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『それに、そもそもワタシがいなかったら、アメリアは熱病に打ち勝てず、四歳で死んでいた筈だ』
(あ、そうね。そうだったわ)
ワタシがいなかったら死んでいるのだから、『悪役令嬢』になれるわけがない。
(それにしても、『乙女ゲーム』って不思議なお話よね)
『お話ではない。女性が複数の男性に囲まれて、そこから好みのひとりを選んで攻略してその愛を得るという趣向のゲームなのだ。だから選んだ男性が違えば結末が変わるし、攻略を間違えればハッピーエンドにならないこともある』
(ゲームだから勝ち負けみたいなものがあるのね。ワタシも『乙女ゲーム』で遊んだことがあるの?)
『ない。知識として知っていただけだ』
(遊んだことがないから『乙女ゲーム』の内容を知りたくなった?)
『違う。……誤解があるようだが、『乙女ゲーム』というのはゲームの中のジャンルのひとつで、その中でも複数のタイトルが存在しているのだ。この世界をテーマにした『乙女ゲーム』のタイトルすらワタシは知らない』
(それならなぜ『乙女ゲーム』の内容に興味があるの? こちらの正しい歴史じゃないって分かっているのに知る必要があるの?)
『ある。複数ある攻略ルートの内容を全て聞き取って精査すれば、この世界の歴史の流れを推測できる可能性がある。未来の可能性を知れば、この先アメリアが幸せになれるルートを探ることが可能になるかもしれない』
基本的に私は、ワタシの言うことを全て鵜呑みにするのだが、この時ばかりは違った。
普段の断定口調とは違って、推測とか可能性とか、妙にふわっとした物言いをしたことに違和感を覚えたのだ。
そして、気づいてしまった。
(……フローリア様に『乙女ゲーム』の内容を聞く為に学園に残るとしても、引き延ばせるのは一日か二日だけよ。卒業式までここに残ることは出来ないわ)
『……』
心の中が筒抜けになっているから、私が気づいたことを当然ワタシも察している。
『すまない。どうしても卒業の証のメダルを欲しいと思う気持ちが抑えられなかった。……我が儘を言ってしまったな』
(いいの。はじめてワタシの我が儘を聞けて少し嬉しい。でも……ごめんなさい)
私が婚約内定者の地位から降りたことは公式にはまだ発表されていないが、きっと王城にいる者達には知られてしまっているだろう。
卒業式のような沢山の貴族が集まる場に留まっていては、どんなトラブルに巻き込まれるかわかったものじゃない。
危険を避ける為にも、侯爵家に戻るようにというお父様の命令に従うべきだった。
『アメリアが謝ることじゃない。アメリアの身の安全が一番大事だ。それに、アメリアが卒業式の舞踏会を心から楽しみにしていたことを、ワタシは誰よりもよく知っている』
(そうね。とても楽しみにしてた。……一度でいいから、あの方とダンスを踊ってみたかった)
『いつかまた、その機会が巡ってくるかもしれない』
(うん、そうね。きっと……)
そんな日は、きっと来ない。
私もワタシもそれを知っていたけど、あえてそのことには触れなかった。
(ねえ、明日、屋敷に帰る前に丘に行かない?)
『学園が一望できるあの丘か』
気分を変えようと変えた話題に、ワタシはすぐに乗ってくれた。
(そう。敷物とティーセットを持って行って、少しのんびり過ごしましょうよ。ワタシは学園の鐘の音が大好きでしょう?)
『そうだな。悪くない』
はじめてこの学園を訪れたとき、私は胸と瞼が熱くなるほどの喜びを覚えた。
私には学園に対する思い入れは特に無かったから、その感情がワタシのものだとすぐに気づいた。
その後もワタシは、ちょくちょく私に喜びの感情を伝えてきた。
課外授業や学園祭、騎士科の公式順位戦。そして全校生徒が揃って夜明けの光を待つ建国記念日の祝祭の儀式。抜き打ちの試験でさえワタシの喜びの対象になっていた。
ワタシは、私以上に学園生活を楽しんでいた。
もしかしたら、かつてワタシが生きていた時、向こうの世界の学園になにか思い残すことがあったのかもしれない。
ワタシはなにも語らないから、私にはわからないけど……。
丘の上でゆっくり過ごし、終業の鐘の音を聞いてから戻っても、暗くなる前には屋敷に戻れるだろう。
卒業までは留まることはできないのなら、せめて最後に学園の光景を目に焼き付けていくぐらいは許されるはずだ。
ちょっとだけあらすじをなおしてみました。




