見つめられて
スズメとのお出掛けから数日経っていた。
縁はやっと自身の部屋を片付けきれたとこである。なんだかんだ幽荘に来た時からすぐに色々立て込んで部屋は放置のままであったのだ。
「な、なんとか形になった……」
これまでとこれからを片付いた部屋で思う。
この幽荘に来るまでは浪人として自宅ニート扱いであったが両親からの半ば強制の形で幽荘に派遣された。
話を聞かされた時は「俺、一応来年の受験目指してるんだけど」と訴えるも、何だか安い芝居のように「頑張ってね縁!」としか言われなかった。
今考えても両親の真意がわからない、何故ニートと言え大学を諦めてない息子を放り出したがったのか?
正直なところ両親との仲は良好だったと思う。
それが突然取り憑かれた様に「管理人をしてこい」となったのか。いつまでするのかも知らされずである。
元管理人とされる狐音は両親を知っているようだが、そこの関係もよくわからない。
これからを考えるなら、ある程度両親の思惑や幽荘の住人達の事を知り生活基盤を整えるのが良いだろう。
幸い生活費名目でお金は振り込まれているようだし、管理費は狐音が出してくれるので良いだろう。
勉強の時間を取りつつ管理人として立ち回るのが今後の動き方になるのか。
「とりあえず皆にまた聞かないとなぁ」
二〇一のネコメ、一〇二のヘビメは一度完遂したし他の二人、特に二〇三のユウメに関しては初日に会っただけで以降会えていない、隣に住んでるが気配も無い。
仕事と聞いてはいるが何の仕事なのか……
一〇三のスズメみたいに狩りとかして街に出るみたいな事なんだろうか。
「一度狐音さんに教えて貰った方が早いかもな……」
縁は身体を起き上がらせ、一〇一号室狐音宅へ向かった。
「なぬ?皆の事を知りたいじゃと?」
相変わらず午前中の防御力薄く際どい服で男への攻撃力が高い狐音があくびをしながら出てくる。
「はい、部屋も落ち着いたし来た時は便利屋みたいな動きしてましたけど、管理人として動くなら少しは皆を知った方が良いかなって思いまして」
「ふーむ、お主は真面目じゃのー」
ぽかんと言われても困るのだが……
「とりあえず狐音さんは両親とどんな繋がりがあるんですか?」
「む、隆二と里子のぅ……どこから話せば良いものか」
なんか深刻な話になる?長くなる?あまり聞いちゃダメなやつ?
「あやつらこの地域にあった村の出身だったんじゃよ、で駆け落ちして縁が産まれたんじゃな」
思ってたよりあっさりバッサリサラッと自分に辿り着いた!
「うぇ?駆け落ち!?」
「うむ、まあ今度会ったら聞いてみるがよいぞ」
「あんまり聞きたくない気も……」
「とりあえず今言えるのはここまでじゃな、儂今日はお出掛けするからまた今度の〜」
パタンと扉は閉まってしまった、いきなり両親の出身から駆け落ちから自分が産まれたまで聞いてしまうとは思わない。
また機会設けて聞いてみるしか無いだろう、一旦自室に戻ろうとした時だった。
(ん?)
何かに見つめられている様な気がした。確かここに来た始めの方にも似た事があったが……
奇妙な感覚に首を傾げながら自室へと戻る。
部屋の小さな机に向かい息を吐いた時だった。
カサッ
何かの気配を感じる、背後からだが……ゴキブリだったらどうしよう。
都会育ちの縁、対処は出来なくは無いが出来れば出会いたく無い奴ではある。
ゆっくり背後を見る為、動きに勘付かれないようゆっくり少しずつ振り返る。
壁の下範囲、畳との角辺りを目で追う。
すると、目が合った。
文字通りの「目」がこちらを凝視しており、それと目が合ったのである。
「うわぁぁおお!!!」
縁は人生トップクラスの叫び声を上げて腰を抜かし、意識が遠く離れていくのを感じたところで途切れてしまった。
「……ちゃん、お兄ちゃん」
「縁、しっかりしなさいよ!」
意識が戻りだし声が聞こえてくる……
完全に覚醒したと同時に二人の少女が見えてくる
「あれ……?ネコメちゃん、ヘビメさん……?」
「あんたどうしたのよ?凄い声が聞こえて来たのよ」
「様子見に来たらお兄ちゃん倒れてた……」
心配そうな二人の顔に申し訳なく思いつつ、ハッと壁を見る。
そこには何もないただの壁しか無く、確かに合った「目」は見当たらない。
「確かに合ったんだ……この辺りに人の目が……」
「目?どこによ?」
「お兄ちゃん大丈夫?」
ネコメとヘビメは縁が指し示した壁を見るもそこには何も無いのだ、当然の反応だろう。
「全く、幻覚キノコでも食べたんじゃないの」
「お兄ちゃん疲れてるんだよ、何かあったら言ってね」
二人は大丈夫だろうと判断して帰っていく、少し情けない自分に泣きそうだ。
(確かに目が合ったんだ……確かに)
何かの見間違えと言うには違和感がありすぎる。
思えば引っ越して来た初日から感じている違和感、何かに見られている気配。
霊的なアレなのか?山がすぐそこのポツンとあるボロアパートだ、正直信じてしまいたくなるロケーションではある。そしてこの経験をしてしまうと次に来るのは疑心暗鬼なのだ。僅かな風の音、壁のシミ、暗がり、全てが怖く感じてしまう。原因が判ればまだ気持ちが切り替わるが、今の所自分が勝手に倒れただけと判断されてる現状。詰んでいる。
(ちくしょう、これは数日引きずる……どころかまた見ようもんならどうしよう?ここに住める気がしないぞ)
縁は頭を抱えている。
その時、ドアノックの音がしてビビり倒す。
「は、はい……」
「うふふ、管理人さーんただいま〜」
この声は……しばらく聞いてない声だが、まさか。
ドアを開けた先に居たのは初日に見たモデルさんかと思う程のオーラを放つ美人、ユウメだった。
「ユウメさん!」
「今ヘビメちゃんから聞いたけど叫び声上げて倒れてたって?大丈夫かしら?」
「いや、大丈夫じゃないです……」
「狐音姐さんは外出だし、私が良い物持って来ましたわよ〜」
そう言ってユウメは掌に収まる大きさの陶器で出来た何かを渡してきた。
「……これなんですか?」
「うふふ、それはねお香壺」
お香壺?あのお香を炊くやつか?
「まずは荒れた気持ちを沈めてからですわよ、中に色々あるけど火事には気を付けてね〜」
ヒラヒラと手を振って笑顔で自分の部屋に帰って行ってしまった。
お香なんて女性は使うかもだが男にはあまり縁のない……でも気遣ってくれた物だし炊いてみるかとセットする。
お香の素があり、どうやら受け皿の上で火を付ければ良さそうだ。
縁は早速火を付けぼんやり眺めた、次第に花の香りを更に濃くしたよな良い香りと薄い煙が部屋に漂っていく。
(あ、なんだろ落ち着く)
ふわっとした感覚に包まれていくのがわかる、お香って凄い。
どんどん眠くなってくる……抗えない……
縁はそのまま深い眠りに着いていた。
……遠くで話し声が聞こえる気がする。
(まった…ぬしのわる…じゃ…)
(…なさい〜…だんしちゃ…つけるわ)
聞いた声が話し合ってるけど睡魔に抗えず奥深くまで潜っていく……
意識がはっきりした時には夕方だった、驚くほど頭が冴えてるし不安な心が晴れている。お香の残り香はまだあるがお香自体は燃え尽きてるようだ。
「お、起きたかの」
パッと見れば狐音が横に居た。
「全く、儂が出た後に騒ぎになりよって」
「すいません、あんまりにも驚きすぎて……」
「まあ仕方あるまい、鎮静香をユウメから貰ったんじゃろ?」
鎮静香って言うのか、確かに落ち着いたし元気出て来た。
「管理人さーんおはようございますですわ〜よく眠れた様でなによりです」
「あ、ユウメさんお香ありがとうございます」
「いえいえつみほろぼし……もとい管理人さんに何かあったら大変でございますので」
何か言い掛けた?つみほろぼし?
「ほれほれ、お主管理人業務について知りたいんじゃろ?うってつけのもんがあったわい」
強引に割り込んだ狐音から渡されたのは、デッキブラシであった
「今回は儂も管理人としてみせてやるから付いてこい!」
無理矢理引っ張られていく……ユウメは笑顔で優雅に手を振っている、その姿も絵になる。
狐音に連れて来られたのは温泉だった。
温泉にデッキブラシ、もう予想は付いている。
「皆までは言わんぞ、ほれ湯はここで止めて抜くのはこの板止めじゃ」
ドバァっと勢いよく湯が抜けて行き底が見えだす、要はここを擦るのだろう。
「お主にはこれを毎日やってもらいたいのじゃ」
「毎日?結構大変だな……」
「うむ、ここ最近皆忙しく不定期じゃったからの〜お主の日課の仕事で管理人らしいじゃろ?」
確かに仕事ではある……が、これって温泉管理人なのでは?
「勿論他もあるじゃろうし、お主が出来ん時は皆に協力してもらうからの安心せい」
「はあ、まあとりあえず頑張ります!」
「うむ、良い返事じゃ終わったら一緒に入るかの?」
「……いや、それはマズイです」
「お主は本当に硬派じゃのー」
無駄口を叩きながら掃除を済ませて、温泉の装置に付いてレクチャーを受けた。
「掃除時間は任せるし必要な物あれば遠慮なく言うんじゃぞ?」
縁は必要な物と聞いて、自分の中にあった計画を話してみた。
「あの狐音さん、やっぱ脱衣所とかが要ると思うんですけど業者依頼とかは出来ないんですかね?」
軽く聞いてみたが狐音の反応はよろしく無い。
「うーむ、業者のう……」
「あ、やっぱり予算の関係とかですかね?」
「いや、金は問題無いのじゃが……一言で言えば資格があるかじゃよ」
資格?業者だから資格はあるのでは?
「お主の思ってる作業の資格じゃのうて、受け入れられる資格なんじゃよ……まあおいおい話してやるわい」
どういう事かわからないけど普通に依頼するだけではダメと言う事か。
とりあえず清掃管理で温泉とアパートの維持からスタートだな。
「湯が溜まるまで時間かかりそうじゃし儂は部屋に戻るぞよ、いつもぐらいに溜まったら板止め調整して湯を弱めてくれい」
「あ、わかりました見ときます」
不思議な体験から持ち直し、やっと管理人らしい事が出来た気がする。
あの目はなんだったのか、心が落ち着きやる事が定まって少しずつ忘れつつあった。




