してもらえた。そして無事商人と対面し、そこで泊まらせてもらうことになったのである。
夜、魔術師について聞いてみた。どのような人物なのか。
「ああ、もともと彼はこの集落で、薬師として暮らしていたのだけどね」
どうやら、製薬や実験の際に爆発が起きたり異臭を放ったりすることがあり、気味悪がる者も現れ、そうした住民との折り合いがつかなくなった。
ゆえにもう何年も山に籠って自適の暮らしぶりというわけだ。
「懇意にしているから庇うのもあるけど。本人はいたって気のいい真面目な男だよ。悪意のない訪問者を無下に扱うことはしないだろう」
こう聞いたユウナギは安堵した。
2日の時を窮屈な移動だけで費やしたので、山道を歩くのを楽しみに眠りについた。
朝、山のふもとで商人に礼を言い別れてから、荷台がやっと通るくらいの道を歩き早5刻。
山奥に建つにしては立派な竪穴建物が、進行方向の先に見えた。走って近寄ると、その家屋の奥には倉庫とみられる小屋が2軒ある。
「きっとここだ、魔術師の居場所は……」
ユウナギは息を吸い込み、できる限りの大声を上げた。
「すいませ――ん。誰かいますか――?」
「ほ――い。誰かいま――す」
「おおっ。声が返ってきた!」
「おい」
うきうきして前に出ていくユウナギを、ナツヒはさっと自分の後ろに回す。
「「!」」
戸からのそっと出てきた男。それは、ずいぶんと背の高い、驚くべき容貌の者だった。
なんと形容すればいいのだろう。ひとたび鬼かと思ったが、恐ろしい印象ではない。非常に彫りの深い目鼻立ちだ。
目の色も、それは灰色だろうか、黄だろうか。明らかにこの国で生まれた民とは違う彼の面構えに、ふたりそろって面食らう。
「何か用か?」
その風貌に釘付けになっていたユウナギは我に返った。
「あ、あの、ふもとで商人から聞いて来ました……私は“ナギ”と言います。こっちはお供のナツヒ」
名前をそのまま明かすなとトバリに言われてきたので、単純に略した。
「ふしぎな……珍しい薬があるって聞いて。譲っていただけないかしら」
「とりあえず、こちらへどうぞ。山道でくたびれただろう?」
商人のことを話したおかげか、特に警戒されず中に招かれた。





