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幽荘物語  作者: かずや


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鎮魂祭


 朝日が差して縁は目覚めた。

 鎮魂祭当日だ。

 縁は狐子、タカ、リュウメの三人を送迎する役目であり朝一で動き回る手筈だ。

 昨日急遽一泊になった幽荘に来る資(・)格(・)が(・)あ(・)っ(・)た(・)トラメを起こさないように起き上がり身支度をする。

 幽荘の皆には朝トラメを起こさないよう出るのは伝えてあるのでゆっくり静かに家を出た。

 幽荘は山の中である、朝日と共に非常に澄み切った空気が毎朝気持ち良い。

 二階の自室側から見ると鎮魂祭の準備で様変わりしたアパートの正面が、神聖な空気を強めている。

 縁は今日の為に入れ替えているユウメの車に向かい人影に気付く。

「おはようさん、縁よ」

 狐音が車の側で立っていた、まだ日が登りだしたばかりと言うのにどうしたのだろう。

「おはようございます、狐音さん。どうしてここに?」

「何、見送りじゃよ。今日は頼んだぞ」

「はい、安全運転で送迎します」

「うむ、何年振りかフル体制で行える鎮魂祭に昂ったかのう」

「狐音さんでもそんな事あるんですね……」

 いつも飄々とし堂々としてもいる狐音らしからぬテンションの上がり方だ。

「お主は儂をなんだと思っとるんじゃ、まだまだ乙女じゃよ」

 その言葉に二人で笑い合う。

「お主には今日全てが終わったら話をせんとな、まあそれまでは鎮魂祭を感じてくれい」

 少し幽荘の謎がわかるのかな?と縁は期待をする。

 ただ、今の関係が変わるなら聞かなくとも良いとも思っていた。

「とりあえず、行ってきますね」

「うむ、よろしく頼むぞ」

 縁は車に乗り込みエンジンを掛け動き出して行った……

 まずは山を越え街に出て一番遠いタカの銃砲店だ。

 街と言えど山一つ挟んだ位置関係なので、うっすら田舎感はある。そんな街のまだ朝日が出始めの時だから道も空いている。

 今乗っている車はユウメの高級スポーツカーだ、開けた道で走るのは縁だけなのでスピードを出したくなる衝動がある。

「ま、これから人乗せるんだしやらないけど」

 昔からやんちゃと言う言葉とは縁が無かった縁だ、割と親が礼儀作法や口調動作に厳しかった気がする。

 そのおかげで大人びたように見られて頼られたり、そのせいで女性免疫は薄いとも言える。

 そんな縁が今や美女に囲まれ半共同生活など半年前には考えもしてなかった。

 浪人のまま二十歳になりニート扱いを家から追い出す、両親は幽荘を指定して管理人名目で送り込まれたのだ。

 目まぐるしい数ヶ月だった、だが今は来て良かったと思えてる。浪人になって気が落ち込んでいたし空回りもしていた。

 ガラッと生活が変わったのが良かったのだろう。

「これを見越してだったら……まあ両親にも感謝だな」

 独り運転中だからこそ呟けた。

 幽荘のある山から街を通りまた別の山の麓へ

 年季の入った家屋がまばらにあり、その内の一軒が今日最初の目的地。

 スズメの狩りの師匠、タカの家に辿り着く。

 コンコン

「タカさん、お迎えに参りました」

 少し待つと扉がガタガタと開いて老婆が顔を見せた。

「しばらくだね縁、今日は宜しく頼むよ」

 上品な着物を着て準備は出来ているようだ、早速車へ案内する。

「おやまあ、随分イカした車だね。アンタ前軽トラじゃ無かったかい?」

「今日は後二人、帰りはタカさん含めて四人乗せますからね。ユウメさんの車でお迎えです」

「ほっほ、久しぶりに賑やかな日になりそうじゃないかい」

 タカを乗せ、次の目的地はリュウメが院長務める幽導孤児院だ。

 道中タカから近況を聞かれる

「温泉を改修したのかい、まあアンタが入居するなら必要だね。あれ自体は古くはないが男がずっと居なかったからねぇ」

「タカさんが幽荘に居たのって何年前なんですか?」

「そうさねぇ……もうはっきりとは忘れてしまったが五十、六十年くらい前かね」

「……あの、その時も狐音さんやユウメさん居たんですよね?」

「アンタに取ったらおかしな話だろう?言いたい事はわかるが今日が終われば明らかになるさ、今は鎮魂祭に集中するよ」

「……はい」

 幽荘の住人と関係する人々が繋がると、明らかに年齢と見た目が合わないのだ。縁はずっと引っ掛かるモノを感じていた、今日全てが明らかにされるのだろうか。

 そうこうする内に幽導孤児院が見えてきた、お盆ではあるがここはいつもと変わらない空間を保つ。

「リュウメさん呼んできますね」

 タカに告げ待機してもらう。

 ピンポン

 孤児院のインターホンを鳴らせばリュウメがすぐ出てきた。

「紬君、今日はありがとうね。久しぶりに参加できるよ。トラメは良い子にしてたかい?」

「よろしくお願いします、トラメ君今も手伝いで頑張ってますよ」

「良かった……さっ行きましょうか。皆お留守番宜しくね〜!」

 孤児院の皆に挨拶をしてリュウメも車に乗る。

「タカさんー!お久しぶりですー!」

「久しいのリュウメや、孤児院は上手くやれているのか?」

「精一杯頑張ってるわよ!鎮魂祭も何十年ぶりか、孤児院の皆で精霊柱も沢山作ったからね!」

「本当に沢山でしたね……」

 組み立てて設置した精霊柱の数は二百余り、縁は初めての参加だが多さは身を以って知る。

「ほっほっほ、精霊柱も復活か。今回はより気合い入れなきゃだねぇ」

「ええ、タカさんが前回やったっきりじゃない?私も気合い入れなきゃ!」

 タカとリュウメも既にやる気が漲っている、数十年参加出来なかった事は気に掛かる事だったんだろう。

 二人を乗せて最後の目的地、狐火酒造へと向かった。

「お二人は同時期に幽荘に居たって事ですよね?」

「そうよ、タカさんは今ならスズメちゃんのポジションで狩りして食事作ってくれたり助けられたわね〜」

「アタシは狩りしか知らなかったからねぇ、アンタらが食べてくれたから出来た事だよ」

 当時の幽荘も人は違えど雰囲気は変わらなかったんだろうなと、縁は思いそして少し聞いてみた。

「……僕の両親はどんな立ち位置だったんですか?幽荘の住人では無かったんですよね?」

「ふむそうじゃの、隆二と里子は幽荘の近くの家に住んでいて遊びに来ていた二人じゃな」

「私と紬君両親、それにジャノメ君の四人が集まって遊ぶ毎日だったわね。まだ村の形……まあ村の後期になるから遊べる子供同士は貴重だったのよ」

「幽荘が丁度中間だったからの、悪ガキの溜まり場じゃ」

 子供時代の両親が想像つかないが、懐かしげに話すタカとリュウメから良い時間を過ごしたのだろうと推測する。

「あ、見えてきたね……おーい狐子ちゃん〜」

 狐火酒造が見え店前に立つお姉さんが手を振る。

「やあやあおはよう、タカ婆にリュウメ久しぶりやね〜」

「アンタも変わんないねぇ、酒屋は順調かい?」

「えへへ、なんとか地元の酒屋としてやらせてもらってるよ」

「狐子ちゃんと狐音さんが揃って鎮魂祭は初めてじゃない?」

「あ、リュウメは知らないか〜じゃあタカ婆しか見た事ないよね?」

「ふむ、そうだったかの。久しぶりじゃがお主ら出来るのかえ?アタシはもう主陣は身体が持たんぞい」

「なんだかんだ狐音がちゃんとしよるよ、ああ見えて一番力あるからね」

「狐音さんなら大丈夫、ずっと見守ってきてるから」

「あの子は幽荘で見てきた存在だからね、アタシらでしっかりサポートしてやろうじゃないか」

 女性陣からの信頼が厚い狐音を垣間見る縁、やはり狐音が頭一つ抜けた存在を感じられる。

 彼女は何か説明しにくい不思議な力を持っている、薄々感じてはいるが今日それが見れるかもしれない。

 皆を乗せた車は幽荘まで後少しの所まで来ていた。


「お!相変わらずボロっちいなー!」

「ふむ、用意は進んどるの」

「トラメ……あ、居た!」

 三者三様の幽荘への感想を受けながら車を停める、三箇所周り約二時間。

 まあ予想通りな時間だと縁は胸を撫で下ろす。

「狐子ちゃーん、タカさーん、リュウメさーん」

 こちらの車に気付いたユウメが走ってくる。

「管理人さんお疲れ様ですわ〜タカさん久しぶりですの〜」

「ユウメは変わんないねぇ、あの頃のままじゃないか」

「うふふ、こればかりは仕方ありませんわ」

 (何の会話だ?)

 縁はよくわからない会話をしている二人を見て思い出す。

「あ、スズメさんにタカさん連れて来て欲しいって言われてました。奉納料理をと言ってましたが」

「ああ、早速やろうかね。どこでやるんだい?」

「調理場です、案内します」

「あの建物か……ええ所出来とるじゃないか」

 縁はタカを連れて調理場へと案内していった。

「さて、お二人も着替えときますか〜温泉の脱衣所に用意してますので〜」

「お、噂の新しい温泉やんね?見たい見たい」

「楽しみだね、その前にトラちゃんに会っておきたいんだけど」

「そうですわね、えーと……あ、トラちゃん〜」

 遠くで準備確認していたトラメが気付き走り寄ってきた。

「院長!俺手伝いしてるよ!」

「よくやれてるみたいだね、良かった良かった」

 リュウメはトラメの頭を撫でる、そしてトラメは撫でられながら狐子を見ている。

「……狐音お姉ちゃん?……じゃないよね?」

「お、坊主がトラメか!アタシは狐子な、狐音お姉ちゃんの妹だよ」

「おんなじ顔してる」

「双子だからねアッハッハ!今日は宜しくな!」

「うん!俺トラメ!宜しく!」

 元気良く挨拶したところでユウメが二人を連れて脱衣所に向かう。

「トラちゃん、ジャノメさんに三人来たよって伝えてくれますかしら」

「うん、わかった!」

 幽荘外の三人が合流して各々準備に入った。


 縁は調理場をスズメとタカに任せて手持ち無沙汰になった、何か出来る事は無いかと幽荘前の祭事広場に差し掛かった時陣幕の中央で立つ狐音に魅入った。

 既に儀装を纏っている為か、非常に神聖なオーラが溢れて見える。触れてはいけない壊れそうな美術品のようにも見える。

「すっげ……」

 見惚れているとこにドンと背中に衝撃が走る。

「にいちゃん、今はそっとしとくんだ」

 衝撃と声の主はヘビメの父、ジャノメであった。

「あ、ジャノメさん……」

「狐音さんは集中してるからな、ほれトラメと一緒に焚き上げ台組むぞ」

「はい、どこに組みます?」

「ちょっと精霊柱の数が多いからな、火事にならんよう離して作ってる」

 ジャノメが指した先、遠くにトラメが木を組んでるのが見えた。

「サクッと壁を作るからにいちゃんも手伝いな」

「了解です」

 ジャノメに肩を組まれ移動する、移動しながらもう一度狐音を見たが変わらず神聖なオーラのままだ。狐音はこちらに気付かない程集中していた。


 ——調理場

「見ない内に解体上手くなったじゃないか」

「うふふ、タカさんのおかげですよ」

 調理場のスズメがよく使う動物の解体スペースでは鹿の解体が行われていた。

「しかしまあこんな調理場が出来てたなんてね、あたしゃもう過去の人間さ」

「何言ってるんですか〜タカさんが繋いでくれたからここがあるんですよ」

「外に出て時間が進むとあっという間さ、アタシが知る住人もアンタと狐音とユウメだろ?後で若いの紹介しとくれ」

「ええもちろん」


 ——脱衣所

「あらあらネコメちゃんヘビメちゃん似合うわね!」

「うんうん、若い子が儀装着ると華がでるね」

 リュウメと狐子にべた褒めされて照れるネコメと満更でもないヘビメ。

「狐子さんもリュウメさんもお似合いですわよ〜久しぶりとは思えないです〜」

「いやぁ私は体型変わって苦しいわよ!狐子さんは本当変わらないわねぇ」

「久しぶりに引っ張ってきたけど着れて良かったー!どこやったか酒蔵ひっくり返した甲斐があったよ」

 脱衣所に居る女性陣は皆儀装を纏い話に花咲かせている。

「お待たせしました〜」

「待たせたね、おや皆よく着こなしてるじゃないか」

 スズメとタカも準備を終えて儀装の用意をしに来た。

「アタシらの準備が出来れば始めれるが狐音はどうしたんだい?」

 タカはこの場に居ない狐音を探す。

「狐音さんは精神集中してるの」

 ネコメは恐る恐る説明をする。

「そうか……ところでアンタがネコメだね?そっちの鋭いのがヘビメか」

「え?」

「……!?」

 二人はまだ自己紹介をしてないのに言い当てられた事に驚く。

「ほっほっ老いてもまだ視れるようだ、アタシは初代管理人さ、タカと呼んどくれれば良い」

「初代管理人……?縁の前?狐音じゃなく?」

 ヘビメが困惑しながら聞いてみる。

「そうじゃの、どちらかというと狐音は管理人じゃなく補助する側だからの。勘違いしてても無理はない、元々管理人は外部の人間がやるんじゃよ」

「知らなかった……」

「お兄ちゃんがくる前は居ないままだったの?」

「そうですわね、タカさんが出てからは代理で狐音姐さんがやっていたのですわよ」

 ネコメの疑問にユウメが答える。

「狐音はああ見えて責任感が強いからなー、妹の私にも酒を持ってこいしか言わず滅多に幽荘離れないから」

「狐音さんは昔から多くを見守る存在、私やジャノメに紬君の両親含めて幽導村全体見て来たのよ」

 ネコメとヘビメにとって幽荘の先輩達の言葉はよく理解出来た、自分達も見守られてきたのだから。

「……よいしょ!タカさん帯紐キツくないですか?」

「ありがとうスズメや、大丈夫じゃよ」

「これで皆準備……あら?そう言えば男性陣はどうなったのでしょう?」


 ——炊き上げ台設置所

 ガコン!

「よし!そのままそのまま!あと一本だよ!」

 縁とジャノメが大の男二人でキツめの丸太を、トラメの指示で組み上げていた。

 ガコン!

「よっしゃ!にいちゃん!坊主!よくやった!」

「ふーっ……大変だった……」

「縁兄ちゃん大丈夫か?」

「後は火の粉散らないように壁建てりゃ完成だ」

 必要資材はあらかじめジャノメが用意してくれていたが、ここまで力仕事になるとは予想外な縁であった。

「おう坊主!ここに穴掘れ」

「俺坊主じゃないよ!トラメだよ!」

「ガハハ!そうだったな!トラメ穴掘れ」

 なんだかんだで仲良くなってる二人にホッとした縁の視界に、儀装の女性陣が目に入る。

 皆美しく清らかな塊に見える、ここに今は祭事広場の陣幕に居る狐音を入れて総勢八名。圧巻だ。

「おぉ……お姉ちゃん達綺麗だ」

「うむ、ヘビメよ綺麗になってうぅぅ……」

「皆さん、もう始まる感じですか?」

「後少しですわね、狐音姐さんが祈りを……」

 ユウメは言い終わらない内に陣幕を向いた。

「終わったようですわね、行きましょう」

 その一言で皆が祭事の陣幕に向かいだす。

 到着した時、幕で見えなかった狐音が見えて縁は目を見開いた。

 さっき通った時よりも神聖なオーラが溢れてる、うっすらと狐音が発光してるんじゃないかと思えるくらい綺麗で清い。

 呼吸も忘れて縁はただ狐音に魅入る、普段見てる姿とは明らかに違うのだ。

「……綺麗だ」

 縁が呟いたと同時に女性陣は狐音を囲むように配置に着いた。

 目を閉じ伏せていた顔を上げ狐音は宣言した。

「これより鎮魂の儀を始める」


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