鎮魂祭と狐音の尻尾
鎮魂祭が始まる。
静かに他の女性陣が円になる、中央は狐音だ。
縁、ジャノメ、トラメの男性陣は少し下がり幕の外から儀を見守る。
言葉を出すのが憚られる空気の中で狐音は目を閉じて、何か祈りの言葉を呟く。
合わせて周りを囲む女性陣も頭を下げて型を取る。
発光していたように見えた狐音の身体から伝染するかのように、円を作る女性陣へと伝わるのが見えてくる。
(本当に光ってる……?)
光が狐音から女性陣へ、そして足元の立っている地面に伝わっていく。神聖な儀である事はもう理解していたつもりだが、ここまで見ると考え及ばない不思議な力はあるのだと理解させられる。
狐音の呟きが止み、ゆっくりと何かに礼をする。そこに何かがあるような、何かが居るような……。
内向きだった女性陣も外向きに変わり、同じく礼をする。
(あはは)
ふと子供が笑ったような声が聞こえてトラメを見た、しかしトラメもこちらを同じ顔で見てくる。
どうやら二人共聞こえたのだろう、ジャノメは頭を垂れて胸に手を当て祈っている。
ジャノメに倣い縁とトラメも同じ姿勢を取った。
長くは無かったが濃い時間を過ごした気がする、狐音が円の中央から外れて一人一人撫でる仕草をしていく。
女性陣が一周すると円から抜けて男性陣の方へ。
トラメ、ジャノメ、そして縁……
最接近した狐音は何か焦点が合わないような印象で、神聖なオーラをこちらに渡すような動作を見せて女性陣の円に戻って行った。
「以上で鎮魂の儀を完了とする……」
最後に美しい動作で一礼をした狐音に釘付けとなった、そして縁には揺れた物が気に掛かった。
(髪……じゃない、腰から……尻尾?)
以前にも気になった事はあったが、この場で付けるアクセサリーでは無い気がした。
「縁の兄ちゃん、終わったよ?」
トラメに手を引かれ我に返った。
「あ、ああ……何か凄かったな」
「うん、お姉ちゃん達神様みたいだった」
「ふっ、神様か!トラメ良い事言うじゃねぇか」
男性陣達がそれぞれ話し合っていると狐音から指示が飛ぶ。
「ほれほれ、皆で精霊柱に火を灯すぞ〜お主らも焚き上げ台完成させとくれ」
最後の火の粉防ぐ壁建てがまだであった、急げ急げと男達は走っていく……狐音に見えた尾はもう無かった。
(見間違い……には思えない)
縁は不思議な感覚に包まれたままだった。
ジャノメを筆頭に縁とトラメで焚き上げ台壁はすぐ完成した、後は皆が精霊柱の蝋燭に火を灯していくのを手伝うだけた。
「お兄ちゃんどうだった?」
やり遂げた感のある顔でネコメから感想を求められる。
「ネコメちゃん、すっごい綺麗だったよ」
「えへへ、嬉しい」
女性陣の中では最年少のネコメ、やはり緊張があったのだろう。無事終わって力が抜けてる。
「これで皆喜んでくれるかな?」
「ああ、今までの子供達が見ても感動したさ」
「そうだと良いな!私あっちも灯してくるね」
パタパタと走り行った側で、ヘビメとジャノメがやり取りをしている。
「ヘビメぇぇお前綺麗になったなぁ!パパ嬉しいぞ〜!」
「やめて、恥ずかしい」
「ジャノメ君、本当親バカになったわねぇ……」
リュウメが呆れて見ている。
「お二人はウチの両親と幼馴染?なんですよね?」
「おう!隆二と里子にリュウメしか居なくてな」
「何よその言い方……と言っても本当なんだけどね」
「ふーん、パパ達はここで何して遊んだの?その頃にはまだ何かあったの?」
「なーんにも無かったぞ」
「そうね、何も無かったわよ」
両親達も認める田舎度合いかと縁は笑う。
「下手したら今の方が充実してんじゃねぇか?ネットもあるわ調理場もあるわ温泉だって設備増えたしよ」
「時代の流れね〜私も孤児院院長やってるけど便利な物増えてるもの」
「パパ、アタシもデジタル化したいペンタブ欲しい」
「ペンタブ?なんだそりゃ?なんかわからんが欲しいなら買ってやるぞ!」
「ジャノメ君はね……昔、子供は厳しく育てなきゃ!って言ってたんだけどねぇ……今は私が厳しくなっちゃったわ」
「そ、そうなんですか……」
子を持つと変わる良い例?なのだろうか、孤児院で大勢の子を相手にするリュウメからしたら甘々な父親なんだろう。
昔話に花を咲かすジャノメとリュウメ、それを興味深く聞いているヘビメを置いて縁は移動した。
せっせと青空ビュッフェを用意するスズメとタカが見え手伝いに入ろうと縁は声を掛ける。
「おや、それじゃあんたも出来た物持って行って貰おうかね」
タカがポンと手渡して来たのは大皿に盛られたゼンマイの煮物だ。
縁は幽荘に来るまでは山菜を食べる経験が無かったのだが、スズメが振る舞う料理に沢山使われているので好物にすらなっている。
「おお、ゼンマイだ美味そう」
「なんだいあんた、若いのに変わっとるね」
やはりイメージ的には少し違うイメージを持たれているようだ。
「いやぁ、スズメさんが料理上手くて山菜の美味しさに目覚めまして」
「あらあら嬉しい事を」
出来た料理を運ぶスズメが言う。
「今日のは更に美味しいですよ〜私の師匠が作ったのですから」
「誰が作っても一緒じゃろうに、ほれ二人で運べアタシはもう歳なんだから動きたくないよ」
タカはそう言って調理場に入ってしまった。
「タカさんご機嫌ですね〜久しぶりに幽荘で皆と一緒ですもの」
「あれでご機嫌なんですか……?」
「タカさん意外と照れ屋さんなんです〜」
それは意外だなと縁は笑った。
「スズメさんの料理もタカさんから来てるんですよね?」
「ええ、私ここ幽荘に来た時は本当に何も出来なくてのんびりしすぎ!ってタカさんが色々教えてくれたのです。おかげで少し出来るようになりましたが……やっぱりお料理敵いませんね〜」
確かにスズメはのんびり気質なタイプだが、特別何かが出来ない風には見えない。むしろ出来ない事は何なのか知りたいぐらいである。
「ほら縁や、もうすぐ料理は全て仕上がるから皆に声掛けといで」
「うふふお願いしますね、縁さん」
縁は皆に料理が出来る事を伝えに調理場を出る。
(あれ?そういえば狐音姉妹とユウメさんどこ行った?)
全体を見てもさっき話た面々しかおらず、姿が見えない。
(部屋に居るのかな?)
コンコン
狐音の部屋をノックしたが気配が無い、ユウメの部屋かと階段を登ろうとした時だった。
「張り切りすぎ……すか」
「全く……としして、もう」
温泉の方からユウメと狐子の声がする。
(温泉に行ったのか?)
そろそろと縁は温泉に向かおうとした時、三人が飲み物を抱えていた所に鉢合わせた。
「うわぁ!」
「おわぁ!なんじゃお主!」
「びっくりした……いえ姿見えなかったので探してたんですよ」
「あらあら心配お掛けしましたわね、お酒とジュースを運んでいたのですわよ」
ユウメが大きな瓶を上げ微笑む、気のせいか顔が赤い。
(いや、気のせいなのか?この三人だぞ?)
「ありがとうございます、美味しかったですか?」
「それはもう儀式終わりの一杯が……あ」
「ユウメちゃん〜黙っとかんと」
「縁も鋭くなりよったの」
やはり先に呑んでいたようだ、全くと肩を落として縁は言う。
「ほらほら、料理が出来たので集合ですよ」
「わーいタカ婆の料理なんて何年ぶりだろ?アタシの蔵から秘蔵の一本も持って来たからね」
「狐子ちゃんは良いですわよね〜毎日呑めるんでしょ」
「いやいや、仕事だから呑めないよ!ユウメちゃんの方こそ狐音と毎日呑んでんだろ?」
「あれ?そういえばそんな気がしますわね?」
狐子とユウメは酒談義をしながら料理の下へと向かって行った。
「ん?どうしました?」
狐音が微笑みながら立ち止まっている。儀式の時にあったオーラは無くなり、普段の狐音だ。
「縁や、ありがとうの」
いきなりのお礼に縁は戸惑う。
「ど、どうしたんですか?」
「なんでもないわい、さあ食べよう食べよう」
微笑んだまま狐音は少し歩き出して振り向いた。
「今日を終えたら少し話をしようの」
今朝にも言われたが、余程話したい事があるのか。
今は考えず縁も料理の場へ歩いていった……
タカとスズメが作った料理は多種多様で、若干祭事寄りのメニューであったが堪能した。
「さすがスズメさんの師匠、美味い……」
縁はタカの作ったと言う、山菜の天ぷらを煮浸しにした一品に舌鼓を打つ。
「ほっほ、狩りは出来んようになった分料理は負けんよ」
「この味……まだまだ追いつけませんね」
スズメが少し悔しそうにしている、料理にこだわる姿勢はタカの背中を追いかけているのからかも知れない。
「美味しいね」
「うん!すっごい美味しい!」
「あらあらトラちゃん野菜は苦手なはずなのにねぇ?」
「だって美味しいもん!」
「トラメ君好き嫌いしちゃダメだよ」
ネコメとトラメを見守るリュウメの顔が優しい。
「ネコメちゃんも元気そうで良かったわ、トラちゃんと仲良くしてくれてありがとうね」
「リュウメ院長も孤児院の皆も元気?」
「元気元気!ね?トラちゃん?」
「皆で遊んでるよ!」
幽導孤児院出身のネコメからすれば、慕う院長と後輩達だ。
口数少ない大人しいネコメが今日は少しお喋りになっている。
「パパ、勝てないから辞めときなさい」
「ジャノメ次コレにしようやー」
こっちはこっちで狐子とジャノメの飲み比べ対決が始まっている……
「全く、パパお酒強い方だけど狐子に勝てる訳無いじゃない」
ヘビメはもう知らんと言った顔で料理を食べ始めた。
「あれ?ジャノメさん……車じゃないの?」
狐子は縁が送るがジャノメは自分で来ている、めちゃくちゃに呑んでるがどうするつもりなんだと不安なところでヘビメが言う。
「寮の職人呼んでるから大丈夫よ、今お盆よ?本当人使い荒いわ」
呆れ返って物も言えないヘビメは小さく溜息を吐いた。
「職人さん寮住まいなんだ」
「パパが持つ職人寮よ、幽荘みたいなもんね」
初耳だった、寮まで管理しているとは人は見かけによらない。
「孤児院からの受け入れもしてるのよ、どちらかと言うとそこがメインね。リュウメ院長と連携取って独り立ちしたいけど、行く当ての無い成人になってしまった子を仕事と寮で迎えてるのよ。」
(そんな仕組みを作っていたのか……)
娘のヘビメにデロ甘だが、凄腕職人を束ねる親方としてプロの姿も見せるジャノメ。やはり幽導村に生まれ考えるモノがあるのだろうか。
「うぅ……」
「あ、負けたわ。だから言ったのに」
やれやれと水を持ちジャノメに渡すヘビメ、ツンツンしてても父が好きなんだろうと感じられる。
「今度はおにーさんが相手になるかい?」
「いや、絶対無理です」
勝者の狐子にターゲットにされる、自分のだけ水じゃないのかと疑うレベルで顔色が変わらない。
陽気に騒ぐ所作や口調、双子と言えど狐音と少し違う。しかし、顔立ちは本当にそっくりで髪型を合わせて黙れば全く分からないだろう。
「ん?なんやジーッと見つめて?」
「あ、いや狐音さんと本当そっくりだなって」
「まあ顔は似てるが中身は別モンよ!あんな儀式の長なんか出来ん出来ん!」
「何か凄かったですもんね、狐音さんが光るような……」
「光ったように見えたんか?」
「え?はい、その後皆に分けるように……そう見えましたね」
「ほーう……なるほど、おにーさん良い眼を持ってるよ」
良い眼とは?何か含みのあるまま酒瓶片手に行ってしまった……
鎮魂祭の会場全体を見るとお酒を飲めない、または制限出来る組は非常に落ち着いて楽しむ様子だ。
対してお酒組はまあまあ出来上がっている、そんなお酒組が狐音に集まりだしている。お酒の制限が出来る大人も行っているし、子供組はユウメからジュースを渡されている。
狐音と目が合い手招きされる、他の皆は注がれた飲み物を持ったまま最後の縁を待つ。
「今日の鎮魂の儀で捧げた御神酒じゃ、合図で一口付けい。この後車じゃからのフリで良い」
狐音が説明してくれる、と言う事は終わりが近いと言う事だ。
「皆、御神酒は持ったかの?」
静かに皆掲げる。
「では……この地に眠る魂に慰霊を」
そう言って狐子はお猪口の御神酒を飲み干す、繋ぐように各々同じ事をしていく。
縁は飲む振りだけだが唇に触れた酒の香りが良い、お香のような安堵感がある。
皆最後にそれぞれの想いを静かに馳せている、さっきまでの盛り上がりが嘘みたいに静かだ。
風の音だけが聞こえる、顔を上げると皆スッキリした顔や泣いている者等様々伺える。
「皆、ありがとうの。これにて鎮魂祭は終了じゃ」
各所に設置した精霊柱が消えていく、中の蝋燭が尽きたのか訪れていた精霊が去ったのか。
祭りは終わりを迎えた。
「縁よ、皆を頼むぞ」
「はい!」
この後は精霊柱のお焚き上げがあるのだが、送迎者が居る縁は一足早く出る事に。
「俺、また来る!」
「トラちゃん……皆ありがとうね!」
トラメとリュウメは車内から大きく手を振る。
「んじゃ皆姉貴をよろしくな!酒造にも来なよ〜」
狐子は浴びる程飲んだのにいつも通りで怖い。
「ほれ、スズメ。しばらく会わんじゃろうて弾渡しとくぞ」
猟銃の弾を渡しスズメ達幽荘のメンバーと挨拶していくタカ。
皆が車に乗り込んで準備が出来た、出発時のバックミラーには残る皆が揃って手を振ってくれていた。
山を越えまず近い狐火酒造へ狐子を送る。
車内は子供のトラメを中心にお話が盛り上がる、彼にとっては初めての一泊に鎮魂祭と大人に囲まれた一日で刺激的だったのだろう。
行きは長く感じても帰りは短いもの。
時間は変わらないのに体感短く狐火酒造に到着した。
「ん〜!鎮魂祭良かったわ〜トラメ君!リュウメ!タカ婆!気を付けてな!おにーさん頼んだよ!」
明るく皆に声を掛けて大きく手を振り見送ってくれる狐子、彼女に会釈して車を出す。
「狐子お姉ちゃんは狐音お姉ちゃんと双子って言ってたけど似てないね」
トラメが道中呟く。
「顔は似てるよ」
「うん、でも違う気がするの。狐音お姉ちゃんを助けようとしてるの」
子供とはよく見てるものだ、リュウメとタカも柔らかい眼差しでトラメを見守っている。
幽導孤児院に着く、少し不満そうだがトラメは文句は言わず自ら車を降りた。
「縁のにーちゃんありがとうな!またここにも来てよ!」
「紬君、タカさんありがとう。長年行きたくても行けなかった夢が叶ったわ」
「アタシもだよ、リュウメ。何かあったら幽荘とアタシを頼りなさい」
いつまでも見えなくなるまで手を振るトラメ、少し大人になったように見えた。
「縁や、そろそろ聞けるだろうね」
「……今日帰ったら狐音さんが話したいって言いました」
「おや、認められたね」
認められたと言うのは人としてなのか、それとも資格的になのか。
「アンタが引っ掛かる事はわかるよ、アタシもだったからね」
「タカさんが初代管理人だと聞きました、僕も薄々は気付いてます。一般的な管理人じゃないのでしょう?」
縁は引っ掛かる事を口に出してみた、整理の為でもある。
「幽荘は何らかの資格が無ければ辿り着けない、そしてそれは幽導村の歴史に関わる上で出来たルールじゃ無いかって」
タカは静かに聞いている
「あそこは良い場所です、だからこそ入りたくなる。そうなれば壊れる。」
「ほっほ、そこまで辿り着いておったか。確かに狐子の言う通り良い眼、そして意識を保っとる」
タカは少し考えた後、口を開いた。
「初代管理人として伝えておこうかの、アタシの時代とお主の時代は明らかに違う。これは時代の流れ、誰にも止められん」
「時代の流れ……」
「お主が今接している幽荘の孤児は何人おる?」
「え?ネコメちゃん……一人ですね」
「お主はネコメ一人孤児だと知った時感情が渦巻いたじゃろう、孤児院もそうじゃし歴史的な孤児に対しての。おそらくそんな酷い事があるなんてと言ったとこかの」
タカは的確にモヤモヤしていた正体を掴む。
「それは今の時代じゃからの、ではアタシの時代。初代管理人として実際にあったことじゃ」
縁は息を飲む。
「お主ネコメを一とは考えまい」
「え?そりゃ一人で考えます」
「アタシは違う、管理人として受け持っていたのは平均十人が普通で日常じゃったからの。お主とは基本スタンスが違うのじゃ」
縁は声が出なかった、孤児になる子やならされる子が多い歴史と理解はしていた。だが実際の相対する人数がそれ程になるのは想像できなかったのだ。
「これは時代なんじゃ、今みたいに便利な物がすぐに見つかる事も使える事も無い。今と昔の差なんじゃ、気に病むな」
「幽荘はそんな子を受け入れる為の場所だったんですね……」
「言ったろう?それは昔なんじゃよ、今はどうじゃ?楽しく出来ておろう」
「……ハイ」
「それで良い、それがアタシらの目指した幽荘じゃよ。今日来れて本当に良かった、当時アタシらの手を溢れ救えなかった子供達に会えたでの」
話は聞きたいが、タカの家が見えてくる。
「焦らなくて良い、アタシは初代でお主は今の管理人じゃ。後は狐音に聞けば良い、もう教えてくれようぞ」
タカの家前に停まり、タカは車を降りる。
「ありがとうの今日は楽しかったわい……そうじゃちょっと待て」
タカは家に入りしばらくして出てきた、そして縁の手に何かを握らせた。
「これ……ペンダント?」
模様が複雑に装飾されてる古いペンダントだ
「アタシを守ったペンダントじゃ、それを常に着けなさい。風呂でもな、少しまた変わって来るぞい」
「……はい、着けてみます」
「それと今日狐音に聞く事をまず一つ……尻尾はあるかを聞けば良い」
「……尻尾」
縁は二回尻尾を見た、一度目は幽荘に来て狐音と初対面の時。二度目は今日の鎮魂の儀式で見えたもの。
「何を意味するかはこの後わかるよ……それじゃあありがとうの」
後ろ手を振りながらタカは家に入ってしまった。
ぐるぐると頭は台風みたいだが話せば収まるだろう、縁はまず今乗るユウメの車を軽トラに戻す為、保管場所へ向かった。
全員の送迎を完了し、軽トラに戻して幽荘に帰る。
常に人が居る時間ばかりだったせいか、一人になって寂しさが募る。
この山を抜ければ幽荘だ。
幽荘方面から煙が立ち上っている、精霊柱のお焚き上げだろう。
いつもの駐車場所に停め、燃え上がる焚き上げ台に向かう。
「ん、おかえり」
ヘビメが精霊柱を入れてる時であった。
「今、皆手分けしてるけど数多いから手伝って」
「了解です」
広範囲に設置して綺麗で厳かだったが大変だ。
「あ、お兄ちゃんお帰りなさい」
「管理人さんお疲れ様でした」
ネコメとユウメも回収に追われている。
「手伝いますよ」
「あ、調理場の方が大変かも」
ネコメから「スズメさん一人だから手伝いお願いします」とお願いされた。
「よし、じゃああっち見てくるね」
「うん!」
二人に任せて調理場に来た。
「ただいま帰りました!スズメさんどうですかこっち」
「あら、助かりますわ〜お料理の後片付け考えて無かったですもの〜うふふ」
確かに用意された品数も多かった、スズメの指示を受けながらスピードアップしていった。
しばらく集中して調理場内の皿や調理器具を洗い倒して、スズメと一息吐いた。
「うふふ、張り切りましたね〜お疲れ様です」
「いやスズメさんだってメインは儀式なのに料理から片付け、皆のフォローまで……」
「よく見て下さってて嬉しいですわ〜でも縁さんも皆の為に走り回るじゃないですか」
あまり考え無しで動いているだけなんだがなと縁は思う、ただそれを見て居る存在があるだけで頑張れる。
「鎮魂祭は如何でしたか?」
「……一言で言えば圧倒でした」
「その心は?」
「見た事ない力で確かに存在した精霊達を招いてもてなした、現代で考えられないモノに圧倒です」
「縁さんにとって忘れられない一日でしたね?」
「ええ、沢山感じて疑問もあるけどゆっくり解きたいと思ってます」
スズメは何も言わずにただ微笑む。否定も肯定も無い、感じたままで良い。そう言ってくれているように。
「さあ、調理場は私が仕上げます。縁さんは狐音さんの所に行ってくださいな」
「そうですね、帰った挨拶もまだですし」
スズメに礼を言い調理場から出る、少し探すと狐音は陣幕を片していた。
「狐音さん、無事皆を送ってきました」
「うむ、ご苦労じゃったな……よしここも終いじゃ縁よ端を持て、裏の倉庫に突っ込むぞ」
そう言えば倉庫なんて見た事が無いのだが、どこにあるのだろう。とりあえず言われるがまま幕を持ち狐音に任せる。
ずんずんと幽荘の裏と温泉の間に来たが、それらしいものが見当たらない。狐音は地面を確認している……
ガコン
突然地面の一部が開き階段が見えた。ゲームで言えばダンジョンの入り口みたいな風貌だ。
「ほれ入るぞ」
幕を持ち奥に入り込む、割と狭い。
よく見ると様々な小物が保管されている。
「驚いたか?幽荘の地下倉庫神器置き場じゃ」
神器と言う割に埃がすごいのだが、限られた幽荘のスペースならばこれは賢い。
「ふーっ今日はよくやった、疲れたのう!先風呂入らんか?」
「ふぇっ!?」
「良いではないか、後は皆に任せるのじゃ」
「はぁ……まあありがたいです」
実際縁は誰よりも早く動き出していて、疲れはある。
お言葉に甘えてしまおう。
「おーい、皆後は任せたぞー!」
はーい!
あっさりと承諾されるのが狐音がリーダーである所以だろう。
「ほれ準備出来たら温泉に入っておるのじゃ、姿見えんでも話できるじゃろ?」
どうやら温泉に浸かりながら話があるみたいだ、気持ち良さに頭へ入るのか……
とにかく入浴準備をして脱衣所に向かった。
チャプン
身体の疲れが溶け出している、気持ち良すぎて眠りそうである。
(狐音さんはまだかな?来たらわかると思うが)
縁は目を閉じて話したい内容をゆっくり整理していた、色んな事が朧げながら噛み合ってきた。
どう考えても非現実的な何かがある、そう考えた方が辻褄が合うのだ。
湯の気持ち良さに気が抜けきった時であった。
「ほう、男湯は小さいんじゃの」
バシャン!!
縁は飛び跳ねた、全く予想外に狐音が一糸纏わず居たのだ。
「な、なんでこっち来てるんですか!女湯あるじゃないですか!」
「良いではないか、折角話をするなら顔が見たいのう」
顔どころの話ではない状況に困惑しっぱなしだ。
「全くウブだけは克服せんのお主は」
恵まれたお身体を持つ美人が現れたら、ウブとかの話ではない。
「……まあええ、何から話すべきかの〜」
もうこのまま始めるつもりだ、困惑する中で縁はタカから言われていた事を先にぶつけた。
「狐音さん……」
「む?なんじゃ」
「尻尾はあるんですか?」




