舞台に立つために
「ルーキースターも残すところあと半分! ここで中間発表を行いますー!」
司会のRDP運営委員会の生徒がそう言うと、舞台上に大きなスクリーンが降りてきて、そこにRDPのランキングが表示された。一位から三位は隠されており、四位から十位の生徒の名前とコミュ名、顔写真が映っている。
「うーん、あかんなあ。俺ら誰もおらん」
「ほぼ花吹雪だな」
前半に公演を行ったコミュのメンバーが少なからず入ってはいるものの、ほとんどが花吹雪のメンバーだ。これで花吹雪はまだ公演を行っていないのだから、驚きである。
このままだと一位から十位までが全部花吹雪で埋まってしまうだろう。
「うーん、他のコミュも健闘してはいるのですが、やはり花吹雪は強いですねー。では三位から一位も発表しちゃいましょう!」
司会の言葉と共に表示が切り替わる。
「やっぱり花吹雪で埋まっちゃってますねー。当然一位は我らが生徒会長、續山詞名さんです!」
今度はランキングから、控え室の中継に切り替わった。眉間に皺を寄せ、テレビを凝視していた詞名は、カメラが回っていることに気づき、すぐに最高の笑顔を浮かべた。
「あ、見て。後ろにみいあちゃん映ってんで」
「ありえないほど緊張してんじゃねえか!」
こういう時、一番にカメラをぶんどって自分をアピールしそうなみいあだ。それなのに、膝に手を置き、かちんこちんの表情で鏡を凝視しているではないか。
「ちょっとこれ、ダメだろ! めちゃくちゃ心配になってきたぞ!」
「肇が行って、抱きしめてちゅーでもしたら落ち着くんちゃう?」
「そ、そうか! 行ってくる!」
「おいおい! 冗談やって! 肇も落ち着き!」
「ホントだ! 何が抱きしめてちゅーだ!」
「肇、結構天然やんな?」
危うくカメラの前でみいあに公開キスをするところだった。肇は落ち着いて席に着き、大きく深呼吸をした。
「詞名さんに今のお気持ちを一つちょうだいしましょう!」
「え、今の気持ち? あ……」
いつもならこう言う時、何も考えていなかったとしてもすぐに頭を回転させて、良いコメントを残してしまうのが續山詞名だ。
でも今日の詞名は違っていた。
「あの、えっと……が、頑張ります……」
そう言って、ふいっとカメラから顔を逸らしてしまう。司会ももっと詞名のコメントで盛り上がると思っていたらしく、意外な展開にあたふたしていた。
「こ、詞名さんありがとうございます! そ、それではえっと、じゃあ! あっ! 注目の! 注目のあの人に声をかけてみましょう! 花吹雪と対決中のKosMosを作った君島みいあさんです!」
ああもうこりゃだめだと肇とゆ太朗は頭を抱えた。みいあは声をかけられたことに気づいておらず、未だにかちこちに固まった状態である。
「君島みいあさーん! あのー! 君島さーん!」
司会が呼ぶが、何の反応もない。もしかしたら目を開けたまま気絶でもしているのではないだろうかと思うくらい動かなかった。
「今、声掛けないでなの。君島みいあ先生は現在瞑想中なの」
「え? え? め、瞑想!?」
「そうそう、イメージトレーニングね! これを行うことによって、役そのものになるんだよ、君島さんは。だから邪魔しないでくれるかな?」
めぐるに乗っかってゆ子も助け船を出す。当のみいあは助けられていることには全く気づいていないが。
「そ、そうなんですか! すごいですね、君島みいあさん! 現在十九位ですし、公演でどこまでランキングを上げられるか大注目です!」
「十七位の名香川ゆ子もよろしくー」
ゆ子がカメラに向かって手を振ると、観客席からの「ゆ子ー!」というコールが生で控え室にまで届いたのだった。
「名香川と根火裏がいて良かった……」
「図らずもみいあちゃんに強キャラ属性付いたしな!」
その後も司会による後半公演の見所や、ランキング予想などが発表されている間に、花吹雪のメンバー達は控え室から出ていった。
遂に大注目の、花吹雪の公演が始まるのだ。
ルーキースターで行う花吹雪の公演のコンセプトは「みんなが知っているお話であること」だ。
しかも一時間のミニミュージカルなので長編は出来ない。なのでいつも大体童話をアレンジしたミュージカルを行っている。
今年のミュージカルはグリム童話の「白雪姫」だった。詞名は主役の白雪姫ではなく、継母の役だ。主役よりもこういう悪役の方が演技力を必要とされる場合があるからなのかもしれない。
「へー、ことにゃ今回も主役ちゃうんや」
「いっつもサブだよな」
クイーンドリームになっている詞名なので、主役をやり、バンバン目立っているのだろうと思いがちだが、彼女が主役をやったことは一度もない。主役を引き立て、かつ、自分自身も輝く彼女だからこそ注目されたのだろう。
「あれ? 主役の子ちゃうやん。変わったん?」
「すごいチェックしてんだな、お前」
「そりゃ可愛い子はチェックするやろ」
先ほどコンサートホール前で起こっていた出来事を話すと、ゆ太朗も不愉快そうだった。
「そんなメンバー同士の対立煽るようなことして、何になるんやろ」
「向上心が湧く、とか?」
「それは分かるけどな、今ちゃうやろ。公演終わった後に、次は主役ちゃう子にするわーとかなら分かるけどな。何で今なん思わへん?」
「気に食わないことしたんだろうな、温ね……姉貴の」
「肇の姉ちゃんやから言いにくいけど、ただの子どもやん思うわ」
言いにくいと言いつつはっきり言っているゆ太朗。でも何となく、ゆ太朗の言葉にすっきりとした。
そうだ、温は子どもだ。
いつまで経っても、二十七歳になっても、大人みたいな子どものままだ。
「そろそろ演者のみなさんは舞台裏に集合して下さい。影アナの方は舞台後方の調整室に行って下さい」
いつの間にそんな時間が経っていたのだろう、もう白雪姫の物語は終盤に差し掛かっていた。花吹雪の公演に集中していて全く自分達の公演の練習をしていなかったことに少々不安を覚えるが、後悔しても遅い。
覚悟を決めて、椅子から立ち上がる。
「じゃ、俺の声、よろしくな!」
「……おう」
ゆ太朗に拳を差し出され、恥ずかしいなと思いつつも、自分の拳をぶつけた。
そしてゆ太朗は舞台裏へ、肇は音響調整室へと向かった。
「いやー、花吹雪の公演! 圧巻でしたね! 王子様が白雪姫にキスするシーン、ときめきが止まりませんでしたよー」
肇は調整室から司会が時間調整のために感想を述べているのを見つめながら、KosMosの公演が始まるのを待っていた。
もうすぐ、あとほんの数分で始まるのだ。
アテレコはうまく行くだろうか。口パクはゆ太朗が基本的に合わせてくれるが、自然に見えるだろうか。
不安は尽きないが、やるしかない。この日のために頑張ってきたのだ。
どんな結果になろうとも、一生懸命やり切るのみである。
詞名が言っていたみたいに、一生懸命やり切って、最後には笑えるような、そんなコミュでありたい。
パチパチという拍手と共に、ついに幕が上がる。
みいあとゆ子が、机と椅子と黒板が並べられただけの舞台上に立っているのが見える。
すごく心細そうだ。
大輝の出番はもう少し先だが、肇の心臓は飛び出そうなくらいに早鐘を打っていた。
ゆ子の歌と共に物語は始まる。
いつもより声が震えている気はするが、許容範囲だ。むしろこんな大舞台に立ったのは初めてだろうに、ここまで堂々と歌えていることに驚きさえ感じるくらいだ。
ゆ子の歌に合わせてみいあも舞台上をくるくると移動するのだが、動きも完璧だし、表情もいつも通り豊かで安心した。先ほどまでかちこちに凍っていたのが嘘みたいな振る舞いだ。
舞台に立つために生まれてきたのではないかと思ってしまうほど、彼女は輝いていた。
観客達がそう感じてくれるかはまだ分からないけれど。
完全に観客の気分でいた肇だったが、そろそろ大輝が初めて登場するシーンだ。咳払いをし、唾を飲み込み、軽く発生練習。
うん、準備は万端だ。
「あんた、なんでしゃべんないの?」
自分が言葉を発した瞬間、観客席がざわついたのが、調整室の中にいても感じられた。
なんだろう、おかしかっただろうか。
やっぱりアテレコなんて、不自然だっただろうか。
でも公演を行うにはこれしかなかったのだ。今更どうこう考えても遅いので、肇はそれ以上無駄なことは考えないことにし、公演に集中した。
公演は滞りなく進み、ゆ太朗とめぐるの社交ダンスのシーンに入る。
ゆ子が提案してくれたとおり、照明さんに頼んで、シルエットだけを映し出すようにしてもらった。このシーンでも観客席がざわついたのを感じたが、これは好印象のどよめきだろと肇は思った。何故かというと、調整室からでもすごくおしゃれでかっこよく見えたから。
「ねえ、大輝君。私のことどう思う?」
妖艶な声で、めぐる扮する美和がささやく。
「……少し、考えさせてくれ」
そのまま舞台は暗転し、次の場面へと移った。
大人しい女の子が好きだと言っていたのに、あんな女の子に心を奪われている大輝は嘘つきだと、翔子は大輝のことを避け始める。
避けられていることに気付き始めた大輝は何故か分からず怒ってしまう。そこで友人は大輝に、本当の彼女のことを歌で伝える。彼女は、本当はおしゃべりなんだということ。じゃあどうしてしゃべらなくなってしまったのか、あなたには分かるかな、と。
ゆ太朗とゆ子、双子のシーンに観客席が盛り上がっているのを感じる。「ゆ子ー!」「ゆ太朗ー!」なんていう、応援のコールが聞こえた。
ゆ子が歌っている間は特に台詞もないので、少し一息吐いた肇。
と、その時だった。
テレパシーンが発動したのだ。




