③ 入手難易度2(10段階)のアイテムを手に入れた!
中は衝立で仕切られていて、手前側を居住空間にしているようだ。庶民の家は通常、多目的の一室なのだが。
うながされ、藁のむしろにふたりは座った。
そして近くの川で釣れるという魚数匹でもてなされる。めったにない訪問者のおかげで男は機嫌が良いようだ。
緊張を自覚しているユウナギは、先によもやま話をしようと思った。
「衝立の向こうには何があるの?」
「薬品や材料の棚がところ狭しと置かれている」
見てみたいけど親しくなってからじゃないと言えないな、と好奇心を引っ込める。
「以前は平地で暮らしていたと聞いたのだけど」
少々遠慮のないユウナギはこう尋ねた。
「ここに追いやられたことを、根に持っていたりはしない?」
「山間の暮らしが気に入っているのでそれはないな」
口調や物腰から、見た目の印象より穏やかな男だとナツヒも感じた。
そのあたりで口火を切ったのは男の方だった。
「欲しい物があってここに来たのだろう?」
ユウナギの、ああそうだった忘れてた、という心の声を、ナツヒは聞き洩らさない。
「ええっと、振りかけると黄泉の国への道を示してくれる薬があるって……」
逆にナツヒの、なんだそりゃ聞いてねえぞ、という小さなつぶやきは、彼女にまったく届かずだ。
実際彼は何も詳しいことを聞かされず、兄の急な命で旅の護衛をさせられている。
この旅の目的を馬車に揺られながら聞こうと思っていたら、この王女様は車酔いで何も話せなかったのである。
ところで製作者であるはずの男もやはり、なんだそりゃ、な話だ。
「あれ、違ったかな? 霊魂を黄泉の国に送り届ける薬……とかそんなの?」
「そんなものが作れるなら方法を知りたい」
呆れるどころか、とても真剣な表情の彼だった。
「うーん……もう1回、商人の彼にちゃんと話を聞いてくるんだったわ」
「あいつが何か?」
「あなたの失敗作を捨てるよう頼まれて……」
「ああ、あれのことか。……なくはないが」
「それ、よければ私にも譲って。多くはないけど、銅貨なら出すわ」
そう言いながら懐から袋を取り出す。それを見たナツヒは、あえて何も言わなかった。
「田舎では役所の人間でもない限り、銅貨なんて使わない。持っていても無用の長物だよ」
「あ……」
世間知らずを指摘されたようで、ユウナギは落ち込んだ。
「どうせ処分するものだから別にいい。次があったらふもとから粟でも持ってきてくれ」
そう言いながら、彼はふたりを外へとうながす。
「確か倉庫に残っているはずだ。来い」
住居横の倉庫に入った。
薬と思われる多くのものが硝子の瓶に詰められている。この国で硝子はかなりの希少品なのだが。
男は腰を下ろし、甕の蓋を開けて確かめた。
「2瓶残っている」
それは硝子ではなく大きな陶器に入っていた。
その蓋はかなり精巧のようだ、きっちり閉められていて、簡単には開かない。
「先ほど死者をあの世へ送る薬が作れたら、と言ったが……そうだな。これは生者を送ってしまえる薬だ」
「え?」
「つまり、飲んだら死ぬ」
「毒なの……?」
「毒を作っているつもりはないが、失敗作は得てしてそういうものだ。本当に死ぬかどうかは、試してないから分からん」
おいおい危ない薬じゃねえか、とナツヒは思ったが、ここでも口出しせずにおいた。
「渡すからには好きに使ってくれて構わないが、ちゃんと言っておいたからな」
「はい……」
ふたりは背台に甕を乗せ、魔術師の家をあとにした。
帰り道の山中。
思っていたより順調に事が運び、ユウナギは指定された門限より1日早く帰れそうだと安堵する。
「こんな怪しげな薬どうするつもりだ?」
「確かきらきら光るという話だったから、戻ったらとりあえず、墓石にでもかけてみようかな」
「光る? ご先祖に叱られないか?」
「怒らなそうな人を選んで……。じゃあコツバメの墓で」
その時、ユウナギは何かを聴いた。
「どうした?」
空を仰いできょろきょろと見回すユウナギを、ナツヒが怪訝な顔で見る。
「こっちかな……」
「?」
藪をかき分け道から外れゆく彼女を、ナツヒは不審に思い止めようとする。
が、まるで何かに憑りつかれたような彼女は何を言われても上の空。
ふたり、どんどん草木のなか進みゆく。
「どうしたんだよ? 道に戻ろう、このままじゃ本当に帰れなくなる……」
その時、ユウナギは自らに異変を感じた。
冷たい風にさらされている心地がして、両腕で自分の肩を掴み、背を丸くした。
「ナツヒ……なんか私、吸い込まれそう……」
「吸い?」
「手を握って」
そう言って震える手を差し伸べた。
「手?」
訳が分からないナツヒは、言われるままその両手を握る。
「だめ……だんだん強くなる……!!」
その訴えと同時に、ユウナギはナツヒの手を振りほどき彼に飛びついた。
そして心の中で、こう叫んでいた。
――――――私、飛んでっちゃう!!!





