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決戦!ルーキースター

その日が、ついにやってきた。

 ロイヤルドリームページェントの春公演、「ルーキースター」が行われる日が。

 一ヶ月弱、肇達はこの日のために頑張ってきた。

 今日が終われば全てが決まる。

 このままミュージカルコミュ「KosMos」が続けられるのかどうか。

 肇が姉の奴隷となり、「花吹雪」でこき使われる三年間を過ごすのかどうか。

 姉の奴隷になることは正直もうどうでも良い。ただ、五人でやりたいミュージカルがまだたくさんあるから、ここで終わらせたくはなかった。

「ゆ子、頑張ってね! ちょー応援してるから!」

「あー。まあ、ほどほどに頑張るわー」

「ホントゆ子、やる気なーい!」

「本気で頑張れよー。絶対見に行くからな!」

 出番まであと二公演ほどなので、舞台裏で待つようにとRDP運営委員会が第三音楽室まで連絡に来た。黒板や机、椅子などの大道具は昨日のうちにもう舞台裏に移動させてある。必要なものだけ持って廊下に出ると、いつの間にか主に双子を応援に来た生徒達で溢れていた。

 友人達の前では恥ずかしいのか気だるそうに振る舞っているゆ子も、コミュの中では誰よりも頑張って練習していたことを肇は知っている。

「みんな来てくれたんやー」

「えっ!? ゆ太朗、声ヤバいじゃん!」

「金曜、風邪で休んでたもんね」

「それで出るの? 大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫。まあ、楽しみにしときー」

 一日ではさすがに声は治らなかったゆ太朗。でも昨日みっちりアテレコの練習をしたから、大丈夫……なはずだ。しかしあまりハードルをあげるのはやめてほしいと肇は思った。

「あっ、いた! め、めぐるちゃーん!」

「良かったー! 人多くて、こみっちゃんとどうしよーってなってたんだー。頑張ってって伝えたくて!」

「そうなの! めぐるちゃん、頑張ってね!」

「来てくれてありがとなの。頑張るの」

 めぐるにも大人しそうな女子が二人、応援に来ている。同じクラスなのだろう、「こみっちゃん達も来てたんや!」とチャラいゆ太郎に声をかけられ、こみっちゃん達はびくびくしていた。

 誰も応援に来るはずがない肇はみんなを放っておいて、先にコンサートホールに向かう。そんな肇の後ろをちょこちょこと、みいあが付いてきた。

「何だ、友達いねえのか? もう五月中旬だぞ」

「はじめちゃんさんに言われたくないです」

「俺は一人を好んでるの」

「みゅー。そうなんですかー。五人で練習してる時、すごく楽しそうですけど、そうなんですかー。一人が好きなんですねー」

「うっせーわ!」

 確かにみいあの言うとおり、KosMosで活動したこの数週間は本当に楽しかった。

 嫌なことやめんどうなこと、しんどいこともたくさんあったが、それ以上に誰かと一緒に何かを作り上げることの楽しさを知ることが出来た。

 小学生の時のあの事件から、見られないように、見られないようにと人を避け続け、いつしか関わり方が分からなくなってしまっていた。

 しかしこの数週間で少しだけ、人との接し方を学べたような気がする。

「みいあはね、みいあは……はじめちゃんさんさえそばにいてくれれば良いんです」

「あ? 友達作ろうな?」

「はじめちゃんさんが隣にいてくれたら何でも出来ちゃうんですよ」

「じゃあ友達を作ろう」

「だからみいあ、ちょっと怖いんです」

「俺の話聞いてねえな、こいつ」

 だったら俺も話聞かねえと、肇はみいあの言葉を完全シャットアウトして、違うことに思考を巡らせ始めるのだった。

「はじめちゃんさんが近くにいてくれないと、歌えるかどうか、すごく不安なんです……」

 みいあのそんな訴えは、肇の耳には全く届いていなかった。それよりも、聞きたくもない怒鳴り声が耳に入ってしまったのだ。

「あなたねえ!? どうしてあんなところ間違えるの!?」

 コンサートホールの扉付近で仁王立ちしながら、そう怒鳴っているのは紛れもなく大嫌いな姉の温だった。彼女の目の前には、完全に萎縮してしまっている花吹雪のコミュメンバー達がいた。ランキングの上位でも見たことがあるようなメンバーばかりだ。その中に詞名の姿もあった。

「す、すみません……」

「次、本番よ? 分かってる? ねえ? 練習でさえ間違えてて、本番成功できるの? 無理でしょ? 無理よね? 誰かこの子の代わりに主役出来る?」

 主役を降ろそうというのだ。ここに来て。

 もうまもなく本番が始まろうとしているというのに、だ。

「はい! 私、出来ます!」

「あたしも出来ます!」

「私も練習してます!」

「そう。それじゃあ……あなたに任せるわ」

 一斉に自分を主役にと、手を挙げる詞名以外のランキング上位のメンバー達。主役を降ろされた少女は、あり得ないといった表情でメンバー達を見ていた。

 温はその中から一人、目を付けていたらしい子を選んだ。選ばれた少女は嬉しそうに飛び跳ねる。

「の、温先生!? 待って下さい! じゃあ私は彼女の役をやれっていうんですか! 今からなんて、そんな!」

 主役に抜擢され、それだけのために全力を注いでいたのだろう。主役の代役をねらっていた他のメンバーと違い、違う役の練習なんてしていないはずだ。

「そんな酷いことは言わないわ? あなたは雑用よ。空いた役は詞名に掛け持ちお願いするわ。出来るわね?」

「……」

 詞名には珍しく、眉間に皺を寄せている。温の言葉にも返事をしない。

「聞いてる? 出来るわね?」

「……私がサポートします。主役を降ろさないであげて下さい」

 主役を降ろされた少女は希望の表情で、代わりに主役となった少女は怒りの表情で詞名を見つめる。

「あなたがどれだけサポートしても無駄だったから、今こうなってるの。大人しく言うことを聞きなさい」

「でも……っ!」

「詞名リーダーはあたしが主人公なのが嫌なんですかー?」

「そういうことじゃないわ。でも彼女だって頑張って……」

「頑張りが足りなかったんでしょ? あたしは自分の役と主役、二つの役を完璧にした。だから選ばれたの。クイーンドリームさんは良いわよね、頑張らなくても天才だから一位取れちゃうんだもん」

「そんな風に思ってたの……?」

 詞名は心底悲しそうな表情でため息をついた。そして「分かりました。温先生の言うとおりにします」と言い残すと、コンサートホールの裏通路へと消えた。

「うっわー、ギッスギスですね、花吹雪」

「『花吹雪』より『砂嵐』とかの方が合ってそうだな」

「KosMosさんは他のコミュの悪口言うのが趣味なのかしら?」

 小声で嫌みを言いつつ通り過ぎようと思ったのだが、温の耳にはしっかり届いていたらしく、目の前に仁王立ちされた。肇の方が、十センチくらい身長が高いので、全く威圧感はない。

「肇のために調律師を呼んで、第一音楽室のピアノを完璧な状態にしてあるの」

「無駄なことを、ご苦労様だな」

「無駄? 無駄じゃないわ。次の台本ももう決まってるのよ。後は肇に曲を作ってもらうだけなの。ああ、楽しみだわ」

「はじめちゃんさんはあげませんよ! みいあが一位になるんですから!」

 みいあがそう宣言した瞬間、温を含め、周りのコミュメンバー達がくすくすと笑い出した。私達を抜いてお前が一位だなんてありえないと言いたいのだろう。

 みいあはなぜ笑われたのか分からないようで、不思議そうに周りを見渡し、いつもみたいに「みゅみゅ?」と言いながら首を傾げていた。

 みいあが怒らないからか、肇は自分のことかのように腹が立ってきた。このままじゃ温みたいに怒鳴り散らかしてしまいそうな気がしたので、みいあの手を引いた。

「行くぞ、君島。時間の無駄だ」

「はっ、はじめちゃんさっ! はいっ! はじめちゃんさんと二人なら、新婚旅行でもホテルでも宇宙でもどこへでもー!」

「いや、俺そんなとこ行かねえけど!」

 馬鹿なことを言い合いながら、肇とみいあもコンサートホールの裏通路へ向かった。




 肇達は髪型を変えるくらいだったが、着替えなどをするコミュが大半なので、控え室は当然男女分かれていた。今生の別れかのように肇と離れることを嫌がるみいあをあしらい、一人男性控え室へと足を踏み入れた。

 現在プログラム四番のミュージカルコミュ「POPCORN・POP・GIRL」の公演が行われているようだ。

 花吹雪はプログラム五番、KosMosはプログラム六番なので、この控え室の中にいるのはほとんどが花吹雪のメンバーだった。女性よりは確実に少ないだろうが、やはり大御所コミュ花吹雪だけあって、男性のメンバーもたくさんいる。

 みんな談笑などはもってのほか、発声練習をしたり、ぶつぶつと台本を読み込んだりしていて、すごくぴりぴりした空間だった。

 肇は居心地の悪さを感じつつ、鏡の前に用意された椅子に腰掛けた。公演前に何か口に入れておけと母に言われ持たされたおにぎりを食べていると、天の助けがやってきた。

「肇、何で先行くん!? どこ行ったんか思たやん!」

 空気も読まず、枯れているくせに大きな声で肇の元へやってくるゆ太朗。花吹雪のメンバーと言えど、学園のヒエラルキーの頂点に属するゆ太朗には何も言えないらしい。迷惑そうな顔をしつつ、練習を続けていた。

「おっ、POP・Gの公演見れるんや! 見たかってん、これホンマ! 女の子オンリーのコミュやから、めっちゃ癒されんで!」

 ゆ太朗の辞書に緊張なんて文字はないのだろう。控え室に設置されたテレビを指さし、メンバーのプロフィールを事細かに説明してくれた。肇は全く聞いていなかったが。

 ゆ太朗がメンバーを全員説明し終わった辺りでちょうど、公演は幕を閉じた。一人涙を流しながら、パチパチと拍手をするゆ太朗。

「なんなん、可愛すぎやろ。最高やわ」

「あの低レベルなミュージカルに感動できるお前に驚きだわ」

「低レベルって、そこまで言わんでも……。でもまあ、可愛いだけじゃあかんねんな、RDPって。POP・Gの子ら、毎年一般票はめっちゃ多いけど、順位軒並み微妙やもんな」

「公演での評価点が一番重視されるからな」

 普段の人気が高くても、公演で良い演技が出来なければ意味がない。つまり顔が良かったり、友達が多かったとしても、ミュージカルが出来なければ、RDPで上位に入ることは不可能なのだ。しかしだからこそ、みいあは上位に入ることが出来ると肇は踏んでいる。

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