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悪役令嬢とは気づかずに婚約破棄しそびれました。  作者: 黒田ちか(クロッチカ)
第一章

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(あるわ。お友達の幸せの為よ)

『お人好し過ぎる。『悪役令嬢』を演じたせいで愚者の塔送りになったらどうするんだ』

(演技だってことを最初から陛下とお父様に伝えておけば、きっと一時的な修道院送りにしてくださったと思うわ)

『だからなぜ自分から泥をかぶりに行く? そんな必要はないだろう。第一王子とあの娘の心配をするぐらいなら、もっと自分のことを考えるべきだ』

(明日からそうする。今日ぐらいはお友達を心配してもいいでしょう?)

『よくない。そもそも()()()は、アメリアが領地に蟄居しなくてはならないことが不満だ』


 急に胸がむかむかしてきた。

 これは私ではなく、()()()の感情だ。

 心の底から怒っている()()()の感情が、否応なしに私に伝わってきている。


『そもそもアメリアが学園を去らねばならなくなったのは、第一王子の我が儘と国王の親馬鹿が原因だ。違うか?』

(まあ、そんな身も蓋もない……。不敬よ)

『構うものか』


 ふん、と鼻息のような音が胸に響いた。


『自分達の都合で婚約内定者だなんて中途半端な立場をアメリアに与えた挙げ句、貴族女性としての未来まで奪うなど許しがたい。アメリアにはなんの咎もないのに、なぜ全てのしわ寄せを押しつけられねばならない? 全ての損害は、本来王族が背負うべきものだ』

(……王族は簡単に自分の非を認めてはいけないの。私達貴族とその領民達は、()()()()の庇護の元、豊かで平穏な生活を享受しているのだから……。忠実な臣下として、王族の失態を肩代わりするのは当然の勤めだと思う)


 私の主張が本心からのものだと伝わったのだろう。

 胸のむかむかがすうっと消えて、代わりに少しだけ胸が痛んだ。


『それでも()()()は納得できない』

(……私の為に、怒ったり悲しんだりしてくれてありがとう)

『礼は必要ない。()()()とアメリアは同じ存在だ。()()()()()()自身の為に感情を揺らしただけだ』

(そう? でもありがとう。――()()()が居てくれて良かった)


 四歳の時、諦めかけていた命を助けてもらったことも、婚約者選定の儀で醜態を晒さないよう説得してくれたことも、そして今、私の為に怒り悲しんでくれることも……。

 ()()()は、ずっと私を励まして支え、助けてくれる。

 同じ魂を分け合う存在、突き詰めれば自分自身なのだと分かっていても、まるで心の中に最高の守護者がいるような心強さを感じる。


 そんな私の心が伝わったのか、()()()が穏やかに呟く。


『そう思ってもらえて嬉しい。もともとそれが()()()が発生した意味、存在理由だったから』

(発生した意味?)


 なんだろう。なにか引っかかる言い方だ。


『アメリア、護衛騎士達がざわついているようだ』


 問いただそうとする私に、()()()が忠告した。

 意識を外に向けると、確かに護衛騎士達が警戒して声を掛け合っているようだった。


「エリス、どうかしたの?」


 侍女のエリスが駆け寄ってきて、傍らにひざまずいた。


「麓からこの丘に駆け上がってくる者がいるようです」

「伝令?」

「いえ、そうではなく……。髪色から、キールハラルの第三王子ではないかと……」

「まあ、オズヴァルド様がここに?」


 エリスの手を借りて立ち上がり、麓に続く道に視線を向けると、確かに首の後ろでひとつに括った白銀の髪を大きく揺らして走ってくるオズヴァルド様の姿が見えた。

 その後ろから、オズヴァルド様の従者や護衛達が必死に追いかけてきている。

 ちょっと笑える光景だ。


「アメリア!」


 立ち上がったことで私の姿を認めたのだろう。

 オズヴァルド様は嬉しそうに破顔して、私に大きく手を振った。


「麓に、ローダンデールの……紋章の入った馬車が停まっていたから……もしかしたら、貴方がいるのでは……と思ったんだ」


 けっこうな勢いで丘を駆け上がってきたから、さすがに疲れたようで息が切れている。

 失礼かとは思ったが、まだ口をつけていない程良く冷めた紅茶があったので勧めてみたら、オズヴァルド様は素直に受け取って飲み干してくださった。

 立場上、誉められた行為ではないけれど、私相手に毒の心配を一切していないその行為がとても嬉しい。


「ありがとう。お陰で、少し落ち着いた」

「ひとりで走って来ては駄目ですよ。護衛の方々が困ってらっしゃるじゃないですか」


 遅れて辿り着いた護衛達が、私の言葉に苦笑している。

 軽装とはいえ鎧や剣を身につけた上での登り坂の全力疾走がこたえたようで、みな息を切らせて疲れた様子だ。


「アメリア様、なにを……言っても無駄ですよ。うちの王子は、貴方の気配を感じると……ジッとしていられないんです」


 オズヴァルド様の幼馴染みだという従者のラルコが、やはり息を切らせて苦笑する。

 キールハラル王家の兄弟の中、ひとり年が離れて産まれた第三王子。

 年齢のわりに無邪気で朗らかな彼の言動を、かの国の人々はみな愛して止まないのだと、ラルコが得意そうに教えてくれたことがある。


 キールハラルの麗しの末っ子王子。

 このお方こそ、私が心密かにお慕いしている人だった。

丘の上には王子様がいるって、どこかで聞いたような気がする……。

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