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ここでなにをしていたのかと問われたので、のんびりお茶を楽しみながら景色を眺めていたのだと応えた。
「それは素敵だ。私もご一緒しよう」
オズヴァルド様は嬉しそうに私の手を取ると、いそいそと敷物の上に再び座るよう促す。
白銀の髪にルビーの瞳、艶やかな褐色の肌、そして長身でしなやかな体つき。その顔立ちはオールモンド王国の者達から見ればエキゾチックで、とても麗しいお方だ。
だが私を促すその手は、意外にもごつごつとしていて無骨だった。
キールハラルの王族は、武を持って自らの手で民を守ることを尊しとしているので、幼い頃から様々な武術を厳しく学び続けていると聞いた。
従者のラルコが言うには、オズヴァルド様は二刀遣いを得意とし、細身の半月刀を両手に持って、砂漠に住まう魔物と戦う姿はまるで舞のように流麗で、それはそれは美しいのだとか。
こうなることを予想していたようで、侍女のエリスが待ってましたとばかりにササッとお茶の準備をしてくれる。
主の我が儘で登り坂を全力疾走させられたオズヴァルド様の従者や護衛騎士達にも気遣ってくれるよう頼むと、承知しましたと一礼して下がっていった。実に有能で頼りになる。
「緑が豊かで、素晴らしい光景だな」
しばし無言で周囲の景色を眺めていたオズヴァルド様が、しみじみとした口調で呟いた。
「見渡す限りに緑が広がる地など、キールハラルには数えるほどしかない。今のうちに目に焼きつけて置かなくては」
オズヴァルド様の留学の期間は一年間。卒業式が終われば国に帰ることが決まっていた。
別れを思って胸が痛む。
「……厳しい土地柄だと伺っています」
「他国の方から見ればそうだろう。だが砂漠生まれの私にとっては馴染んだ大地だ。昼に夜に趣を変える白い砂漠は、その厳しさ故に生きている喜びを感じさせてくれる。それに、砂漠のただ中に位置する我が王都は、豊かな地下水脈の水を汲み上げて王都内を循環させることで、潤いと涼やかな風に満ちているよ。他国の方でも比較的暮らしやすいと思う」
「住めば都ですね」
「そうだね。……ああでも、昼夜の寒暖差に身体が馴染むまでは大変かもしれないな……。オールモンド王国で言うと、真夏の一番暑い日と冬の一番寒い日を一日で体感する感じかな」
「まあ、それほどですか?」
「うん。でも、あくまで寒暖差の例えだよ。キールハラルの夜は、一番寒い時でも、ちょうどこの季節の夜ぐらいの気温だ。こちらの冬みたいに雪が降ったり水が凍ったりするほど寒くはならない」
最低気温がこちらより高いということは、最高気温もその分だけ高いと言うことか。
「日中の暑さが想像できません」
「だろうね。オールモンド王国の夏は涼しくて過ごしやすいから」
オズヴァルド様はそう言ったが、この国で生まれ育った私にとっては違う。
夏は普通に暑いし辛い季節だ。
特にドレスで正装しなければならない時は、汗染みが表から見えないようレースで覆ったり刺繍を施したりと、色々と気を遣わねばならないせいで更に暑さが増して大変なのだ。
「その分、こちらの冬は寒くて大変だったな……。アメリアに暖かな毛布や肌着を用立てて貰えなければ、きっと凍えて眠れなかったし、落ち着いて授業を受けることもできなかったよ。特に肌着は薄いのに暖かくて素晴らしかった」
「お役に立ててなによりです。あれらは我が領地の特産品なんです」
我が領地の高低差が多く農作には向かない草原地帯では、放牧が盛んに行われていて毛織物が盛んなのだ。
もこもこに着ぶくれしていながら、それでもなお寒そうにしていたオズヴァルド様を見かねて最高級の品を進呈してよかった。
「冬場はこの王都よりとても寒い地なので、職人達が研鑽を重ねてくれたのですよ。防寒用品ではオールモンド一の品質と自負しています」
「……ローダンデール侯爵領は寒い土地柄なのか」
「ええ、とても。雪はあまり降りませんが、湖は完全に凍ります。その分、夏は過ごしやすいので避暑地としても有名なんですよ」
「じゃあ、アメリアは暑い地は苦手だろうか?」
「さあ、行ってみないとわかりません。ですが私は普通の貴族女性と違って、ご存じの通り乗馬も殿方並にこなしますし、体力はあるほうなので案外すぐに順応してしまうかもしれません」
「そうか。うん、そうだ。アメリアは案外頑丈だったな。夏に馬で遠出したときも、男のラルコが情けなくへばってたのに、アメリアはけろりとしていたものな」
「体力がないわけじゃないですよ! 馬に馴れてなかっただけですからね!」
涼しい風に乗って声が届いたのだろう。
少し離れたところから、従者のラルコが不満を表明した。
キールハラルは馬ではなくラクダを移動手段としているから、乗馬が不得手なのは仕方の無いことだろう。
「それと王子。令嬢に頑丈だなんて言っちゃ駄目です! 失礼ですよ!」
「はっ。アメリア、その……けして侮辱するつもりは……」
ラルコの指摘に、オズヴァルド様はあからさまに狼狽えた。
おろおろと意味も無く両手を動かす姿がなんだかとても可愛くみえて、私は微笑んだ。
「わかっています。お気になさらず」
「そうか、よかった。アメリアは心が広いな。――さすがは、オールモンドの夜の女神」
うっとり褒め称えられて、微笑む顔が少しだけひきつってしまう。
キールハラルでは、『夜の女神』は信仰の対象だ。
神に喩えられるのはさすがに恐れ多い。
――オールモンドの夜の女神。
この無邪気な麗しの末っ子王子は、私を初対面の時からそう呼んだ。




